8章:最終決戦に向けて


 よくぞ言ってくれたと言わんばかりに頷くサリエルに、「あ、でも……」とウィルドはそろりそろりと挙手。

「一回家に帰ることはできるかな? さっきの戦いで消費した薬品とか補充したくて……」

 来るべき最終決戦に備えたいと提案する彼に、サリエルはうーんと思案する。なぜならここは断崖絶壁に囲まれた魔王城。ウィルドが暮らしていた森とはかけ離れている。一朝にして帰れる場所ではないのだ。

『でしたら私に考えがあります』

 と、助け舟を出したのはパルテナだった。ウィルドを除く全員の脳内に疑問符を浮かぶ。

『ピットを同行させ、私の転送でお送りいたしますよ』
「おおっ! さすがパルテナ様です!」
「え、なんだって?」
『では早速参りましょう』
「はい!」
「え? ええ⁇」

 ピットとウィルドの頭上に光が差し込む。ふわりと宙に浮く感覚にウィルドが「あわわわわわ⁉︎」と驚愕している間に、二人の姿はフッと掻き消えるようにして一同の前から消えた。
 いってらっしゃいと心中で言葉をかけたサリエルに、ナチュレの幻影がその口を開く。

『してサリエル。ペルセポネの肉体はいつ頃目覚めるのじゃ?』
「ウィルドの話だと明朝だそうです。肉体がお目覚めになり、ペルセポネ様の魂と同化次第我々【冥府軍】は本陣へと出軍します」
『フム……万が一に備え、わらわ達【自然軍】は待機する。が、ブラックピットだけは向かわせてやろう』

 その言葉にオイと睨みつけるブラックピットだったが、異論はないらしい。ありがとうございますとサリエルは腰を折る。

『ナチュレ様、私達の為にありがとうございます』
『フン、冥府の魔物が跋扈していては迷惑なだけじゃ。勘違いするでない』

 いつものツンデレを発揮するナチュレであるが、ペルセポネの声音は弱々しいものだった。



「とーちゃく!」
「うわあっ⁉︎」

 華麗に舞い降りたピットに、きりもみ状に落ちたウィルド。
 お尻をさすりながら立ち上がったウィルドは、眼前に広がる森を前にすぅっと息を吸う。

「ん〜! この感じ、やっぱり好きだなぁ」
「ここがウィルドが育った森?」
「そうだよ」

 見たところ何の変哲もない普通の森だが、ピットが森の入り口をぐるりと見渡すと、森の至る箇所からぐさぐさと視線が刺さるのを感じた。

『やはりここは“精霊郷”……天使であるピットに敵対意識を向けていますね』
「そんなぁ〜……」
「……」

 ピットと女神とのやり取りは分からないが、先の話を想起したウィルドは大きく息を吸い込んで叫んだ。

「この森に住んでるみんな! 今まで僕を守ってくれてありがとう‼︎ この天使様は僕の味方だから安心してね!」

 語りかけるような言葉に、重苦しい空気が一気に軽くなった気がした。まるで精霊達がピットのことを認めてくれたように。

「ありがとう!」
「うん……ほ、本当にいるんだね……」

 精霊が実在することに胸を昂らせるウィルド。
 こっちだよ、と案内する彼にピットは追従する。

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