Five Elemental Story

プロローグ
 エレメンタル大陸。
 四方を海で囲まれ、他大陸とは分断されたその大陸には、五つのエレメントと呼ばれる力が存在する。
 火、水、木、光、闇。この五つのエレメントは、大陸で生まれし全ての生命に一つずつ恩恵として与えられる。
 全ての生命。それは魔獣モンスターにも当てはまり、大半のモンスターは恩恵によって狂い、人々を襲う。
 それ故、エレメンタル大陸には多数の冒険者達が集まり、部隊の一員として戦う日々を過ごしている。

 ──これは、いつもとは何かが違う世界で、五人の冒険者達が勇者と呼ばれるまでの、物語である──


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1話 新部隊採用試験
 エレメンタル大陸、南西。
 数種類の植物が生息し、木のエレメントを宿す“森林の地”と呼ばれる地の外れ。
 人里離れた場所にぽつんと建つ一軒の家の近くに、緑の竜が空から降り立つ。
 竜の背には一人の女性が乗っており、女性は竜をその場に留まらせたまま、家へと歩み寄る。
 懐からカギを取り出し、ガチャリとドアノブを捻る。暗い廊下を進んだ先──その光景に、女性は大きな溜息を漏らした。

「また散らかして……」

 女性は脱ぎ散らかされた衣類を踏みつけながら奥へ。ソファーに横たわり、スヤスヤと眠る犯人を見下ろすと。

 バシッ‼︎
「い゛ってぇ⁉︎」

 脳天に手刀を容赦なく落とす。

「な、何すんだミリアム‼︎」
「ブレイドが起きないからでしょ? またこんなに部屋散らかして……」
「絶対声かけてないだろ。ムカついただけだろ」
「まあ、そうね」
「さっきと言ってること違うぞ」

 未だに痛む頭を摩りながら──ブレイドはソファーから起き上がった。

「ほら、朝ごはん。買ってきてあげたから食べなさいよ」

 ミリアムは帰路に着く途中で買って来たパンと牛乳が入った紙袋を渡すと、自分の分の飲み物を取りにキッチンへ。
 ブレイドはパンを頬張りながら、その様子を見ていた。

「すぐ出るのか?」
「この後も任務が入ってるのよ」
「ふぅーん、相変わらず大変だな」

 エレメンタル大陸全土に名を馳せる“暗黒騎士隊”に所属しているミリアムは、樹殺のダークナイトとも呼ばれ、日々依頼をこなしている。多忙な為に、幼なじみのブレイドと暮らすこの家に帰って来るのは一年に数回ほど。殆ど、ブレイド一人で暮らしている。

「なんか忘れ物でもあったのか?」
「これをブレイドに届けに来たのよ」

 淹れたてのコーヒーを口にしながらブレイドに一通の手紙を渡す。

「俺宛て……?」

 身に覚えが無く、不思議に思いながら封を切り、手紙に目を通す。

「……は?」

 素っ頓狂な声が上がる。手紙に記されていたのは……。

「『新部隊採用試験一次試験突破』……?」

 新たに結成される部隊の試験突破のお知らせだった。
 ブレイドはすぐにミリアムの仕業だと気づく、というかミリアムしかいないと考え、手紙を突き返す。

「俺は部隊に入る気はないからな!」

 ミリアムは動じることなく、一口コーヒーを飲み込むと「いいの?」と訊ねた。

「もしかしたら“あの子”の手掛かりが掴めるかもしれないわよ」
「……」
森林の地ここで探すより、人が多い場所の方がいいんじゃない?」

 “あの子”を引き合いに出され、ブレイドはしぶしぶ手紙を懐に押し込んだ。

「行くだけだからな」
「はいはい。せいぜい迷子にならないようにね」
「餓鬼じゃあるまいし……」

 「頑張ってね〜」と揶揄うように笑いながら、ミリアムは再び自宅を後にした。
 行ったか。と言いたげにブレイドは息を吐くと、首元に手を伸ばし、服の下に隠れていたロケットペンダントを取り出した。銀色のペンダントを開くと、一枚の写真が現れる。

「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎……」

 そこに写っているのは誰なのか。
 ブレイドはペンダントを握りしめ、祈るように瞳を閉じた。


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「ここが“はじまりの地”……」

 数日後──。エレメンタル大陸、中央。
 最低限の荷物を片手に、ブレイドは南西から中央に位置する“はじまりの地”に来ていた。
 五つの大陸の中心に存在するこの地は、種族・属性の差を超えて交流し合う場所でもある。大陸に関わる機関の本部も数多く。大陸中の部隊を管理している司令塔もここ、はじまりの地にある。
 道ゆく人々の合間を縫いながら、ブレイドは地図を確認しながら試験会場を目指していく。

 ドンッ。

 地図にばかり意識が向いていたブレイドは、横から人が来ていることに気付かず、軽くぶつかる。
 しかし、相手は運悪くバランスを崩してしまい「うわっ」と声を上げて尻餅をついてしまう。

「あ、悪い」

 手を差し伸べると、相手は「ありがと〜」と笑顔で手を掴み、助けを借りながら立ち上がった。

「ボクの方こそゴメンね〜」

 相手……獣人の女性も謝ると、急いでるからとブレイドの前から立ち去ってしまった。
 忙しそうだなとブレイドも特に気にせず、会場へと足を進めた。

「ここか。」

 歩くこと数分、会場の入り口に到着した。
 受付を済ませ、指示通りに会場内へと入る(受付には顔認証が使われていたが、すんなりと入ることが出来たのには気にしないことにした)。
 渡された資料に目を通しながら待っていると、スピーカーからまとめて番号が呼ばれ、待合室から広間へと移動し、一列に並んだ。

 今回の最終試験は、モンスターと戦う内容になっている。安全性を配慮しながら行われ、うまく立ち回れるか、などが審判によって判断される。もちろん倒しても問題は無く、その場合は合格の判定が出されやすくなっているようだ。

 なんだ、そんなことかと少しだけ落胆する。何回かモンスターと戦ったことがあるブレイドにとって、この試験内容は朝飯前。目立つのは避けたいと考え、適当にこなそうかと考えていた。

「次!」
「受験番号807です! 宜しくお願いします!」

 ブレイドの前に並んでいた男が呼ばれる。もう次かと、戦い方を見ていると。

「──ハアアッ‼︎」

 男はモンスターの突進を回避すると同時に脚を切りつけ動きを鈍らせると、覇気と共に首目掛けて一突。幻影のモンスターは一瞬でHPが0になり、掻き消えた。

 あまりの速さに、他の受験者や審判までも言葉を失う。男が「あの……」と困ったように話しかけると、審判は我に返ったようにハッとした後「い、以上だ。」と答えた。

「ありがとうございました!」

 剣を鞘に納め、特に疲れている様子も無くその場を去る男に、対抗心が沸沸と湧き上がる。

「次!」
「……受験番号1323。」
「始め!」

 腰に下げた鞘に手を当て、モンスターの初撃を抜刀しながら受け流し、体制が崩れたところを上から下に斬り裂く。
 消えていくモンスターを見ながら刀を納めると、再び唖然とする審判の言葉を待たずに立ち去った。





 はじまりの地、???にて。
 暗闇に包まれた空間に、五人のローブ姿の人物達が、試験の様子がリアルタイムで映し出されている画面を見つめている。

「……今回の試験者は、腕が立つ者が多いな。」
「そうじゃな。一つじゃ収まりきれんの。」
「こちらの手違いで一人受けてしまった者もいるが、彼の者にも所属してもらえるよう交渉しなければな」
「ったく、忙しいったらありゃしねーな?」
「仕方ないよ〜。それが、今のボク達の仕事だからね〜」

 五つの画面に映し出された五人の冒険者達。
 彼らの物語が今、始まりを迎えた。

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