スマブラ 掌編
まっくろなキミと
それは、とある日の午前中に起きた小さな出来事。
「皆様お疲れ様でした」
スタジアム内部に位置するシステム制御室にて。
今し方『大乱闘』を終え、ステージから帰還したファイターらをヴィルヘルムが出迎えた。
メンバーはデイジー、リヒター、しずえの新参者に加え、古株のゲーム&ウォッチ――通称『ゲムヲ』の四人。本日の個人戦を制したのは、ゲムヲだった。
「さすが先輩といったところだな」
「見事な立ち回りでしたね」
「動きが分かりづらいのは反則よね〜……」
リヒター、しずえ、デイジーが口々に話すのを、ゲムヲは嬉しげに聞いていた。
そして、唯一の会話手段である電子音をピコピコと発するが、彼らは一様に小首を傾げる。
伝わらないと判断するや否や、ゲムヲは傍に佇むヴィルヘルムを見上げた。
「……どうやらゲムヲは、『みんなも凄かった』と言っているようです」
「分かるのか⁉︎」
「それなりにマネージャーしてますから」
話しているうちにも、ゲムヲはヴィルヘルムに何かを伝えている。側からすれば何を伝えたいのか全く理解不能だが、ヴィルヘルムは正確にゲムヲの言葉を汲み取る。
「訳しますね……しずえさんの釣竿はズルいと思った」
「自慢のつりざおですからね!」
「プリンセス・デイジーの明るい声は元気をもらえる」
「嬉しいこと言ってくれるじゃない」
「リヒターさんの鞭は痛い」
「そりゃあ鞭だしな……」
思い思いの反応に気分を良くした様子のゲムヲ。
それから、制御室から城へと続く『ポータル』設置場所に向かう一行。
道中リヒターは、お見送りするヴィルヘルムに尋ねた。
「お前はあの音をどう判別してるんだ? 法則とかなんかあるのか?」
その問いに、ゆっくりと首を横に振る。
「法則なんてものはありません。こればかりは慣れと言うべきか……」
ヴィルヘルムは遠き日の出来事を追憶した。
ここまで悪戦苦闘したのは久方ぶりかもしれない――【乱闘部隊】マネージャー、ヴィルヘルムはそう眉間に皺を寄せた。
目の前にはゲムヲと名付けられた謎の存在。あまりにも薄い体は、正面ではなく横を向いている。そうでなければただの『線』にしか見えないからだ。
ヴィルヘルムは彼と向き合いながら、発せられた電子音 に集中する。
「『こんにちは』?」
「いや、『何してるの?』だな」
「……『次は何するのかな』」
「『暇だなぁ』」
「なんでそんなに分かるんですか!」
傍らで翻訳するマスター に声を荒げる。
無茶、無謀、無意味。ただのピコピコ音から意思を読み取るなんて無理だ。むっと口を曲げる部下に、マスターは片笑む。
「何か法則とかないのでしょうか?」
「『ないと思う』。だ、そうだ」
「う……」
顔を歪めるヴィルヘルムの肩を、マスターは優しく包む。
「いずれ分かるようになるさ。理解したいと本気で思えば」
――あれから共に過ごした甲斐もあり、ヴィルヘルムはマスター同様完璧にゲムヲ言語を理解した。
「ねえ、ヴィル。何かゲムヲの言葉を理解する方法はないの?」
デイジーの問いかけに、ヴィルヘルムは追憶から現実へと戻る。
「出来れば、簡単な方法がいいわね」
「おいおいそんな上手い話が……」
「ありますよ」
と、自らの《スマデバイス》の画面を一同に見せる。
「この翻訳アプリにゲムヲ言語解析モードがありますので、こちらをお使いください」
――実は、あまりにも理解できないということでファイター達が困らぬよう、マスターが制作していたのだ。
「あるんかい」
「早く言ってちょうだいよ!」
「早速使ってみますね〜」
ゲムヲを囲み、わいわいと賑わう彼ら。
ヴィルヘルムは一歩後ろからその様子を微笑ましげに見守っていた。
モノクロの世界から飛び出した寂しがり屋の子を。
それは、とある日の午前中に起きた小さな出来事。
「皆様お疲れ様でした」
スタジアム内部に位置するシステム制御室にて。
今し方『大乱闘』を終え、ステージから帰還したファイターらをヴィルヘルムが出迎えた。
メンバーはデイジー、リヒター、しずえの新参者に加え、古株のゲーム&ウォッチ――通称『ゲムヲ』の四人。本日の個人戦を制したのは、ゲムヲだった。
「さすが先輩といったところだな」
「見事な立ち回りでしたね」
「動きが分かりづらいのは反則よね〜……」
リヒター、しずえ、デイジーが口々に話すのを、ゲムヲは嬉しげに聞いていた。
そして、唯一の会話手段である電子音をピコピコと発するが、彼らは一様に小首を傾げる。
伝わらないと判断するや否や、ゲムヲは傍に佇むヴィルヘルムを見上げた。
「……どうやらゲムヲは、『みんなも凄かった』と言っているようです」
「分かるのか⁉︎」
「それなりにマネージャーしてますから」
話しているうちにも、ゲムヲはヴィルヘルムに何かを伝えている。側からすれば何を伝えたいのか全く理解不能だが、ヴィルヘルムは正確にゲムヲの言葉を汲み取る。
「訳しますね……しずえさんの釣竿はズルいと思った」
「自慢のつりざおですからね!」
「プリンセス・デイジーの明るい声は元気をもらえる」
「嬉しいこと言ってくれるじゃない」
「リヒターさんの鞭は痛い」
「そりゃあ鞭だしな……」
思い思いの反応に気分を良くした様子のゲムヲ。
それから、制御室から城へと続く『ポータル』設置場所に向かう一行。
道中リヒターは、お見送りするヴィルヘルムに尋ねた。
「お前はあの音をどう判別してるんだ? 法則とかなんかあるのか?」
その問いに、ゆっくりと首を横に振る。
「法則なんてものはありません。こればかりは慣れと言うべきか……」
ヴィルヘルムは遠き日の出来事を追憶した。
ここまで悪戦苦闘したのは久方ぶりかもしれない――【乱闘部隊】マネージャー、ヴィルヘルムはそう眉間に皺を寄せた。
目の前にはゲムヲと名付けられた謎の存在。あまりにも薄い体は、正面ではなく横を向いている。そうでなければただの『線』にしか見えないからだ。
ヴィルヘルムは彼と向き合いながら、発せられた
「『こんにちは』?」
「いや、『何してるの?』だな」
「……『次は何するのかな』」
「『暇だなぁ』」
「なんでそんなに分かるんですか!」
傍らで翻訳する
無茶、無謀、無意味。ただのピコピコ音から意思を読み取るなんて無理だ。むっと口を曲げる部下に、マスターは片笑む。
「何か法則とかないのでしょうか?」
「『ないと思う』。だ、そうだ」
「う……」
顔を歪めるヴィルヘルムの肩を、マスターは優しく包む。
「いずれ分かるようになるさ。理解したいと本気で思えば」
――あれから共に過ごした甲斐もあり、ヴィルヘルムはマスター同様完璧にゲムヲ言語を理解した。
「ねえ、ヴィル。何かゲムヲの言葉を理解する方法はないの?」
デイジーの問いかけに、ヴィルヘルムは追憶から現実へと戻る。
「出来れば、簡単な方法がいいわね」
「おいおいそんな上手い話が……」
「ありますよ」
と、自らの《スマデバイス》の画面を一同に見せる。
「この翻訳アプリにゲムヲ言語解析モードがありますので、こちらをお使いください」
――実は、あまりにも理解できないということでファイター達が困らぬよう、マスターが制作していたのだ。
「あるんかい」
「早く言ってちょうだいよ!」
「早速使ってみますね〜」
ゲムヲを囲み、わいわいと賑わう彼ら。
ヴィルヘルムは一歩後ろからその様子を微笑ましげに見守っていた。
モノクロの世界から飛び出した寂しがり屋の子を。
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