スマブラ 掌編

心のこもったプレゼント


「カービィお出かけするの?」

 屈みつつ小首をかしげたネスに、カービィは嬉しそうに「うんっ!」と元気よく返す。

「ぼくも一緒に行こうか?」
「ううん、だいじょーぶ! ……あっ、でも」

 カービィはちょいちょいとネスを呼び、小声で“何か”を伝える。聞き取ったネスは、まるで悪戯っ子のように歯を見せてニヤっと笑い、頷いて。

「いいよ、わかった。もしカービィを探していたら足止めしておくよ」
「わぁい! ありがとうネス〜!」

 ネスとハイタッチを交わしたカービィは、自身に提げたポシェットの有無を確認。

「おかねも持った! じゃあ行ってきまーす!」
「行ってらっしゃーい」

 ネスに見送られ、カービィは城郭じょうかくの外に広がる城下町へと出発した。


★☆


(いつ来てもここは人がいっぱいだなー。プププランドとは大違いっ!)

 王国の中心地である城下町は、各地方から集う多種多様な住民達で活気に満ちている。道ゆく人々の大半はカービィの背丈の何倍もあり、油断していたら踏まれてしまいそうだ。より注意深く歩いていたカービィだったが、とあるお店を見つけると小走りで駆け寄った。
 カランカランと鈴の音が店内に響く。入店したカービィは周囲を見渡し、目的のもの――色とりどりのリボンのコーナーを見上げる。リボンがある商品棚はカービィの背丈では届かず、店員を呼ぼうかと考えたその時。

「カービィじゃないか。何してんだ?」

 頭上から降り注ぐ声に、カービィは目をまん丸にする。振り返ればそこにはマリオと、自分達のマネージャーであるヴィルヘルムが不思議そうに見つめていた。

「リボンが見たいんだね。はい、これでいい?」
「う、うん。ありがとう……」

 ヴィルヘルムに抱き上げられたカービィは、赤と青のリボンを手に取るとすぐに。

「もう降ろしていいよ! ぼく、買ってくるから!」
「そう?」

 降ろされるや否や、カービィは一目散にレジへ。同じくリボンの色を悩んでいたマリオに呼ばれたヴィルヘルムが目を離した一瞬の隙に――カービィは店を後にした。

「……あれ? カービィ?」
「あいつもう行ったのか」
「どうしたんだろう……?」
「急ぎの用でもあったんだろ、気にすんなって。それよりリボンの色決めようぜ。やっぱりピンクか? でもありきたりだよなぁ」
「ならピンクの他に濃い青を使うのはどうかな? 色にメリハリがつくと思うんだ。それに――」


(ビックリした〜……2人に会っちゃうなんて予想外だよ……。てっきりネスが足止めしてくれているもんだって思ってた……たぶん、入れちがい? だったのかな)

 赤と青のリボンが入った紙袋を抱え、カービィは次なる目的地を目指す。皆様もお気づきであろうが、ネスが「足止めしておく」相手はマリオとヴィルヘルムの2人のこと。恐らく、ネスと別れたあとすぐに2人は城を出たのだろう。今頃城内を探し回っているネスを思うと……申し訳気持ちになる。
 もう鉢合わせないように祈りつつ。気を取り直して、次にカービィが入店したのは、ファンシーな見た目の小物を取り扱う雑貨店。以前から度々覗いてはいいなと目をつけていた商品を見つけ、うきうきで購入する。そして最後にカービィが訪れたのは。

「ヤァカービィ! チョウシはどうダイ?」
「マホロア! きょうはこっちにいたんだね」

 プププランドの友達(……?)、マホロアが経営するよろず屋。自営する遊園地『マホロアランド』の支配人でもある彼は忙しく、なかなかよろず屋に顔を出すことがないのだ。

「しばらく振りにカオを出したんダヨ。コッチのお店もダイジダカラネッ」

 このよろず屋はマホロアが叶えたい夢の第一歩だった。……という話を、カービィは聞いたことがある。遊園地の収入には到底及ばないよろず屋を経営しているのも、何かこだわりがあるのだろう。
 それはともかくとして。カービィは「よかった!」と嬉しそうだ。

「ぼく、マホロアに会いたかったんだ!」
「……ボクに?」
「うん! おしえてほしいことがあるの!」

 カービィのベストフレンズを自称するマホロアはその言葉に、にこにこと目尻を下げる。

「モチロンダヨォ! ナニを教えてホシイノ?」
「あのね……」


★★


「あとは渡すだけだな」

 城下町にある喫茶店をあとにしたマリオは、遅れて出てきたヴィルヘルムにそう声を掛ける。

「うん。まだ町にいるかな」
「さぁな……ちょっと探してみるか」

 と、2人が噴水広場を通りかかった時。ピンクのまん丸とした――カービィがベンチに座っているのを見つけた。顔を見合わせ、カービィのもとへ向かう。

「……、カービィ?」
「お前、なんで濡れてんだ?」

 カービィの体を伝う雫にマリオは首をかしげる。ハンカチで拭いてくれているヴィルヘルムと目を合わせることなく、カービィはギュッと紙袋を抱きしめて。

「噴水に落ちたんだな」
「……うん」
「買ったのが濡れたから落ち込んでるのか?」
「それならまた買いに行こうよ。僕が買ってあげる」

 カービィはぶんぶんと首を横に振る。

「2人にあげようと思ったプレゼントが……ダメになっちゃったから」

 マリオとヴィルヘルムはカービィの左右にそれぞれ腰を落とすと微笑んで。

「駄目になんてならないよ」
「いいからほら、見せてみろ」

 恐る恐る紙袋を開いたカービィは、細長い透明の箱を2つ取り出した。
 中身はスターロッドを模したボールペン。それぞれ、赤と青のリボンでラッピングされている。このラッピングは、マホロアに教えてもらいながら自分で飾りつけた。
 ポタポタと水が垂れているのもお構いなしに、マリオとヴィルヘルムはプレゼントを手にする。

「なかなか良いペンだな」
「うん。それにリボンのラッピングもかわいいね」
「だっダメだよ! 新しいの買うから……!」
「いやだね。もう貰った」
「僕もこれがいいな」

 笑う2人をカービィは不安げに見上げる。

「で、でも、びちょびちょだし……イヤじゃないの……?」
「確かにペンは濡れているけど、ちゃんと乾かせば使えるよ。カービィが一生懸命用意してくれたプレゼントだもん、嫌なわけないよ」
「それに、せっかく“お揃い”になったしな」

 マリオのアイコンタクトを受けて、ヴィルヘルムが手提げ袋から取り出したのは――。

「ぼくが2人に買ったのと同じ!」

 ラッピングされた“同じ形”のボールペンだった。

「これは僕とマリオからカービィに」
「まさか被るとは思ってなかったが……」
「ど、どうして……?」

 受け取ったカービィの頭から疑問符が飛び出す。自分にプレゼントを渡す理由に心当たりがないからだ。

「僕が食べきれなかったご飯をいつも食べてくれるでしょう? そのお礼に」
「この間のチーム乱闘で助けられたからな」
「カービィはどうして僕達にプレゼントを渡そうと思ったの?」
「いつもぼくと仲良くしてくれるから……」
「こちらこそだよ。いつもありがとう」

 ようやく元気を取り戻したカービィは「うんっ」と笑顔を咲かせる。

「そんじゃ、ちょっと散歩してから帰ろうぜ」
「そうだね。カービィも行こう?」
「行くっ!」

 定位置――ヴィルヘルムの腕の中に飛び込んだカービィは、2人からのプレゼントを落とさないよう大事に抱えた。


 次の日、プレゼントされたペンでマリオとヴィルヘルムの似顔絵を描いて渡したのは――また別の話。

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