7章:冥府の姫と厄災の目
『ピット、急いで!』
「はいっ‼︎ おっとっと!」
バタバタと回廊を駆け抜け、転びかけながらも
女神の加護を賜りし白き翼が優雅に羽ばたき、空中散歩と洒落込みたい――ところではあるが。
「【からくり兵】と【冥府軍】が戦ってる⁉︎」
『ええ、そうなのです』
ピットが放り出された先は戦場のど真ん中。『ミニアーマー』を装着され【冥府軍】を裏切った【からくり兵】――かつての仲間同士が争っているという混沌とした光景を尻目に、パルテナはピットを目的地まで一気に飛ばしている様子。
風圧を耐え忍びつつ、ピットは「パルテナさまぁ!」と主君に尋ねる。
「ボクは今どこに向かっているのでしょうか⁉︎」
『……かつてピットが浄化した、魔王ガイナスの居城です』
「ああ、マグナに出会った場所ですね!」
それは、因縁の女神メデューサが復活した時代。
何隊もの部隊を全滅させた魔王を討伐すべく、険しい崖山を(【飛翔の奇跡】で)乗り越え、城内で知り合った人間の傭兵マグナと共同戦線を張った敵地。
治める魔王が討伐された現在では使われなくなったと思っていたが。
『どうやらそこを起点に、【からくり兵】と【冥府軍】が衝突しているようです。そして……』
「そ、そして?」
ごくりと生唾を飲み込むピットに、パルテナは務めて冷静に告げる。
『【冥府軍】の司令官は――あの、『サリエル』なのです』
「……!」
みるみるとピットの双眸が見開かれていく。
「それはほんとうですか! パルテナ様!」
『はい、間違いありません』
友人の無事を知り、自然と潤む視界。
腕で乱雑に涙を拭うピットに、パルテナは報告を続ける。
『他にもタナトスやパンドーラ、ペルセポネの気配も感じます。……【冥府軍】に味方するかどうかはさておき、まずはサリエルのもとへ向かいなさい』
「承知しました!」
不穏な展開を予感させるような灰色の空に向け、《パルテナの神弓》を高く掲げる。
ルート上に立ち塞がる【からくり兵】を浄化しつつ、聳え立つ険しい渓谷を潜り抜け――懐かしき魔王城を視界にとらえた。
『っ、見つけました! 二時の方角、城壁の上!』
パルテナの言葉通りにそちらへと目を向ければ。ほんの僅かな数で組まれた小隊とともに、見覚えのあるいや〜な狙杖片手に奮闘するサリエルの姿が。
「パルテナ様! 『アレ』、お願いします!」
『分かっていますよ。転送!』
ピットの頭上に清らかな光が差し込み、何かが天界より送られてくる。
それは神器神ディントスによって造られたサリエル専用の神器《銃槍バイデント》。
バッチリ受け取ったピットはパルテナのコントロールのもと、サリエルと合流した。
「サリエル!」