7章:冥府の姫と厄災の目
「ピット⁉︎」
【からくり兵】と交戦中であったサリエルは、突如として飛来した友の声に瞠目し見上げる。
サリエルの周囲を囲む敵を蹴散らし難なく着地したピットは、安心したように破顔した。
「無事で良かったよ、サリエル! 心配したんだぞ!」
「心配かけてごめんね。……ありがとう」
微笑んだサリエルだったが、「それはそうと」と面持ちを変える。
「ピットはどうしてここへ?」
「それは――」
『私から説明しましょう、サリエル』
「パルテナ様」
黒の月桂樹を通して響く女神の声に耳を傾ける。
『ピットをこちらに派遣したのは、サリエル、アナタの無事を確かめることの他に。魂のほうのペルセポネの行方を把握するためです。彼女は無事なのですね』
「はい、勿論。今は安全な場所でお待ちいただいております」
密かにホッと安堵するピットに笑みを返す。
『それならば良かったです。サリエル、アナタには聞きたいことが山ほどありますが、今は戦闘に集中するといたしましょう。ピット、例のものを』
「ハイッ! パルテナ様!」
ピットは一歩前へ進み出て、《銃槍バイデント》をサリエルに差し出す。
「ディントスから渡してほしいって頼まれたんだ。渡せて良かった!」
サリエルはピットと《銃槍バイデント》を交互に見遣り、力強く頷く。
「ありがとう。きっと使いこなしてみせる」
神器を受け取ったサリエルは、この手に戻ってきた相棒の重みを噛み締め、眦を釣り上げる。
「!」
それと同時。彼らから離れた位置に、ペルセポネの肉体がふわりと着地。言いしれぬ眼差しをこちらに向ける彼女に、ピットは眉を顰め、サリエルは決意を秘めた瞳を向けた。
「総員、撤退しろ。ここは僕が引き受ける」
背後に控えた冥府軍の魔物達は散り散りとなってその場を離れ、サリエルは斜め後ろに立つピットにも背中越しに告げる。
「ピット。ペルセポネ様のことは僕に任せて」
「っでもサリエル」
「これは僕達【冥府軍】の問題。自分の失敗は、自分で取り返す」
それにね、とサリエルはピットに笑ってみせた。
「僕は『彼』の作戦を信じてるから。絶対にペルセポネ様の体を取り戻すよ」
銃槍を軽く振るっては構えるサリエルが不敵に笑う。
【冥府軍】幹部としての気迫を前に。ピットは頷き、後退する。
「【冥府軍】幹部、ペルセポネが使いサリエル。いざ、参る!」