スマブラDiary for Refrain(夢小説)
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
※短編とは時系列が異なります。また『周年短編 君がいたから』と関連あり。
(今日もこの世界は平和だなぁ……)
屋敷の広ーい屋根の上で寝転がり、燦々と輝く陽光をその身いっぱいに浴びるのはマスターハンド。通常、マスター。『この世界』を創りたもうし創造神でもある。
(こうしてこの世界が平和なのも、『みんな』が協力してくれたおかげだなぁ)
ふふっとひとり笑みを浮かべるマスターの脳裏には、屋敷のみんなや“彼と彼女”の姿を浮かぶ。不意に表情に翳りが見えたマスターは、視界が暗くなったことに気づく。
頭上を見上げれば、輝く太陽を覆い隠すように暗雲が立ち込める。
(……なんだが、嫌な予感がする)
すぐさま起き上がったマスターの直感は、残念ながらも当たることとなった。
『ん、雨雲……か? これは一雨きそうだな』
屋敷の回廊を歩いていたリヨンの言葉に反応するかのように、遠来より雷鳴が鳴り響き、雨粒がひとつ、またひとつと降り始めた。
洗濯物が心配だと足早に進むも、点滅に紛れて人が佇んでいることに気づく。
咄嗟に帯剣している剣の柄に触れ、臨戦体制を整えるも。“その人物”に軽く瞠目する。
『“ウィル”……⁉︎』
廊下に無言で立っていたのは、以前お見合いでのやり取りで知り合った“ウィリアム”。
『な、何故君がここに?』
「……」
動揺を隠せないリヨンに沈黙を連ねるウィリアム。
──違和感。
勘にも似た違和感に、リヨンは手放しかけた柄を握りしめる。
『貴様、何者だ! ウィルでは“ない”な!』
容易く看破されたウィリアムの“偽物”は口元に半円を描き、強く体を反らせて、すうっと大きく息を吸う。
「リヨン! 無事かい⁉︎」
「敵襲か⁉︎」
『マスター! クレイジー!』
下がっていろと目配せするも、二人はリヨンの前に躍り出ては盾となる。
それと同時。ウィリアムはウタを吐き出した。
「AH──────────────‼︎」
ウタは衝撃波となり、屋敷の壁や床に亀裂を走らせ、三人の体にも衝撃が行き渡る。耳障りな絶叫に両の耳を塞ぐも防ぎきれず、視界がぐるんっと暗転する。
倒れたと感じたのは、遠くでルフレ達を始めとするファイター達の声。目の前ではウィリアムに憑依した“何か”がリヨンの頭に手を当てていた。
『教エテヤロウ、真実ヲ』
リヨンの頭を中心に光が迸る。
暖かくも苦しい誰かの想いが、脳内を駆け巡った。
◇◆◇◆◇
『“ヴィルヘルム”君! わあ、随分と雰囲気が変わったねぇ』
『まあ、代理王子となりましたから。……って』
肩の長さで切り揃えられたファウンテンブルーの髪が揺れる。
それは、ウィリアムとよく似た少年だった。
ヴィルヘルムと呼ばれた彼は、鬱陶しそうに振り返り、嘆息混じりに『またですか』と“誰か”と応対している。
『今度は何用ですか?』
呆れ混じりにも聞いてくれる彼に、自分目線の誰かが安堵したのを感じた。
『今日は真面目な話なんだよ!』
どこかで耳にしたことがあるが……声からして男だろうか。しかし、鏡に映る顔は見覚えがない。
『僕、“もう一度”世界を作ることにしたんだ』
男の言葉に、ヴィルヘルムは僅かに目を見開いた。
『その為に核となる存在が必要で、ぜひ君の体を借りたいと思って来たんだよ』
『なるほど……』
ヴィルヘルムは黙考するや否や。
『拒否します』
『なんでぇ⁉︎』
『自分の知らないところで自分が生きてるなんて気味が悪すぎます』
ヴィルヘルムの容赦ない言葉に男が傷つく中、はあと嘆息。
『心当たりならありますよ』
『え……?』
しょげていた男の顔が上がる。
ヴィルヘルムは静かに微笑みながら、告げた。
『“彼女”はとても強い。きっとあなたの力になれる』
『ヴィルヘルム君がそこまで言う人なんて……一体、なんて名前の子なの?』
ヴィルヘルムは傍に飾ってあった写真立てを見せた。
『“イヴ・アトリーズ”。僕の元、騎士です』
自分と瓜二つの少女の写真を見せながら、ヴィルヘルムはそう告げた。
◇◆◇◆◇
『“イヴ”……。それが……私の本当の名前だというのか……?』
現実世界へと引き戻されたリヨンは、頭を抱えながらそう呟く。
目の前に立つウィリアムはそうだと言わんばかりに深く頷き、乗っ取っている体をそっと手に触れた。
『ダガ、マスターハンドハ約束ヲ破リ、ヴィルヘルムト似タ存在……“ウィリアム”ヲ創造シタ。結果トシテ世界ニ“バグ”ガ発生シ、オマエハ記憶ヲ失ッタ』
『……』
当事者であるマスターはファイターに支えられながら、俯いていた。それは、リヨンが記憶喪失になった理由を知っていると肯定するも同じ。
そんな彼を嘲笑うかのように、ウィリアムは高笑いをする。
『無事ニ“ヤリ直セ”タカ? 新シイ世界デ、思イ通リノ世界デ!』
「違う! 僕は……『前の世界』の事を忘れない為にも、今の世界を作ったんだ‼︎」
反論するマスターの言葉に、一同の合間に驚愕が走る。
「『前の世界』って、どういうことだよ……」
弟であるクレイジーでさえ知らない情報。
マスターはもうこうなっては話さざる終えないと判断したのか、伏し目がちに過去の話を語る。
僕は昔、この世界とよく似た世界を創った。
そこには弟のクレイジーやファイター達も居て、異世界からやって来た戦士達も遊びに来ていた。
だけど、突然。本当に突然。
その世界は……何の前触れもなく『消滅』したんだ。僕含めて。
だけど、僕の魂は別の『マスターハンド』へと引き継がれた。
それが、ヴィルヘルム君の世界を創ったマスターハンド。
僕は彼の力を借りて、思い出せる限りのデータを掻き集めて今の世界を創ったんだ。
「そんな……」
マスターの話に一同は言葉を失う。
愛していた世界が何の前触れもなく消えた絶望は人の子の匙加減では計り知れないものだろう。
クレイジーも激昂することなく、ただただ奥歯を噛み締めていた。ぶつけられない理不尽さを押し殺すように。
『……話は分かった、マスター』
連なる沈黙を破ったリヨンに、多くの目が注目する。
『だが、ゴタゴタ考えるだけ無駄だということも分かった』
マスターは恐る恐る顔を上げ、リヨンの背中を見つめる。
──彼女は誰よりも勇敢で芯のある強い女性だ。
ヴィルヘルムの言葉が、脳裏にリフレインする。
『その体、返してもらおう!』
リヨンは抜刀した剣の切先を、ウィリアムに向けた。
疾走しようとしたリヨンより先に、ウィリアムは己の頭に手を添える。それは先程、リヨンにかけた術と同じ仕草で──。
『ナ、何ヲシテイル⁉︎』
行動とは裏腹に、口から出る声が焦りを滲ませている。
ウィリアムの手から光が漏れ出す。
『「“僕”の体を返してもらうだけだよ」』
それは、本来のウィリアムの反抗心。
『「【在るべき姿へ回帰せよ】──【マインドヒール】!」』
『グアアアアアア……──!』
ウィリアムの体を支配していた男の精神は光で焼き払われ、ウィリアムはどっと力を持っていかれたのかその場で膝をつく。
『ウィル!』
鞘に剣を納めたリヨンが駆け寄る。はあはあと荒く息を紡ぐウィリアムは、汗を滲ませながらリヨンを見遣る。
「すまない……迷惑をかけてしまった」
『問題ない。お前が無事ならそれでいいさ』
ありがとうとか細く例を述べるウィリアムとリヨンのもとに、マスターが歩み寄る。
「ごめん、二人とも。僕は……」
「謝るなら、“本物”の僕に謝ってください」
「うっ」
痛いところを突かれたマスターの気が滅入る傍ら、リヨンは床に片膝をつき、腰にくくっていた剣を外し、鞘の部分を持って、柄のほうをマスターへと差し出した。
「わが忠誠に疑いあらば、ただちにこの命をとりたまえ。わが忠誠を認めるならば、御身の剣として働かせたまえ」
それは騎士に命名をするための儀式の言葉。
リヨンはマスターに顔をあげると、優しく微笑んだ。
そう、今の彼女の主人はマスターとクレイジー。
真実を知ってもなお揺らがない決意に、マスターもまた祝福の印を切り、剣をリヨンに返した。
見守っていたファイターや、ウィリアム、そしてクレイジーからも笑みが溢れる。
マスターは暗雲晴れた空を見上げると、遠い世界に想いを馳せた。
大丈夫。
僕が生きている限り、忘れないよ。
みんなのことは。
(今日もこの世界は平和だなぁ……)
屋敷の広ーい屋根の上で寝転がり、燦々と輝く陽光をその身いっぱいに浴びるのはマスターハンド。通常、マスター。『この世界』を創りたもうし創造神でもある。
(こうしてこの世界が平和なのも、『みんな』が協力してくれたおかげだなぁ)
ふふっとひとり笑みを浮かべるマスターの脳裏には、屋敷のみんなや“彼と彼女”の姿を浮かぶ。不意に表情に翳りが見えたマスターは、視界が暗くなったことに気づく。
頭上を見上げれば、輝く太陽を覆い隠すように暗雲が立ち込める。
(……なんだが、嫌な予感がする)
すぐさま起き上がったマスターの直感は、残念ながらも当たることとなった。
『ん、雨雲……か? これは一雨きそうだな』
屋敷の回廊を歩いていたリヨンの言葉に反応するかのように、遠来より雷鳴が鳴り響き、雨粒がひとつ、またひとつと降り始めた。
洗濯物が心配だと足早に進むも、点滅に紛れて人が佇んでいることに気づく。
咄嗟に帯剣している剣の柄に触れ、臨戦体制を整えるも。“その人物”に軽く瞠目する。
『“ウィル”……⁉︎』
廊下に無言で立っていたのは、以前お見合いでのやり取りで知り合った“ウィリアム”。
『な、何故君がここに?』
「……」
動揺を隠せないリヨンに沈黙を連ねるウィリアム。
──違和感。
勘にも似た違和感に、リヨンは手放しかけた柄を握りしめる。
『貴様、何者だ! ウィルでは“ない”な!』
容易く看破されたウィリアムの“偽物”は口元に半円を描き、強く体を反らせて、すうっと大きく息を吸う。
「リヨン! 無事かい⁉︎」
「敵襲か⁉︎」
『マスター! クレイジー!』
下がっていろと目配せするも、二人はリヨンの前に躍り出ては盾となる。
それと同時。ウィリアムはウタを吐き出した。
「AH──────────────‼︎」
ウタは衝撃波となり、屋敷の壁や床に亀裂を走らせ、三人の体にも衝撃が行き渡る。耳障りな絶叫に両の耳を塞ぐも防ぎきれず、視界がぐるんっと暗転する。
倒れたと感じたのは、遠くでルフレ達を始めとするファイター達の声。目の前ではウィリアムに憑依した“何か”がリヨンの頭に手を当てていた。
『教エテヤロウ、真実ヲ』
リヨンの頭を中心に光が迸る。
暖かくも苦しい誰かの想いが、脳内を駆け巡った。
◇◆◇◆◇
『“ヴィルヘルム”君! わあ、随分と雰囲気が変わったねぇ』
『まあ、代理王子となりましたから。……って』
肩の長さで切り揃えられたファウンテンブルーの髪が揺れる。
それは、ウィリアムとよく似た少年だった。
ヴィルヘルムと呼ばれた彼は、鬱陶しそうに振り返り、嘆息混じりに『またですか』と“誰か”と応対している。
『今度は何用ですか?』
呆れ混じりにも聞いてくれる彼に、自分目線の誰かが安堵したのを感じた。
『今日は真面目な話なんだよ!』
どこかで耳にしたことがあるが……声からして男だろうか。しかし、鏡に映る顔は見覚えがない。
『僕、“もう一度”世界を作ることにしたんだ』
男の言葉に、ヴィルヘルムは僅かに目を見開いた。
『その為に核となる存在が必要で、ぜひ君の体を借りたいと思って来たんだよ』
『なるほど……』
ヴィルヘルムは黙考するや否や。
『拒否します』
『なんでぇ⁉︎』
『自分の知らないところで自分が生きてるなんて気味が悪すぎます』
ヴィルヘルムの容赦ない言葉に男が傷つく中、はあと嘆息。
『心当たりならありますよ』
『え……?』
しょげていた男の顔が上がる。
ヴィルヘルムは静かに微笑みながら、告げた。
『“彼女”はとても強い。きっとあなたの力になれる』
『ヴィルヘルム君がそこまで言う人なんて……一体、なんて名前の子なの?』
ヴィルヘルムは傍に飾ってあった写真立てを見せた。
『“イヴ・アトリーズ”。僕の元、騎士です』
自分と瓜二つの少女の写真を見せながら、ヴィルヘルムはそう告げた。
◇◆◇◆◇
『“イヴ”……。それが……私の本当の名前だというのか……?』
現実世界へと引き戻されたリヨンは、頭を抱えながらそう呟く。
目の前に立つウィリアムはそうだと言わんばかりに深く頷き、乗っ取っている体をそっと手に触れた。
『ダガ、マスターハンドハ約束ヲ破リ、ヴィルヘルムト似タ存在……“ウィリアム”ヲ創造シタ。結果トシテ世界ニ“バグ”ガ発生シ、オマエハ記憶ヲ失ッタ』
『……』
当事者であるマスターはファイターに支えられながら、俯いていた。それは、リヨンが記憶喪失になった理由を知っていると肯定するも同じ。
そんな彼を嘲笑うかのように、ウィリアムは高笑いをする。
『無事ニ“ヤリ直セ”タカ? 新シイ世界デ、思イ通リノ世界デ!』
「違う! 僕は……『前の世界』の事を忘れない為にも、今の世界を作ったんだ‼︎」
反論するマスターの言葉に、一同の合間に驚愕が走る。
「『前の世界』って、どういうことだよ……」
弟であるクレイジーでさえ知らない情報。
マスターはもうこうなっては話さざる終えないと判断したのか、伏し目がちに過去の話を語る。
僕は昔、この世界とよく似た世界を創った。
そこには弟のクレイジーやファイター達も居て、異世界からやって来た戦士達も遊びに来ていた。
だけど、突然。本当に突然。
その世界は……何の前触れもなく『消滅』したんだ。僕含めて。
だけど、僕の魂は別の『マスターハンド』へと引き継がれた。
それが、ヴィルヘルム君の世界を創ったマスターハンド。
僕は彼の力を借りて、思い出せる限りのデータを掻き集めて今の世界を創ったんだ。
「そんな……」
マスターの話に一同は言葉を失う。
愛していた世界が何の前触れもなく消えた絶望は人の子の匙加減では計り知れないものだろう。
クレイジーも激昂することなく、ただただ奥歯を噛み締めていた。ぶつけられない理不尽さを押し殺すように。
『……話は分かった、マスター』
連なる沈黙を破ったリヨンに、多くの目が注目する。
『だが、ゴタゴタ考えるだけ無駄だということも分かった』
マスターは恐る恐る顔を上げ、リヨンの背中を見つめる。
──彼女は誰よりも勇敢で芯のある強い女性だ。
ヴィルヘルムの言葉が、脳裏にリフレインする。
『その体、返してもらおう!』
リヨンは抜刀した剣の切先を、ウィリアムに向けた。
疾走しようとしたリヨンより先に、ウィリアムは己の頭に手を添える。それは先程、リヨンにかけた術と同じ仕草で──。
『ナ、何ヲシテイル⁉︎』
行動とは裏腹に、口から出る声が焦りを滲ませている。
ウィリアムの手から光が漏れ出す。
『「“僕”の体を返してもらうだけだよ」』
それは、本来のウィリアムの反抗心。
『「【在るべき姿へ回帰せよ】──【マインドヒール】!」』
『グアアアアアア……──!』
ウィリアムの体を支配していた男の精神は光で焼き払われ、ウィリアムはどっと力を持っていかれたのかその場で膝をつく。
『ウィル!』
鞘に剣を納めたリヨンが駆け寄る。はあはあと荒く息を紡ぐウィリアムは、汗を滲ませながらリヨンを見遣る。
「すまない……迷惑をかけてしまった」
『問題ない。お前が無事ならそれでいいさ』
ありがとうとか細く例を述べるウィリアムとリヨンのもとに、マスターが歩み寄る。
「ごめん、二人とも。僕は……」
「謝るなら、“本物”の僕に謝ってください」
「うっ」
痛いところを突かれたマスターの気が滅入る傍ら、リヨンは床に片膝をつき、腰にくくっていた剣を外し、鞘の部分を持って、柄のほうをマスターへと差し出した。
「わが忠誠に疑いあらば、ただちにこの命をとりたまえ。わが忠誠を認めるならば、御身の剣として働かせたまえ」
それは騎士に命名をするための儀式の言葉。
リヨンはマスターに顔をあげると、優しく微笑んだ。
そう、今の彼女の主人はマスターとクレイジー。
真実を知ってもなお揺らがない決意に、マスターもまた祝福の印を切り、剣をリヨンに返した。
見守っていたファイターや、ウィリアム、そしてクレイジーからも笑みが溢れる。
マスターは暗雲晴れた空を見上げると、遠い世界に想いを馳せた。
大丈夫。
僕が生きている限り、忘れないよ。
みんなのことは。