スマブラ 掌編

王女様の勘違い騒ぎ


「助けてくださいルフレさん!」

 邂逅開口一番。
 城の一角でルキナと鉢合わせたルフレは、突然のことに目を見開く。
 見たところ誰かに追われている様子はない。となれば、緊急を要する別の案件か?

「どうしたんだい、ルキナ。僕で良ければ力になるよ」
「ありがとうございます。実は……」

 ルキナは手にしていた綺麗な便箋を差し出した。
 読んでもいいのかと目線で伝えると、肯定するように頷く。

「『本日の午後3時、城のテラスにてお茶会を開催します。良かったら来てね。お茶会部一同』……」

 お茶会部、とは。ルフレ、ルキナなどの多くの戦士が所属する【乱闘部隊】メンバーで発足した自主的な集まりのことを指す。主にピーチやゼルダがメインである。

「特段、問題点はなさそうだけど?」

 そう。普通のお誘いだ。
 強いて言うなら、今日のお誘いなら口頭でも良かったのではと思うぐらいに留まる。
 しかしながら、ルフレは失念していた。

「私、お茶会に着ていけるようなドレスを持っていません……」

 幼少期までは彼女も、しっかり王族としての『教育』を受けていたことに。

「……ドレス?」
「はい。それに私、まだデビュタントもなく……」
(お茶会を社交会と勘違いしてる? だが……)

 いつになく真剣なルキナに釣られ、ルフレも眉を顰める。
 元の世界からの仲間とはいえ、彼女と自分には身分の差というものがある。自分の価値観だけで判断するのは、却って恥をかかせてしまうのではないか?
 もしかしたらピーチ姫達も、そのつもりでルキナを誘っている可能性も……考えられなくはない。

(さて、困ったな)

 ルキナもルフレも、お茶会の様子を一度も目にしていないのが仇となっている。

「お茶会となれば、エスコート役も必要になりますし……ルフレさんはどれから取り掛かるべきだと思いますか?」
「そうだね……あっ」
「ルフレさん?」

 前触れもなく歩き出したルフレは、偶然通りかかったマネージャーのヴィルヘルムを呼び止めた。

「ヴィル、少しいいかな?」
「ルフレ様、少しなら大丈夫ですよ。いかがいたしましたか?」

 ヴィルヘルムは腕時計をちらりと確認すると、小首をかしげる。

「実は、ルキナがピーチ姫達のお茶会に招待されて……」
「ドレスはどうしようかと悩んでいたところなのです」
「……ドレス?」
(同じ反応してるな……)

 ルフレの隣に並んだルキナの表情から、何かを察したヴィルヘルムは「大丈夫ですよ」と微笑む。

「ピーチさん達のお茶会に堅苦しい作法は必要ありません。美味しいお茶とお菓子を楽しみながら、お話する会ですよ」
「まあ……そうでしたか」

 ほんのりと頬を赤らめるルキナを横目に、ルフレはそっと胸を撫で下ろす。

「ですが、手ぶらというのは落ち着きませんね」
「う〜ん……それなら、お花を用意するのはどうでしょうか? いい香りに囲まれながらのお茶会も素敵だと思います」
「それはいいですね! 早速選んできます。お二人とも、ありがとうございます!」

 青い髪とマントを翻し、廊下の奥へ進むルキナ。
 ほどほどに視線を戻すと、ルフレはヴィルヘルムに謝辞を伝えた。

「助かったよ。ありがとう」
「いえ、当然のことです。それに……」
「それに?」
「今日のお茶会では、ピーチさんがルキナ様のために選んだお菓子が並ぶと聞いています。ぜひ楽しんでいただきたいです」
「うん、きっとルキナも喜ぶよ。ちなみに、どんなお菓子が並ぶんだい?」
「えっと……確か、『聖王まんじゅう』でしたかね」
「……ん?」

 今一度時刻を確認したヴィルヘルムは、「この辺で失礼しますね」と会釈をして立ち去る。

「ま、待ってくれヴィル! その饅頭について詳しく……」

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