スマブラDiary for Refrain(夢小説)
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マスターは知っていた。このうちなる胸に燃え上がる情熱の正体を。
マスターは知っていた。目と目が合う度に惹かれていく彼女のことを。
マスターは知っていた。自分が恋焦がれる彼女は多方面から好かれており、自分はそのうちの一人に過ぎないと。
マスターは知っていた。
自分が彼女の『特別』になれないぐらい。
マスターは知っていた。
「おっはよー! 二人ともっ」
人より少し遅れた時刻。『この世界』を管理する管理室に元気よく飛び込めば、そこでは弟のクレイジーとリヨンが何やら怪しい距離感で話していた。
二人はマスターに気づくと慌てて距離を置き、クレイジーはその柳眉を逆立てる。
「遅刻だぞ。今何時だと思ってんだよ」
「あ〜ごめんごめんっ」
ぱちんっと顔の前で両の手を合わせれば、クレイジーはふんと鼻を鳴らす。
……そういえば彼もリヨンのことが好きだったっけ。
先程の距離感を思い出し、申し訳ないことをしたなぁと思いつつ。マスターはとある仮説へと至る。
(……もしかして二人は付き合ってたりする?)
こちらに気を遣って秘密にしているだけで、クレイジーとリヨンは既にくっ付いているのかもしれない。
『……マスター、大丈夫か?』
なんて思案を巡らせていたら、リヨンが不安げにマスターの顔を覗き込む。慌てて「何でもない!」と口走れば、リヨンも困惑しながらそれ以上追求することはなく。
「んじゃ、今日のバグ掃除はよろしく」
「分かった! クレイジーもこっちの仕事よろしくね」
『私も同行しよう、マスター』
胸に手のひらを置きそう申すリヨンにマスターは了承──しかけるも、先程の推察が脳裏を過ぎる。
「い、いや大丈夫だよ! 僕一人でどうにかなるからリヨンはクレイジーを見てあげて!」
『だが……』
「いいからいいからっ。じゃ、行ってくるね!」
まるで逃げ去るようにその場を後にした彼を、クレイジーとリヨンは互いに顔を見合わせ小首を傾げた。
◇◆◇◆◇
「これで……最後だ!」
今し方発見した『バグ』を想像の力で修復する。『この世界』はまだまだ確立しておらずあやふやだ。今日も沢山の『バグ』が発生している模様。
「疲れたぁあああああ〜……」
『バグ』の修繕を見送ると途端に力が抜け、天を仰ぎ盛大なため息をもらす。
心身共に疲弊する中、ふと『帰りたくないな』という気持ちが飛び出した。このまま帰らなければ、あの二人は幸せになれるのかなーなんて思ったり。
でも優しい彼らのことだ。心配して探しに来てしまうだろう。だからと言っていく宛もなければ案もない。
うーんと悩むマスターの背後で、砂利を踏む音がした。
「何をうーうー悩んでいらっしゃるのですか?」
「ウィリアム君!」
いつぞやの貴族の少年、ウィリアムの姿に目を見張る。
ウィリアムは若干半眼を向けつつ、マスターの近くまで歩み寄った。
「どうしてこちらへ?」
「ちょっと仕事でね。ウィリアム君こそ何してるの?」
「ここは僕の家の領土ですよ。ちょっとした散歩です」
言われてみればとマスターは周囲を見渡す。
『バグ』の発生源はいつもランダムだ。忙しなく移動する彼は自分が今世界のどこにいるか把握出来ていなかったりする。
「マスター様、不躾ながらご質問させていただきますが……今何か悩み事でも?」
「うーんちょっとね」
「僕で宜しければお話をお伺いしますが……」
どこか哀憫の眼差しが向けられているような気もするが、それに気づくほどの余裕は無かった。
マスターは暫し考え込むと、あのね、と胸中を打ち明ける。
「想いを伝えたい人に好きな人がいたらどうする?」
「諦めるしかないんじゃないですか」
一刀両断。
見えないナイフに心臓を打たれたマスターは胸元を抑えて悶える。
流石に可哀想だと感じたのか、ウィリアムは少しばかりのアドバイスを送ってみる。
「マスター様はその方に自分の想いを伝えたのですか?」
「それは……まだだけど」
「なら嘆くのは先に伝えてからなのではないのでしょうか」
言われてみれば自分は最悪の未来しか想像しておらず、“万が一”の可能性を考えてはいなかった。
クレイジーと付き合っている可能性だってないかもしれない。そう考え直したマスターは、途端に元気を取り戻す。
「ありがとうウィリアム君! 僕ちょっと頑張ってみるよ!」
ウィリアムの両手を取って握るマスターに、そうですかと微苦笑を浮かべる。
「応援してますよ」
「うんっ! じゃあまたね!」
大きく手を振って得意の浮遊魔法で屋敷へ帰路に就く。
その姿を見送ったウィリアムは、やれやれと肩をすくめた。
(大方、リヨンの事だろうけど。彼女も大変だな)
◇◆◇◆◇
『マスター!』
屋敷の庭に無事着地したマスターは、早々にリヨンに名を叫ばれた。先程のこともありややぎくしゃくとした態度で、「な、何?」と返してみる。
『「何?」じゃないだろ。……最近様子がおかしいぞ。心配しているんだからな』
今朝だって〜、と長々と話すリヨンにあははと苦笑で返す。笑い事じゃないぞと言われれば、マスターは首筋を撫でる。
「ごめんね。ちょっと悩みがあってさ」
『悩み? お前にか?』
「僕にだって悩みの一つや二つぐらいあるよっ」
『いやそういう意味ではなくてだな……』
そこに弟のクレイジーが大股で近づいてくる。彼も少し怒っている様子だ。
「何かあるなら言え。面倒をかけさせんな」
「ごめんね。……じゃあ、聞いてもいいかな?」
面持ちが変化したマスターを不思議に思いながら、二人はそれぞれ頷き返す。
マスターは胸が引き裂かれる想いで聞いてみた。
「ふ、二人はさ……付き合ってるの?」
静寂が訪れた。いや、正しく言うのであれば呆気に取られて言葉が出ない状況に近いか。
その静寂を破ったのは、腕を組んだリヨンだ。
「いや付き合ってないぞ」
彼女の言葉に盛大に嘆息したマスターは一転。「そっか!」と満面の笑みを見せて。
「それがどうかしたのか?」
「ううん! なんでもない!」
「……」
ご機嫌なマスターに対し、やや不機嫌なクレイジー。
リヨンは変わらず話が見えないといった具合に呆けていたが、マスターの悩みが解決したならと微笑む。
(それに、私が本当に好きなのは──)
いつも笑顔が絶えない貴方だと気づくのは、果たして。