ボクの居場所


 この世界に具現化さ呼ばれてから、“退屈”という二文字はなかった。
 ちょっと怖い人もいるけど……周りは皆親切だし、何より頼りになる兄さんや顔見知りもいた。怖いものなんてない。
 色とりどりに色づく世界は眩しくて、新鮮で、楽しくて。
 もちろん大冒険をしたこともあったよ。兄さん達みんなで協力して世界を救ったりね。
 でも……近頃何か変なんだ。
 その『何か』はまだ、分からないんだけどね。



 アルス王城内──下層部廊下。
 なんの気兼ねなく歩いていたルイージは、はぁという溜息の音が漏れ出た場面と遭遇する。

「ヴィル君どうかした?」

 廊下の壁と向き合う形で佇んでいたヴィルヘルムはルイージの姿に、僅かに目を見開き眉を八の字に曲げた。

「すみません。聞こえちゃいましたか?」
「う、うん……何かあったの?」
「……実は、」

 と、手元に視線を落とした彼に釣られて手元を見る。
 ヴィルヘルムは大量のチラシを抱えていたのだ。

「これどうしたの?」

 まさか壁に貼って回っているのではないかと考えたルイージの憶測は見当違いで。

「レイが営んでいる探偵事務所のチラシですよ。僕が気づかないうちに貼って回っていたみたいで、回収していたのです」

 寧ろその逆だったようだ。嘆息混じりに話すヴィルヘルムを「そうだったんだ……」と哀れみの眼差しを送る。苦労が絶えない少年だ。

「もし良かったらボクが代わりに回収しておこうか?」
「……良いのですか?」
「うん。ヴィル君も忙しいだろうしね」

 救世主とも言うべき言葉にヴィルヘルムは僅かに目を輝かせた。

「ありがとうございますっ。助かります」
「それは良かった」
「回収したらレイに返しといてください。僕の名前を出してくださって構わないので」
「わ、分かったよ」

 早口でチラシを押し付けたヴィルヘルムは、それではと颯爽とその場を後にしてしまった。
 押し付けられたルイージは微苦笑を浮かべると、まだまだ残っているチラシの回収に回るのだった。

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