スマブラ 掌編

※第一部『エピローグDX』が舞台です。

 頭上に高々と掲げられた杯が至る箇所でカチンッと音を響かせ、食堂は明るい喧騒に満ちる。
 ずらりと並べられたご馳走様のテーブルから少し離れた場所。ひとり、ヴィルヘルムは頬杖をつきながら肩を組み笑い合うファイター達の顔ぶれを丁寧に焼き付けていた。

「よっ、ヴィル」
「マリオ」
「水ならどうかと思ってな」

 グラスに水を注いだマリオから受け取ると、口に含む。ヴィルヘルムはその異質な体質から、まともに食事を楽しむことができないのだがそれは水には適用されない様子。

「ありがとう」
「どういたしまして。……何をしていたんだ?」

 隣に腰を落ち着かせたマリオはヴィルヘルムのほうを向きながら同じく頬杖をつき、優しい声音で問う。
 んー、と微笑んだ少年は、脳裏に過ぎる光景と目の前の景色を重ねた。

「思い出していたんだ、昔のこと。こういう時があったなぁって」

 今は亡き王国の道標。それを知る術はマリオにはなく、ただ「そうか」とだけ返すことしかできない。

「……もし上手くいっていたらこんな風に喜べたのかな」

 哀愁を帯びた瞳で睫毛を揺らすヴィルヘルムにマリオは口を開きかけるも。

「あはは、なんてね。ちょっと場の雰囲気に酔っちゃったみたい。外の空気でも吸ってくるよ」

 一転、笑みを浮かべたヴィルヘルムはバルコニーへと向かう。
 マリオは眉を顰めながら見送るも、彼が何も羽織らないでバルコニーに出たことに慌てた。耐性があるとは言え冷えるだろうと、羽織るものを探しに急いで席を立ったのだった。

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