スマブラ 掌編
君はもう独りじゃない
その日“も”、空は青く澄み切っていた。
【光の賢主】だからか因果関係は分からないけど、何か重大な出来事がある日は必ずと言っていいほどに晴れている。
苦しくて、悔しくて、枯れるほどに泣いた『運命の日』にも。
変わらず空は、青色を映していた。
僕のこの、穢れに満ち溢れた絶望 とは裏腹に。
……でも、今は少しだけ違うんだ。
だってこの心は、あの青空のように晴れたりしないから。
独りになったあの日の僕。見えているかな?
僕 はもう──……。
★☆★
「なるほど……日頃のご愛顧を込めて、特別イベントを企画してはどうかと」
宰相、マスターの執務室。
執務机に両肘をつけ、組んだ手のひらの上に顎を乗せながら、マスターは視線だけを──机を挟んで対面する『乱闘部署』所属のヴィルヘルムに向ける。
「ああ。『大乱闘』を始めてからそれなりに時間も経つ。毎回、観客の脚が絶えないのも有難い限りだからな。ここでひとつ、催しをしても良いのではないかと思ってね」
マスターの提案にヴィルヘルムは暫し思案したのち、「承知いたしました」と返答。
「企画内容を、『大乱闘』関連グッズを中心に幾つか考えてみます」
マスターと長い付き合いのヴィルヘルムは、彼が自分に何を求めているのかわざわざ尋ねなくとも理解していた。
『大乱闘システム』を用いた企画であれば、機械技師の彼から「こんな企画はどうだろうか」と相談するはず。しかしながら今回は、企画内容を丸ごと自分に任せた。ならば、と執務室をあとにして部室に向かったヴィルヘルムは、パソコンを開いて企画書を制作し始める。
もともと『大乱闘』関連のグッズは(本人の了承を得て)幾つか発売されている。ファイター達の宣材写真を基に作られたフィギュア、ファイター大集結のポストカード、ステージに使用されている楽曲を収録したCD、スマブラマークのキーホルダーなどなど……。この他にも、ファイターの故郷で暮らす人々から要望があれば、アクリル系グッズやぬいぐるみ、カード等も販売しているのだ。
(それらを『大乱闘』イメージのグッズに活かせないかな?)
ヴィルヘルムはキーボードを打ち始める。
『大乱闘』にまつわるシステムの紹介をまとめた冊子、試合のリプライから厳選した写真のアクリルブロック、普段使いしやすいアパレル系のグッズ、ロゴのステッカー……そして、ファイター達にも好評だった特製ティーカップとソーサーのセット。
埋まっていくグッズ案に、ヴィルヘルムはひとりハッと気づいては羞恥心に襲われる。
次から次へと案が浮かんでくるということは──自分もまた、『大乱闘』とファイターが好きであるという証なのだから。
(ああ……懐かしいな)
画面に映し出されていたのは、第一回『大乱闘』トーナメント戦の画像。裏でマスターと密に取引がされていたとはつゆ知らず──マリオが戦いを制し、【乱闘部隊】リーダーに就任したあの、輝かしい歴史が刻まれた日。
その頃の自分はまだ、ファイター達との距離感を測りかねて、元の世界で活躍した彼らを羨ましく、疎ましく思っては自己嫌悪に苛まれて。それでも、彼らが持つ輝きは僕の瞳にも……。
いつしか、一線を引いていた僕とファイターの距離は近づいた。
僕を“マネージャー”として信頼を寄せてくれるようになった。
少し前の自分なら望んでいなかっただろうに、僕はそれを当たり前のように受け取った。
そうして僕の絶望は形を変える。
──リィンドォン……。
暁鐘の鐘の音は響く。
世界の果てに、空の彼方に、霧の中に、僕の心にも。
『ヴィル!』
瞑目して耳を傾けていた彼は瞼をゆっくりと開く。声は室内からではなく、窓の外から聞こえた。
ヴィルヘルムが背後を振り返ると、ワープスターに乗ったカービィとマリオが笑顔で何かを伝えようとしている。仲睦まじい光景……かと思えば、軽口の言い合いが始まった。少年はガラスしに一笑すると、その窓を開けて。
「もう、何してるの二人とも。僕を呼びに来たんじゃないの?」
呆れ顔──の裏に親しみを込めて、声をかける。
マリオとカービィはそれまで小競り合いをしていたのが嘘のように顔を見合って、同時にしたり顔を浮かべ、手を伸ばす──窓縁に佇む少年に向けて。
「えっ」
虚を突かれたヴィルヘルムはなされるがままに、窓の外へ飛び出してはワープスターの上へ。
「よしっ! カービィ!」
「いっくよ〜‼︎」
「ええ⁉︎ まっ、仕事……」
カービィの声にワープスターは流星の如く尾を引いて発進。ヴィルヘルムが『乱闘部署』室に手を伸ばす頃には手の届かぬ遠くの景色へ。
「……、マーリオ〜」
「まあまあたまには、なっ!」
肩を抱き寄せ、ニッと歯を見せて笑うマリオに、もうと眉を八の字にして微苦笑。
「で、どこに向かってるの?」
「わかんない!」
意気揚々と答えたカービィにうんうんと頷くマリオ。
普段なら嗜めるヴィルヘルムも、この時ばかりは燦々と地上を照らす太陽を見上げては手を翳して。
「でも──気持ちいいね」
さあっと吹く風に身を委ね、自然と笑みが溢れる。
そんな少年に、マリオも、カービィも。同じく微笑んで。
……ほら、また鐘の音が聞こえた。
物語の訪れを知らせる音色が。
その日“も”、空は青く澄み切っていた。
【光の賢主】だからか因果関係は分からないけど、何か重大な出来事がある日は必ずと言っていいほどに晴れている。
苦しくて、悔しくて、枯れるほどに泣いた『運命の日』にも。
変わらず空は、青色を映していた。
僕のこの、穢れに満ち溢れた
……でも、今は少しだけ違うんだ。
だってこの心は、あの青空のように晴れたりしないから。
独りになったあの日の僕。見えているかな?
「なるほど……日頃のご愛顧を込めて、特別イベントを企画してはどうかと」
宰相、マスターの執務室。
執務机に両肘をつけ、組んだ手のひらの上に顎を乗せながら、マスターは視線だけを──机を挟んで対面する『乱闘部署』所属のヴィルヘルムに向ける。
「ああ。『大乱闘』を始めてからそれなりに時間も経つ。毎回、観客の脚が絶えないのも有難い限りだからな。ここでひとつ、催しをしても良いのではないかと思ってね」
マスターの提案にヴィルヘルムは暫し思案したのち、「承知いたしました」と返答。
「企画内容を、『大乱闘』関連グッズを中心に幾つか考えてみます」
マスターと長い付き合いのヴィルヘルムは、彼が自分に何を求めているのかわざわざ尋ねなくとも理解していた。
『大乱闘システム』を用いた企画であれば、機械技師の彼から「こんな企画はどうだろうか」と相談するはず。しかしながら今回は、企画内容を丸ごと自分に任せた。ならば、と執務室をあとにして部室に向かったヴィルヘルムは、パソコンを開いて企画書を制作し始める。
もともと『大乱闘』関連のグッズは(本人の了承を得て)幾つか発売されている。ファイター達の宣材写真を基に作られたフィギュア、ファイター大集結のポストカード、ステージに使用されている楽曲を収録したCD、スマブラマークのキーホルダーなどなど……。この他にも、ファイターの故郷で暮らす人々から要望があれば、アクリル系グッズやぬいぐるみ、カード等も販売しているのだ。
(それらを『大乱闘』イメージのグッズに活かせないかな?)
ヴィルヘルムはキーボードを打ち始める。
『大乱闘』にまつわるシステムの紹介をまとめた冊子、試合のリプライから厳選した写真のアクリルブロック、普段使いしやすいアパレル系のグッズ、ロゴのステッカー……そして、ファイター達にも好評だった特製ティーカップとソーサーのセット。
埋まっていくグッズ案に、ヴィルヘルムはひとりハッと気づいては羞恥心に襲われる。
次から次へと案が浮かんでくるということは──自分もまた、『大乱闘』とファイターが好きであるという証なのだから。
(ああ……懐かしいな)
画面に映し出されていたのは、第一回『大乱闘』トーナメント戦の画像。裏でマスターと密に取引がされていたとはつゆ知らず──マリオが戦いを制し、【乱闘部隊】リーダーに就任したあの、輝かしい歴史が刻まれた日。
その頃の自分はまだ、ファイター達との距離感を測りかねて、元の世界で活躍した彼らを羨ましく、疎ましく思っては自己嫌悪に苛まれて。それでも、彼らが持つ輝きは僕の瞳にも……。
いつしか、一線を引いていた僕とファイターの距離は近づいた。
僕を“マネージャー”として信頼を寄せてくれるようになった。
少し前の自分なら望んでいなかっただろうに、僕はそれを当たり前のように受け取った。
そうして僕の絶望は形を変える。
──リィンドォン……。
暁鐘の鐘の音は響く。
世界の果てに、空の彼方に、霧の中に、僕の心にも。
『ヴィル!』
瞑目して耳を傾けていた彼は瞼をゆっくりと開く。声は室内からではなく、窓の外から聞こえた。
ヴィルヘルムが背後を振り返ると、ワープスターに乗ったカービィとマリオが笑顔で何かを伝えようとしている。仲睦まじい光景……かと思えば、軽口の言い合いが始まった。少年はガラスしに一笑すると、その窓を開けて。
「もう、何してるの二人とも。僕を呼びに来たんじゃないの?」
呆れ顔──の裏に親しみを込めて、声をかける。
マリオとカービィはそれまで小競り合いをしていたのが嘘のように顔を見合って、同時にしたり顔を浮かべ、手を伸ばす──窓縁に佇む少年に向けて。
「えっ」
虚を突かれたヴィルヘルムはなされるがままに、窓の外へ飛び出してはワープスターの上へ。
「よしっ! カービィ!」
「いっくよ〜‼︎」
「ええ⁉︎ まっ、仕事……」
カービィの声にワープスターは流星の如く尾を引いて発進。ヴィルヘルムが『乱闘部署』室に手を伸ばす頃には手の届かぬ遠くの景色へ。
「……、マーリオ〜」
「まあまあたまには、なっ!」
肩を抱き寄せ、ニッと歯を見せて笑うマリオに、もうと眉を八の字にして微苦笑。
「で、どこに向かってるの?」
「わかんない!」
意気揚々と答えたカービィにうんうんと頷くマリオ。
普段なら嗜めるヴィルヘルムも、この時ばかりは燦々と地上を照らす太陽を見上げては手を翳して。
「でも──気持ちいいね」
さあっと吹く風に身を委ね、自然と笑みが溢れる。
そんな少年に、マリオも、カービィも。同じく微笑んで。
……ほら、また鐘の音が聞こえた。
物語の訪れを知らせる音色が。
11/11ページ