二人ならなんとかなる
(今日の『大乱闘』のテーマは“対魔”か……。ん、そろそろ準備を始めないと)
時計の針が10の数字を示す頃。お日柄も良いその日、【乱闘部署】マネージャー『ヴィルヘルム・クロイツ』はこれから行われる『アルスハイル王国』イベント『大乱闘』の準備に着手しようとしていた。
食堂に向かおうと回廊を歩いている途中、ヴィルヘルムは中庭を挟んだ反対側の通路を険しい顔つきで駆けゆく人物を見つける。
(マリオ?)
トレードマークの帽子をひっくり返す勢いで疾走する彼に違和感を覚えたヴィルヘルムは、端末片手に後を追う。
「もしもしマスター様──」
あらゆるエリアにある転移装置に繋がる『ポータル』と呼ばれる機械が並べられた部屋、『ポータルルーム』。
《スマデバイス》で行き先を設定したマリオが円濤に端末を翳せば、ひとつの『ポータル』が青白い光を放つ。
帽子の縁を握り飛び込んだマリオは──いかにもおどろおどろしい洋館が遠くに見えるキノコエリアに到着。
懐から“L”と描かれた緑の帽子──弟、『ルイージ』が愛用する帽子を取り出しては握りしめ、眦を釣り上げる。
「今行くからな、ルイージ」
「──ルイージさんがどうかしたの?」
「うおっ⁉︎」
思わず後ずさるマリオに、当人のヴィルヘルムは目を丸くする。
『ポータル』の光が消えないうちに飛び込んだ彼は、無事にマリオとの合流を果たしていた。
「どこに行くのかと思えばこんな場所に……」
「オマ、『大乱闘』はどうしたんだよ!」
「マスター様に任せてきたよ。君があまりにも深刻そうな顔をしていたから、何かあったんじゃないかと思ってさ」
「ヴィル……」
「で? 一体全体どうしたのさ?」
マリオは追い返すのを諦め、洋館を親指で示し、ゆっくりと歩み始めた。ヴィルヘルムも少し後ろを追従する。
「今朝ルイージの部屋に行ったら、帽子と手紙が置かれててな」
「手紙?」
「ああ。そこにはルイージを攫ったと書かれていた」
「……おかしいな。警備隊が気づかないはずないのに」
「相手が相手だから仕方ないさ」
「マリオはもう検討がついているんだね?」
「ルイージを連れ去って、こんな場所に呼び出すのはアイツしかいない──『キングテレサ』だ」
元の世界でマリオを何度も貶めたといっても過言ではないオバケの『テレサ』達のボス、『キングテレサ』。マリオは三回ほど彼が持つ力によって、絵の中に閉じ込められている。それを毎回助けてくれたのは、オバケを吸い取る掃除機《オバキューム》を手にしたルイージなのだ。
クッパの天敵がマリオのように。キングテレサの天敵であるルイージを、恐らく手下のテレサ達に命じて城から連れ出したのだろう。……と憶測を語るマリオに、ヴィルヘルムは形の良い顎を触れながら「なるほどね」と呟く。
「よし、着いた。さあ行くぞヴィル」
「ちょっと待って」
洋館の錆びれたドアノブに触れたマリオからルイージの帽子を借りると、ヴィルヘルムは中に“何か”を仕込んだ。
「いざという時はこれを使って」
その“何か”を確認したマリオは口角を上げ、「ああ!」と懐にしまい直す。
「開けるぞ」
「うん」
長杖を手にしたヴィルヘルムを横目に、マリオはギイイイと気味の悪い音を引き連れて扉を開ける。