SSまとめ


 ──はじまりの地、『ミラージュ・タワー』内部。

 本日は定例会見日。塔の一箇所を使い、事務的な報告を行う日であった。それ故、準備やら何やらで慌しく通路を走り抜ける職員達。

『オイ! そっち居たか!?』

 に、紛れて。赤ローブを身に纏うモルスの一員、“赤炎王”が近くに居た職員を捕まえて叫ぶ。

「いっ居ません!」
『クソッ、アイツどこに行きやがった!?』

 お礼を言う暇も無く。赤炎王は舌打ちを洩らし、通路を駆け抜ける。向かった先では、青ローブを羽織る同じくモルスの“蒼氷王”が。

『居たか!?』
『こっちには居なかったのじゃ! もしかしたら塔にはもう……』
『その辺に隠れてるかも知れねーだけだろ!? 探すぞ!』

 と、正面の道を進む赤炎王。蒼氷王は小さく頷き返すと、別の通路に進む。



 また別の場所では、光と闇のモルス。“白獅子王”と“黒魔王”が声を掛け合っていた。

『上層階も確認したが、奴は居なかった』
『我も個々の部屋を隈なく探したが……見つからない』
『貴様は奴と同じ獣な筈だ。分からないのか』
『同じにするな! 我は狼ではなく獅子だぞ!』
『どっちでもいい』

 はぁ、と溜め息を口から洩らしながら。

『今一度洗ってみるか』
『いや、奴の事だ。もう塔には居ない。それより、会見をどうするかだ』

 それもそうだな、と白獅子王は頷き。

『欠席、とはいかないしな。変に勘繰られても困る』
『開始時間を遅らせる事は出来る。それまでに現れなければ……代役を立てるしかない』
『代役。代役か……』

 無謀かと思われるが、モルスは全員素顔を隠している。ローブさえ羽織ればモルスのようには見えるのだ。

「白獅子王様! 黒魔王様!」

 代役の候補者を悩んでいると、木精霊のアルボスが飛び込んで来た。二人は一度そちらを見遣る。

「緑狼王様はいらっしゃいましたか!?」

 ──薄々勘づいていたかもしれないが。定例会見を前に失踪したのは、モルスの一員である“緑狼王”。塔を駆け巡り続けていたのだろうか、アルボスは息を切らしながら二人の前で足を止める。

「此方は発見に至っておらず、現在も引き続き捜索を」

 ……代役。

「……白獅子王様、黒魔王様?」

 二人は一度視線を交わすと、それぞれ片腕ずつガシッと掴む。当然の如く、アルボスは疑問符を頭に浮かべた。

「い、一体何を……。緑狼王様を捜さなければ……」
『その必要はない。代わりが見つかったからな』
「代わり……? ……ハッ、私ですか!?」
『そうだ。時間がない、早く歩け』
「嫌に決まってるじゃないですか! 女性のフリをしろと!?」

 暫しの静寂後。ズルズルとアルボスを近くの部屋へ。

「いや待って下さいそんな殺生なこ」





 所変わって『第14小隊』拠点内部。

「暇だな……」

 そうぼやくのはブレイド。手にしたリモコンでテレビのチャンネル変えながら、ソファーでダラダラ。他は皆予定が入っており、今日はブレイド一人だけなのだ。なので余計にダラけてしまう。

 ピッとチャンネルを変える。流れたのはニュース番組。どんな放送内容なのか、ぼーっと見つめていると。

『モルスによる定例会見の開始時刻となりましたが、若干遅れているようです。繰り返します──』

「あいつら定例会見とかやってたのか。大変だな」

 他人事のように呟き(実際他人事ではあるのだが)お菓子をパクり。まぁ、見てやるか。とチャンネルをそのままにソファーから立つ。向かう先は出入口の扉。

「あ。」

 勢いよく開ければ、扉に聞き耳を立てていた“緑狼王”ことハルドラが情けないポーズで固まっていて。

「……で、こっちに逃げて来たと」

 ハルドラは仁王立ちで腕を組みながら。

「よく分かったね〜。バレてないかと思ってたよ〜」
「流石に分かるわ。舐めんなよ」
「いつから気付いてたの? ボク結構前からここに居たけど」
「多分その時から。悪質業者が居座ってんなって思ってた。……ある意味お前も悪質業者か」
「大陸の権力者を悪質業者呼ばわりするのってキミだけだよ。ってことで、い〜れ〜て〜」
「セールスお断り。ゴーハウス」
「こらぁ!」

 両腕を上げて怒りを露わにするハルドラに、ブレイドは背を向けると中に戻る。

「ほら、早く来いよ」
「えっ、あ……、うんっ」

 てっきり追い払われたかと思ったが、アレはブレイドなりの冗談だったらしい。嬉しそうに笑みを浮かべるハルドラをソファーに座らせ、自身はコーヒーをカップに注ぐ。

「お前砂糖とか要る?」
「んー、要らないかなぁ」

 はいよ、と背中から差し出されたコップ。

「ありがとう〜」
「それ飲んだら行けよ。困ってんだろ」
「え〜」

 ソファーの背面に凭れながら、熱々のコーヒーを一口。しかし熱すぎた為に、あちっと声が洩れる。

「ふっ」
「鼻で笑わないでくれる?」
「悪い悪い」

 自身と背中合わせになるように立つブレイドに、むすっと頬を膨らませる。

「んで、何で会見すっぽかしてんだ」
「遅いイヤイヤ期に入ったんだよね〜」
「馬鹿も休み休み言え」

 ぴしゃりと告げられ、口を閉ざしてしまう。二人の間に流れるテレビの音を耳に。下を向けば、コーヒーに映る自分の顔が目に入った。

「イヤになったのは本当だよ。少し……逃げたくなった」

 期待から。失望から。

 最高責任者として向けられるあらゆるものから目を背けたくなる──。

「……なーんてねっ」

 ハルドラは少し冷めたコーヒーを一気に飲み、空のカップを手に立ち上がる。

「ボク戻るね。コーヒーありがとっ」
「おう」

 空のカップをブレイド渡し、外に向かうハルドラ。その背中に向けて名を呼ぶ。

「ハルドラ。」
「ん?」

 目をパチクリさせて振り返る。どうしたの? と声を掛けると、ブレイドはほんの少しだけ笑いながら。

「お前には頑張って貰わないと困る。共犯関係だからな」
「ふふ、なにそれっ。でも間違ってはないね」
「だろ? だから、俺のために頑張ってくれ」

 有象無象より、俺(自分)の為に。

「……」

 目を丸くしていたハルドラだったが、次の瞬間には破顔して。

「欲深いね。でもいいよっ」
「まっ、そういうわけだからな。宜しく頼むぜ、緑狼王様?」
「うわっ、似合わなっ」
「うっせ」

 扉のノブを捻り、外へ飛び出す。

「頑張るから。キミのために。だから愚痴とか聞いてよね? たまにはさ」
「気が向いたら聞いてやるよ」

 展開される転送陣。緑色の光に消えるハルドラは、嬉しそうに笑っていた。





『ただいま〜』
「緑狼王様! 良かった……助かった……」
『助かったってなにが〜?』
『つべこべ言わずに行くぞ!』
『全く。人騒がせな奴め』
『ヒューマンは誰も居ないぜ?』
『煽るでない』


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 去年からずーっと温めていたSSネタ。ブレイドとハルドラの相棒のような関係を書きたかったものです。久しぶりにフードありで書いたからか違和感が……。
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