スマブラ 掌編
彼らを探して
事の発端は僕、ヴィルヘルム・クロイツが仕事を終えて自室に戻ろうとしていた時のお話。
「はぁ……困りましたね……」
お昼過ぎ。宰相マスター様の指示で半日休暇を取っていた僕は、城の廊下で項垂れている歩くキノコ……失礼、キノピオさんを見つけた。供をしているプリンセス・ピーチのお姿はなく、他のキノピオさんも見当たらない。
「どうかしましたか?」
「あ、ヴィルヘルムさん」
「僕で良ければ力になりますよ」
これは仕事じゃないです。趣味です。と心の中でマスター様に言い訳をしつつ、そう声を掛ける。
「ありがとうございます。わたし、マリオさんとルイージさんを探していまして……」
「マリオとルイージさん?」
「はい。ですが……お城のどこにもいらっしゃらず、困っているのです」
言われて僕はお二人のスケジュールを思い出してみる。
記憶に間違いがなければ、今日は故郷の【キノコエリア】に帰っているはず。僕はキノピオさんにその事を伝えた。
「そうですか……わたしはピーチ姫のお世話もありますし、今日は渡せそうにありませんね」
「失礼ですが、ご用事とは?」
「これをお渡ししたくて」
キノピオさんが見せたのは一通の手紙だった。一体どこから……なんて疑問はさておき。
「本日到着したピーチ姫のお荷物に紛れていました。急ぎの内容でしたらどうしようかと」
勝手に開封するわけにはいかず立ち往生していたところに僕が現れた。
運がいいのか悪いのかは分からないが、部屋に帰っても仕事をしてしまいそうだしどうせなら。
「であれば代わりに届けますよ。【キノコ王国】まで」
僕の申し出にキノピオさんはここぞとばかりに飛びついた。
――『アルスハイル王国』【キノコエリア】。
遠い世界に存在する【キノコ王国】とその周辺を基に具現化された地域。
その一角に設置された《ポータル》を使いやって来た僕は、手始めにお二人の自宅に向かう。
「どなたかいらっしゃいますかー?」
素朴なウッドハウスの扉を叩き声を掛けるが返事はない。どこかへと出かけているようだ。
いずれかは戻ってくるだろうが何時になるか……かと言って闇雲に探すのも体力を消耗するだけ。うーん、困った。
「マリオさんとルイージさんならお留守ですよ」
そう教えてくれたのは通りすがりのキノピオさん。
「町の水道管を直しに行かれました」
「ありがとうございます。行ってみます」
《統一処理》のおかげで僕という存在も違和感なく溶け込めている。
それは町に行ってからも変わらず。ひとりだけ明らかに浮いているのに不思議に思われない。
(二人はどこかな……)
ゆうゆうと探索していたところ、突然キノピオさん達の悲鳴が次々と鳴り響く。
僕のことかと一瞬焦ったが、どうやら違うらしい。
騒ぎの中心に向かえばその正体が分かった。
「クッパの息子だ! 逃げろー!」
「クッパ軍団が攻めてきたぞー!」
我先にと逃げ出すキノピオさん達の言葉に耳を傾け辺りに視線を向けていると、見慣れたクラウンに乗り込み空に退避する“彼”の姿を見つけた。追いかけようとした足を一度踏みとどまらせてみる。
キノピオさん達がいなくなり静まり返った辺りには襲撃の爪痕はない。単独だったのも併せて気になった僕は、逃げ遅れ蹲るキノピオさんに事情を聞く。
「もう、大丈夫ですよ。顔を上げてください」
「あ、あなたは……?」
「申し遅れました。『アルスハイル王国』【六大賢主】がひとり、【光の賢主 】のヴィルヘルム・クロイツと申します。よろしければ何が起きたか教えていただけますか?」
「王国の……」
それまで震えていたキノピオさんは僕の言葉に安心したのか、笑顔になった。そうしてこの数分間で起きた出来事を話してもらうことに。
「突然店にクッパの息子が来て『ケーキを寄越せ』と言ってきたんです! もちろんお断りしましたが……」
「……断ったのですか? 買いに来ただけかもしれないのに」
「そんな、売れませんよ! 悪いことばかりしているクッパ軍団に売ったと知れ渡れば、店の評判はガタ落ちです!」
言わんとしていることは分からなくもないが。僕が思っている以上に、彼等の間には深い溝があるようだ。
「とにかく落ち着くようお仲間にもお伝えください。いいですか?」
「わかりました!」
僕は光の羽を顕現し、遠く離れた空を飛行する“彼”のもとへと飛ぶ。
「Jr 様」
「うわぁっ⁉︎」
逃げられる可能性も視野に入れ正面へと回ったのは正解だった。クッパクラウンを乗りこなし緩やかに飛行していたのは、クッパ様の御子息『Jr 様』。
【乱闘部隊】ファイターの一員でもある彼とは、城で話すことも少なくない。
「ヴィル⁉︎ な、なんでここに……」
「マリオとルイージさんを探しております。お二人を見かけませんでしたか?」
「そんなの知るかよ! 知ってても教えてやらないからな!」
「……お待ちを」
この場を離れようとしたJr様を引き止める。
Jr様は「なんだよ」と言いつつも僕の声に耳を傾けてくださった。
「ケーキはよろしいのですか? 町へはケーキを買いに行かれたのですよね」
「!」
僕の言葉にJr様は大きく反応した。推察に間違いはなかったようだ。
「お、おまえには関係ないだろ! 早くどっか行け!」
「全くの無関係ではありますが、一応マネージャーですので把握はしておきたく」
「それこそ関係な――」
直後、ズドン! という地鳴りが鈍く響いた。僕達は驚き、音の発生場所を探していると。Jr様が何かを見つけた。
「ボク達の城が!」
キノコ王国からかけ離れた緋色に染まる空の下。不気味な城から火の手と煙が立ち上るのを目視する。Jr様のお言葉通り、あれは『クッパ城』に違いない。
「おとうさーん!」
脇目も降らずクラウンの速度を加速しては城への帰路を急ぐ。
ただならぬ気配に僕もJr様のあとを追うのであった。
クッパ城内部は凄まじい荒れ具合だった。団員と思わしきクリボーやノコノコらが辺りに倒れている。
それと同じぐらい至る場所に焼跡もちらほら。……もしかして、と思った僕はかろうじて意識を保つノコノコに近づく。
「もしもし、お話できますか?」
「あ、あんたは誰だ……?」
「……クリボーです」
意識が朧げなのを良いことに嘘吹けば、「クリボーか……」と疑わずに信じてもらえた。複雑な気分。
「ヤツらがきた……おまえもはやく、クッパ様をお守りしろ……ガクッ」
(口で言うんだ……)
ヤツら、に心当たりを抱きつつ。念の為に長杖を召喚。焼け焦げた赤い絨毯を走り抜ける。
少しすれば最奥へと到着。足を踏み入れた瞬間、先程別れたばかりのJr様の声が聞こえた。
「ぐ……ぐぬぉ……」
「やめろー! お父さんをいじめるな!」
「先に仕掛けてきたのはそっちだろ!」
対峙しているのは赤い帽子と緑の帽子が目印の兄弟――やはり、マリオとルイージさんだ。いないと思ったらこんなところに。奥にはクッパ様もいる。倒れてるけど。
「いいからさっさとヴィルを返せ!」
「⁉︎」
吠えるマリオから飛び出した言葉は流石に驚いた。だって僕はここにいるし。Jr様も目を丸くしている。
「なんの話だ?」
「とぼけんじゃねーよ!」
拳を振り上げたマリオに僕は思わず飛び出した。彼らの間に滑り込み、構えた長杖の柄で拳を受け止める。
「いっ――」
「あ。」
「てえええええええええ⁉︎⁉︎⁉︎」
「ごめん、マリオ」
赤くなった拳に涙目で息を吹きかけるマリオの隣、ルイージさんが僕の姿にびっくりしていた。
「ヴィル! 無事だったんだね」
「僕は初めから無事です。一体何があったのですか?」
「実は、タウンにいるキノピオからヴィルがJrの後を追ったって聞いて……」
なにやら二人は、ケーキ屋のキノピオさんにJr様を追った僕が戻ってこない。もしや誘拐されたかも。と言われ、城まで来てくれたらしい。
「なんだよ〜……。無駄にクッパ倒して損したじゃねーか」
「ムダとはなんっ……いてて……」
「お父さん大丈夫……?」
「日頃の行いが悪いせいだろ」
「申し訳ありません、クッパ様」
元を辿れば騒動の原因は僕にあるので、クッパ様の傷をある程度まで回復する(完治までしてしまうともうひと騒動起きてしまいそうなため)。
「それで、ヴィルはどうしてここに?」
ルイージさんに理由を尋ねられ、僕はキノピオさんから預かった手紙を差し出す。
「お二人宛の手紙です。プリンセス・ピーチのお荷物に紛れていたそうで」
「ボク達に? どれどれ……」
手の痛みが和らいできたマリオが手紙を開封し、読み上げる。
『本日15時からアルス城の中庭でお茶会を開催します。
くれぐれも遅刻しないように☆
ピーチ』
「……ってピーチからじゃねぇか!」
「お付きのキノピオは忘れていたんだね……」
忘れないで欲しかったなそれは。
手紙を渡してきたキノピオさんに遠い目をする。
オーバーオールの懐に手紙を入れたマリオは、苦笑するルイージさんと僕を呼ぶ。
「ルイージ、ヴィル。城に帰るぞ」
「え? あ、うん。兄さん」
「待てマリオ! このままじゃ終われんぞ……!」
「またボコられたいのかぁ?」
怒りのあまり口から火の粉がもれるクッパ様と、構え直すマリオ。
このまま放っておいてもいいが、マネージャーという立場上。ファイター同士の喧嘩で『大乱闘』の試合を欠場する可能性は潰しておきたい。
「申し訳ありませんが、決着なら『大乱闘』でお願いいたします」
「うるさい! 外野は黙ってろ!」
「そうだぞヴィル!」
「でもマリオ、今14時半だよ。急がないとプリンセス・ピーチのお茶会に遅れるけど」
僕が時計を見ながら告げれば、マリオはぐぬぬと静かになる。
続けて、クッパ様達にも声をかけてみる。
「クッパ様とJr様も参加してみませんか?」
「何を言っているのだキサマは」
「お詫びといってはなんですが、美味しいケーキ。買ってきますよ」
ケーキと聞いてJr様が僕にアイコンタクトをした。バレぬよう小さく頷き返す。あの店主キノピオさんの誤解も解いておきたいし。
「し、仕方ない。行ってやらなくもなくもないが……」
そんな息子の視線に気づいてくださったのか、クッパ様がいやいや承諾。マリオはやれやれと肩をすくめた。
「今日のお茶会は波乱の予感……」
「よろしくお願いします、ルイージさん」
「えっ何が?」
「それでは皆様はクッパ城にある《ポータル》で城へご帰還ください。僕はあとから向かいます」
「おう。また後でな」
僕はひとりキノコタウンへと踵を返し、あのケーキ屋に向かうのだった。
「ヴィル」
「、マスター様」
《ポータル》でアルス城に戻るや否や、マスター様に引き留められる。
マスター様はケーキの箱を手にする僕に深いため息をつかれた。
「あれだけ休めと言ったのにまた仕事をしているのか?」
「仕事ではありません。あくまで趣味の一環です」
答えた僕にマスター様は全く、と苦笑を浮かべられる。
「君は本当にファイター のことが好きだね」
僕は微笑んで返した。
「僕は彼らのマネージャーですから」
事の発端は僕、ヴィルヘルム・クロイツが仕事を終えて自室に戻ろうとしていた時のお話。
「はぁ……困りましたね……」
お昼過ぎ。宰相マスター様の指示で半日休暇を取っていた僕は、城の廊下で項垂れている歩くキノコ……失礼、キノピオさんを見つけた。供をしているプリンセス・ピーチのお姿はなく、他のキノピオさんも見当たらない。
「どうかしましたか?」
「あ、ヴィルヘルムさん」
「僕で良ければ力になりますよ」
これは仕事じゃないです。趣味です。と心の中でマスター様に言い訳をしつつ、そう声を掛ける。
「ありがとうございます。わたし、マリオさんとルイージさんを探していまして……」
「マリオとルイージさん?」
「はい。ですが……お城のどこにもいらっしゃらず、困っているのです」
言われて僕はお二人のスケジュールを思い出してみる。
記憶に間違いがなければ、今日は故郷の【キノコエリア】に帰っているはず。僕はキノピオさんにその事を伝えた。
「そうですか……わたしはピーチ姫のお世話もありますし、今日は渡せそうにありませんね」
「失礼ですが、ご用事とは?」
「これをお渡ししたくて」
キノピオさんが見せたのは一通の手紙だった。一体どこから……なんて疑問はさておき。
「本日到着したピーチ姫のお荷物に紛れていました。急ぎの内容でしたらどうしようかと」
勝手に開封するわけにはいかず立ち往生していたところに僕が現れた。
運がいいのか悪いのかは分からないが、部屋に帰っても仕事をしてしまいそうだしどうせなら。
「であれば代わりに届けますよ。【キノコ王国】まで」
僕の申し出にキノピオさんはここぞとばかりに飛びついた。
――『アルスハイル王国』【キノコエリア】。
遠い世界に存在する【キノコ王国】とその周辺を基に具現化された地域。
その一角に設置された《ポータル》を使いやって来た僕は、手始めにお二人の自宅に向かう。
「どなたかいらっしゃいますかー?」
素朴なウッドハウスの扉を叩き声を掛けるが返事はない。どこかへと出かけているようだ。
いずれかは戻ってくるだろうが何時になるか……かと言って闇雲に探すのも体力を消耗するだけ。うーん、困った。
「マリオさんとルイージさんならお留守ですよ」
そう教えてくれたのは通りすがりのキノピオさん。
「町の水道管を直しに行かれました」
「ありがとうございます。行ってみます」
《統一処理》のおかげで僕という存在も違和感なく溶け込めている。
それは町に行ってからも変わらず。ひとりだけ明らかに浮いているのに不思議に思われない。
(二人はどこかな……)
ゆうゆうと探索していたところ、突然キノピオさん達の悲鳴が次々と鳴り響く。
僕のことかと一瞬焦ったが、どうやら違うらしい。
騒ぎの中心に向かえばその正体が分かった。
「クッパの息子だ! 逃げろー!」
「クッパ軍団が攻めてきたぞー!」
我先にと逃げ出すキノピオさん達の言葉に耳を傾け辺りに視線を向けていると、見慣れたクラウンに乗り込み空に退避する“彼”の姿を見つけた。追いかけようとした足を一度踏みとどまらせてみる。
キノピオさん達がいなくなり静まり返った辺りには襲撃の爪痕はない。単独だったのも併せて気になった僕は、逃げ遅れ蹲るキノピオさんに事情を聞く。
「もう、大丈夫ですよ。顔を上げてください」
「あ、あなたは……?」
「申し遅れました。『アルスハイル王国』【六大賢主】がひとり、【
「王国の……」
それまで震えていたキノピオさんは僕の言葉に安心したのか、笑顔になった。そうしてこの数分間で起きた出来事を話してもらうことに。
「突然店にクッパの息子が来て『ケーキを寄越せ』と言ってきたんです! もちろんお断りしましたが……」
「……断ったのですか? 買いに来ただけかもしれないのに」
「そんな、売れませんよ! 悪いことばかりしているクッパ軍団に売ったと知れ渡れば、店の評判はガタ落ちです!」
言わんとしていることは分からなくもないが。僕が思っている以上に、彼等の間には深い溝があるようだ。
「とにかく落ち着くようお仲間にもお伝えください。いいですか?」
「わかりました!」
僕は光の羽を顕現し、遠く離れた空を飛行する“彼”のもとへと飛ぶ。
「
「うわぁっ⁉︎」
逃げられる可能性も視野に入れ正面へと回ったのは正解だった。クッパクラウンを乗りこなし緩やかに飛行していたのは、クッパ様の御子息『
【乱闘部隊】ファイターの一員でもある彼とは、城で話すことも少なくない。
「ヴィル⁉︎ な、なんでここに……」
「マリオとルイージさんを探しております。お二人を見かけませんでしたか?」
「そんなの知るかよ! 知ってても教えてやらないからな!」
「……お待ちを」
この場を離れようとしたJr様を引き止める。
Jr様は「なんだよ」と言いつつも僕の声に耳を傾けてくださった。
「ケーキはよろしいのですか? 町へはケーキを買いに行かれたのですよね」
「!」
僕の言葉にJr様は大きく反応した。推察に間違いはなかったようだ。
「お、おまえには関係ないだろ! 早くどっか行け!」
「全くの無関係ではありますが、一応マネージャーですので把握はしておきたく」
「それこそ関係な――」
直後、ズドン! という地鳴りが鈍く響いた。僕達は驚き、音の発生場所を探していると。Jr様が何かを見つけた。
「ボク達の城が!」
キノコ王国からかけ離れた緋色に染まる空の下。不気味な城から火の手と煙が立ち上るのを目視する。Jr様のお言葉通り、あれは『クッパ城』に違いない。
「おとうさーん!」
脇目も降らずクラウンの速度を加速しては城への帰路を急ぐ。
ただならぬ気配に僕もJr様のあとを追うのであった。
クッパ城内部は凄まじい荒れ具合だった。団員と思わしきクリボーやノコノコらが辺りに倒れている。
それと同じぐらい至る場所に焼跡もちらほら。……もしかして、と思った僕はかろうじて意識を保つノコノコに近づく。
「もしもし、お話できますか?」
「あ、あんたは誰だ……?」
「……クリボーです」
意識が朧げなのを良いことに嘘吹けば、「クリボーか……」と疑わずに信じてもらえた。複雑な気分。
「ヤツらがきた……おまえもはやく、クッパ様をお守りしろ……ガクッ」
(口で言うんだ……)
ヤツら、に心当たりを抱きつつ。念の為に長杖を召喚。焼け焦げた赤い絨毯を走り抜ける。
少しすれば最奥へと到着。足を踏み入れた瞬間、先程別れたばかりのJr様の声が聞こえた。
「ぐ……ぐぬぉ……」
「やめろー! お父さんをいじめるな!」
「先に仕掛けてきたのはそっちだろ!」
対峙しているのは赤い帽子と緑の帽子が目印の兄弟――やはり、マリオとルイージさんだ。いないと思ったらこんなところに。奥にはクッパ様もいる。倒れてるけど。
「いいからさっさとヴィルを返せ!」
「⁉︎」
吠えるマリオから飛び出した言葉は流石に驚いた。だって僕はここにいるし。Jr様も目を丸くしている。
「なんの話だ?」
「とぼけんじゃねーよ!」
拳を振り上げたマリオに僕は思わず飛び出した。彼らの間に滑り込み、構えた長杖の柄で拳を受け止める。
「いっ――」
「あ。」
「てえええええええええ⁉︎⁉︎⁉︎」
「ごめん、マリオ」
赤くなった拳に涙目で息を吹きかけるマリオの隣、ルイージさんが僕の姿にびっくりしていた。
「ヴィル! 無事だったんだね」
「僕は初めから無事です。一体何があったのですか?」
「実は、タウンにいるキノピオからヴィルがJrの後を追ったって聞いて……」
なにやら二人は、ケーキ屋のキノピオさんにJr様を追った僕が戻ってこない。もしや誘拐されたかも。と言われ、城まで来てくれたらしい。
「なんだよ〜……。無駄にクッパ倒して損したじゃねーか」
「ムダとはなんっ……いてて……」
「お父さん大丈夫……?」
「日頃の行いが悪いせいだろ」
「申し訳ありません、クッパ様」
元を辿れば騒動の原因は僕にあるので、クッパ様の傷をある程度まで回復する(完治までしてしまうともうひと騒動起きてしまいそうなため)。
「それで、ヴィルはどうしてここに?」
ルイージさんに理由を尋ねられ、僕はキノピオさんから預かった手紙を差し出す。
「お二人宛の手紙です。プリンセス・ピーチのお荷物に紛れていたそうで」
「ボク達に? どれどれ……」
手の痛みが和らいできたマリオが手紙を開封し、読み上げる。
『本日15時からアルス城の中庭でお茶会を開催します。
くれぐれも遅刻しないように☆
ピーチ』
「……ってピーチからじゃねぇか!」
「お付きのキノピオは忘れていたんだね……」
忘れないで欲しかったなそれは。
手紙を渡してきたキノピオさんに遠い目をする。
オーバーオールの懐に手紙を入れたマリオは、苦笑するルイージさんと僕を呼ぶ。
「ルイージ、ヴィル。城に帰るぞ」
「え? あ、うん。兄さん」
「待てマリオ! このままじゃ終われんぞ……!」
「またボコられたいのかぁ?」
怒りのあまり口から火の粉がもれるクッパ様と、構え直すマリオ。
このまま放っておいてもいいが、マネージャーという立場上。ファイター同士の喧嘩で『大乱闘』の試合を欠場する可能性は潰しておきたい。
「申し訳ありませんが、決着なら『大乱闘』でお願いいたします」
「うるさい! 外野は黙ってろ!」
「そうだぞヴィル!」
「でもマリオ、今14時半だよ。急がないとプリンセス・ピーチのお茶会に遅れるけど」
僕が時計を見ながら告げれば、マリオはぐぬぬと静かになる。
続けて、クッパ様達にも声をかけてみる。
「クッパ様とJr様も参加してみませんか?」
「何を言っているのだキサマは」
「お詫びといってはなんですが、美味しいケーキ。買ってきますよ」
ケーキと聞いてJr様が僕にアイコンタクトをした。バレぬよう小さく頷き返す。あの店主キノピオさんの誤解も解いておきたいし。
「し、仕方ない。行ってやらなくもなくもないが……」
そんな息子の視線に気づいてくださったのか、クッパ様がいやいや承諾。マリオはやれやれと肩をすくめた。
「今日のお茶会は波乱の予感……」
「よろしくお願いします、ルイージさん」
「えっ何が?」
「それでは皆様はクッパ城にある《ポータル》で城へご帰還ください。僕はあとから向かいます」
「おう。また後でな」
僕はひとりキノコタウンへと踵を返し、あのケーキ屋に向かうのだった。
「ヴィル」
「、マスター様」
《ポータル》でアルス城に戻るや否や、マスター様に引き留められる。
マスター様はケーキの箱を手にする僕に深いため息をつかれた。
「あれだけ休めと言ったのにまた仕事をしているのか?」
「仕事ではありません。あくまで趣味の一環です」
答えた僕にマスター様は全く、と苦笑を浮かべられる。
「君は本当に
僕は微笑んで返した。
「僕は彼らのマネージャーですから」