私たちが帰る場所


「あ。」「あン?」

 城郭の奥に西日は沈み、夜を誘うかの如く、ワイン色の空が蒼く染まる。
 王城の各階層を繋ぐ階段の一角。業務を終え、下層から上ってきたマスターと、今まさに階段を上がろうとしたクレイジーが鉢合わせた。
 行き先は恐らく同じ。文句の一つや二つ言ってやろうかと考えるが――互いに視線を逸らし、更なる上層部へ一段一段、歩を進める。

「……あの頃は、思いもしなかったな」

 重ねていた沈黙を破ったマスターに、クレイジーは軽く目を見張る。

クレイジーお前ほどではないが……私も微かに覚えている。暗く、冷たい記憶」

 マスターは天を仰ぎ瞳を細め、クレイジーは衣嚢いのうに両手を突っ込んだまま地面を見遣る。

「……今はまだその時ではない」
「が。いつかはきっと」

 片割れの足音が止む。
 不審に思ったクレイジーがマスターを振り返れば、男は――ヴィルやファイター達彼らに向けるような眼差しでこちらを見上げていた。

「……ンだよ」
「ヴィルほどではないが。憎くて憎くて仕方なかったお前のことを、少しだけ理解した気がしてな」

 うげ、とあからさまに苦虫を噛み潰したような表情を浮かべたクレイジーは足早に階段を上がる。
 やはりムカつくなと思いつつ、僅かに頬を綻ばせたマスターも一段ずつ進み、先へ。
 『部屋』の前で待つクレイジーを横目に、扉を叩けば、内側から開かれる。

「おかえりなさいませ、マスター様。……クレイジーも」

 出迎えた少年らと笑みを分かち合い、今日という日を噛み締めるのである。
 いずれ訪れるであろう未来でも、ちゃんと思い出せるように。
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