スマブラ 掌編

お洗濯事情


 うららかな陽気で満ちる『アルス王城』城郭内。
 竿いっぱいに連ねた真っ白シーツが、風に揺られはたはたと翻る。
 数多の使用人に混じりパチンッパチンッとクリップでシーツを固定するのは、緑の人気者ルイージ。隣では兄のマリオが籠に積み上がるシーツの山を手に立っている。

「全く、ルイージも物好きだよな。やってくれてるんだから任せちまえばいいのに」
「そうは言っても落ち着かないんだよ」

 慣れた手つきで干していく弟に嘆息ひとつ。付き合っている自分もまた物好きだろうが。
 少しずつ陽が登り詰める空の下。赤と緑の兄弟がコツコツと洗濯物を減らしていく中――今回の騒動が勃発することに。

「こんにちはルイージさん! お話が……」
「ひっぎゃああああああああ⁉︎⁉︎」

 今し方干したシーツのシワを伸ばしていたルイージの眼前に、ぬるっと王女カムイが顔を覗かせた。突然のことにルイージはお化け退治時さながらの絶叫を辺りに轟かせ後退。

「うおっ⁉︎」

 一歩後ろでシーツが詰め込まれた籠を手にしていたマリオと衝突。踵を踏み込み倒れるのを回避するも――手が、軽い。

「あ。」

 足元に転がる籠と地面を白く染めるシーツ。
 洗い立てというのも相まって濡れたシーツに茶色のシミが付着してしまう。

「あーあ。これは洗い直しだな」
「ごめんなさいっ、お洗濯の邪魔をしてしまいました……」

 目に見えてしゅんと肩を落とすカムイに、マリオは大丈夫だと膠着するルイージの肩を引き寄せる。

「これぐらいなら綺麗になるだろ。なっ、ルイージ」
「う、うん。すぐに洗い落とせば大丈夫。カムイさんも気にしないで」

 両手を軽く振るルイージに、落としたシーツを籠に集めたマリオが声を掛ける。

「行くぞ、ルイージ」
「うん。それじゃあね、カムイさん」
「あっ……待ってください!」

 二人を引き留めたカムイは胸元に手を添え一歩前へ。

「私にもお手伝いさせてほしいです」

 兄弟は揃って顔を見合わせた。


☆★☆


 三人は城内へと戻り、ハウスキーピングルームに足を運ぶ。ここでは掃除や洗濯に使用するあらゆる道具が揃っているのだ。
 初めて足を踏み入れたカムイは二人の後ろをついて周りながら、物珍しげにしげしげと視線を左右に向ける。

「おーいっ、ちょっとここら辺借りていいか?」
「はい。もちろんです」
「ありがとな」

 忙しなく働く使用人達の邪魔にならぬよう、端のほうでマリオは籠を床に下ろす。
 その間にルイージは桶と洗剤を用意し、床に置いた桶にジャバジャバと水を入れていく。

「ルイージ、あんま汚れてないやつはどうする?」
「うーん、一回落としちゃってるから洗いたいな。でも洗濯機でいいよ」
「了解。じゃあ回すわ」

 比較的綺麗なシーツを持って行ったマリオを見送り、カムイはルイージを見遣る。

「あ、あのー、ルイージさん、私は……」
「ああ、ごめんね。カムイさんはボクと一緒にシーツの汚れを落としてくれるかい?」
「はいっ!」

 その場にしゃがむカムイは、桶と洗剤とシーツを順に見遣り――思考が停止。
 自分も汚れを落とそうと腰を落としたルイージはその様子に苦笑する。

「もしかしてカムイさん、洗濯やったことない?」
「……はい」

 指の腹同士を突き合わせる彼女に『王族だからなぁ』とひとり納得。
 教えてあげるよ、と口を開いたルイージより先に、カムイはずずいっと顔を突き出す。

「実はその件でルイージさんとお話したかったのです」
「お話……あ、」

 ルイージはカムイに話しかけられた時、話があると言いかけていたのを思い出した。

「ルイージさんはご自身やマリオさんのお洋服を洗濯していらっしゃるとお聞きしました」
「家ではいつもしていたからね。この服や帽子も色移りしやすいしさ」

 『凄いです』という視線に、気恥ずかしげに肩を縮こませる。

「た、大したことないよ。それで?」
「ぜひ私に洗濯のやり方を教えていただきたいのです! 元の世界では馴染みがなかったものですから」

 嬉々とした笑みに申し出を断れるはずもない。

「ボクで良ければ教えるよ」

 わあっと笑みを咲かせたカムイは両手を合わせ、「ありがとうございます!」と謝辞を述べる。

「よろしくお願いしますっ」
「こちらこそ。できれば、簡単な洗濯機の使い方から教えたいけど……」

 大小様々な洗濯機が並ぶエリアを見つめる。そこではすでに洗濯機を回したマリオが使用人らと談笑していた。

「……兄さんが終わらせちゃったから次やろうね。今は手洗いのやり方を教えるよ」

 ルイージの説明を食い気味に頷き、息巻いてシーツの汚れを落とし始める。

「あっカムイさん! そんなに強く擦ったら痛んじゃう」
「ああごめんなさい! ええっとこれをこうして……きゃっ。ルイージさんっ、シーツが全部桶の中に入ってしまいました!」
「大丈夫だよ、落ち着いて。一緒に絞ろう」
「はいぃぃ……」

 ドタバタと盛り上がる二人に。
 マリオは温かい眼差しを向けるのだった。
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