悪い子へのクリスマスプレゼント


 年末が近づき、先生も忙しなく働くという意味合いの師走12月上旬。
 赤いシルクのリボンと大小様々なクリスマスツリーが軒並を彩る中、アルス城に住まう【乱闘部隊】所属の子供達は浮足立っていた。

「この世界にもクリスマスの文化があったなんて驚きだよ!」

 中でもPSIを駆使する少年、ネスが人一倍胸を高鳴らせる一方。比例するかの如く気を落とすのは彼の良き理解者でもあるリュカ。

「ご機嫌だね、ネス」
「うんっ! なんだってぼくが一年で一番楽しみといってもいいイベントだからね」

 ネスの家は隣人からお金を借入れるほど貧困層に属しながら、家族の絆はかなり深い。毎年、クリスマスの日には出稼ぎに世界中を旅する父親も帰宅してはささやかなパーティーを行うという。
 意気揚々と語るネスの隣で、リュカは胸元を握りしめながら「そう……」と呟くのでいっぱいいっぱいだった。何故なら彼の家族は──。



「……その話、ほんとうなの?」

 時は過ぎ、日を跨いだ数日後。
 マネージャーのヴィルヘルムの自室を訪れたネスは、今し方語られた真実に受け入れ難いと呆けていた。
 対するヴィルヘルムはあくまで冷静に頷く。

「本当だよ。リュカの家族は彼がまだ小さい頃に崩壊している」

 自身が家族のことを話すのに連れて表情を曇らせるリュカに疑問を抱き、ヴィルヘルムに相談してみたネスだったが子供には些か酷な内容に理解が追いつかない。
 リュカの母親は怪物に殺され、敵を取ろうとした双子の兄も行方知らずとなった上に……偽りの生を与えられリュカの前に立ちはだかった。そんな状況ではとても自分の家族の話など聞きたくなかっただろうに。リュカの優しさに甘んじていた自分が恥ずかしくなってきた。

「リュカはクリスマス嫌いなままなのかな……」

 そんな裏事情があるなら嫌いになるのも仕方ない。
 しかしヴィルヘルムは考えるそぶりを見せた。

「……これは僕の持論だけど」
「?」
「クリスマスを好きにさせることは、出来るんじゃないかな」

 その一言に落ち込んでいたネスはぱあっと顔を綻ばせた。

「そうだね……そうだよね! クリスマスを迎えたいって思えるような日にしてみせるよ!」

 子供の立ち直り、発想力は共に強い。現実を知り尽くした大人にはない強みだ。
 善は急げと言いたげに部屋を後にする少年を、ヴィルヘルムは笑顔で見送った。

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