8章:最終決戦に向けて
「──【からくり兵】の殲滅を確認」
モノアイやミックからの城内外の状況報告に頷いたサリエルは、【冥府軍】全体に告ぐ。
「ペルセポネ様の肉体も無事に解放した。……僕達の勝利だ」
堂々たる勝利宣言に【冥府軍】の兵士達は言葉なくとも喜びをあらわにした。この異様な空間に戸惑いながらも、殲滅に協力したピットもサリエルと固い握手を交わす。
「ありがとう、ピット。君のおかげだよ」
「なんのなんの! 久しぶりにサリエルと一緒に戦えて良かったよ!」
「僕もだよ。相変わらず凄い手捌きだね」
「いやぁそれほどでも〜」
気恥ずかしげに首筋を撫でるピットだったが、「フォッフォッフォ」と低く響く笑い声に頬を引き攣らせた。
「げ、タナトス……」
「あんまりじゃないデスか、ピットくん。わたしたち、かた〜い絆で結ばれてる仲じゃないデスか」
「縁起でもない‼︎」
現れたのは死を司る陽気な神タナトス。【冥府軍】の幹部にして、今はサリエルの同僚。ピットとはメデューサ復活、そしてハデス降臨時にもお目見えした仲ではあるのだが。
「タナトス様、その……」
「皆まで言わずともわかってますよ。指揮官交代、デスね」
「はい。僕はピットと一緒にペルセポネ様のもとへいます」
「ハイハイ」
終始嫌がりながらも戦後の片付けの指揮に回るタナトスに軽く腰を折り、サリエルはピットを城内へと招く。
見覚えのある城内を歩いていると、『転送!』と高らかに響く少女の声。彼らの行手に差し込まれた不自然な光から舞い降りたのは、自由の翼ブラックピット。
「ブラピ!」
「ブラックピット君」
重なる声に当の本人からは困惑と苛立ちが滲む。
『一足遅かったようじゃの、サリエルよ』
「ナチュレ様」
黒の月桂樹から聞こえる自然王の声に目を丸くする。
『連絡さえよこせば、わらわ自慢の【自然軍】の力を見せつけてくれようとしたのに』
「申し訳ございません。これは自軍の失態だと考え、救援要請をしなかったのです」
『あら、ウチのピットは協力してますけど?』
「ええっとそれは……」
「パルテナ様、サリエルは友達だからいいんですよ! ノー問題です!」
ピットの暖かい一言に綻ぶサリエル。
ブラックピットはフンとそっぽを向くも、「で?」と問いかける。
「オマエらはどこに行こうとしていたんだ?」
「ペルセポネのところだよ」
『サリエル達がペルセポネの肉体を取り戻したのです』
パルテナの報告にナチュレは『まことか』とその声音を柔らかくして。
『それならば問題はひとつ解消されたのじゃ』
『ええ。サリエル、宜しければ彼らも同行しても?』
「もちろんです。もう少し先の部屋となります」
サリエルはピットとブラックピットを連れて、魔王城に隠された一室へと赴いた。
ペルセポネがいるであろう扉の前でノックすれば、すぐさま中からバタバタと激しい足音が。
「サリエルく〜ん♡ ──ふぎゃん!」
扉が勢いよく開かれ、中から飛び出してきたのは妖艶な容姿を持つパンドーラだったのだが。ささっと横に避けたサリエルが足を引っ掛け、地面に顔面ダイブ。
「痛いじゃないの‼︎」
「あ、すみません。つい勢いで……」
鼻を抑え立ち上がったパンドーラは、ピットとブラックピットの姿に「あら〜♡」とくすくす笑う。
「ピットくんにブラピくぅんまで〜チョー久しぶり〜」
「……誰?」
「パンドーラ」
「嘘っ⁉︎」
「
声を顰める二人の天使に、パンドーラはもうっと唇を尖らせる。
「せっかくまた会えたのにそんな態度はなくな〜い?」
「オレは二度と会いたくなかったね」
「ボクもだよ」
「つれないねぇ」
肩をすくめるパンドーラを、サリエルはまあまあと嗜める。
「パンドーラ様、ここからはタナトス様とご一緒に後片付けをお願いします」
「はぁい♡ 適当にサボってきま〜す」
バイバーイと颯爽と飛び去ったパンドーラの言葉に、いいのかと言いたげに目を細める。
「まあいつものことだから……。ペルセポネ様、ただいま戻りました」
『お帰りなさい、サリエル君』
部屋に戻ると、ベッドに寝かされているペルセポネの肉体の傍らを飛んでいた紫色の蝶──ペルセポネの魂が彼らを出迎える。
『ピット君に、ブラックピット君もありがとう』
「良かったね!」
『うんっ』
ピットの笑顔が咲く中。ブラックピットは、同じく部屋にいた少年──ウィルドに目を向ける。
真っ先に食いついたのは、月桂樹越しに様子を見ていたナチュレだった。
『
『サリエル。そろそろ答えていただいても?』
声を荒げるナチュレ。冷静に尋ねるパルテナ。
ピットとブラックピットも、真剣な眼差しでサリエルを見つめていた。
「あの〜サリエル君。僕、席外したほうがいいかな?」
異様な雰囲気を察したウィルドが苦笑混じりに提案するも、サリエルは首を横に振る。
「ううん。ウィルドはここにいて。今から皆に、君との出会いを話すから」
「う、うん。分かったっ」
サリエルは一息つくと、ウィルドに助けてもらった事から順に事の顛末を語った。