その他小説
巡り巡る星の片隅で
“ 今日は ゾーラの里に向かいます ”
厄災ガノンを倒し、脅威が去り、再び平穏な日々が訪れたある日。
ゼルダ姫はそう言い、シーカーストーンを見つめた。
話を聞くと、英傑の一人、ゾーラの里の王女のミファーの御父上が俺らから話を聞きたいと言われたらしい。
ここからゾーラの里までは少し距離がある。
一度、何処かで泊まることになりそうだ。
俺は、せめて雨が降らないことを祈りつつ馬に乗り込んだ。
「ふかふかのベッドにするかい?」
「いえ、普通のでお願いします」
俺の予想通り馬宿で一泊することになったのだが、姫はお金に気を遣ってか値段が安い方を選んだ。長時間馬に乗っていたのだから、高い方でも良かったのに…。
「明日にはゾーラの里に到着しましょう。きっと、ミファーの御父上も私たちを待ちわびているはずですから…」
姫はそう言うと、おやすみなさいと一言告げ、眠りに入った。
“ おやすみなさい ”
そう言われたのはいつぶりなのだろうか。
旅をしている間は一人だったし、野宿も多かった。
時折聞こえてくる、姫の声に安堵した日もあった。
記憶がない。
それが、どんなに苦しかったか。
辛いことも、楽しかったことも。
全部、全部忘れて。
“ 俺は誰なんだと ”何度思ったことか。
…今は?
“ でも 私…… もう平気です ”
俺は……。
「……………」
眠れなくなり、俺は姫を起こさないように外に出た。
星が、綺麗だった。
…少し前のことを思い出した。
それは、ゲルドの街に向かう途中にあったシーカータワーを登っていたとき。
ちょうど朝日が昇って来ていた。
綺麗だった。
まるで、この世界は何事もないかのように。
悲劇が嘘だったかのように。
光は、世界を照らしていた。
それは、この世界に祝福を与えようとも。
この世界で起こっていることに気づいていないようにも見えた。
“ まだ この世界は生きている ”
そう思った。
「…あっ」
ふと声が漏れた。
俺が見ていた夜空の方向に、一つの流れ星が。
場所はすぐ近くの山を越えたところだ。
気づけば勝手に、足が動いていた。
「申し訳ありませんでした」
俺が帰って来たのは次の日の朝だった。
目の前には不機嫌な様子の姫が。
「主君である貴方のお側を長時間離れてしまうとは騎士失格です」
「もういいのです。次からは気をつけて下さい」
行きますよと姫は自分の馬に乗り込んだ。
結局あの後。星のかけらを見つけることは出来なかった。つまりは無駄足だ。
襲い来る睡魔と戦いながら、俺も馬に乗り込んだ。
「たっ助けて!」
森の近くに通りかかったとき。俺たちの耳に人の叫び声が聞こえた。
姫は馬を走らせ、俺も後に続くように馬を走らせると、そこには魔物に襲われているハイリア人が。
「姫。ここで待っていて下さい」
「分かりました。…どうか気をつけて」
両手を絡ませ、祈るように見つめる姫に軽く頷くと、俺は背中の鞘からマスターソードを引き抜いた。
「でやっ!」
“この世界”は確かに救われたが、未だに魔物達は人を襲っている。以前よりは勢いはないが…。
俺は小鬼のようなボコブリンの背中を斬りつけると、剣を横に払うようにしてボコブリンを倒した。
「リンクっ」
すぐに姫がこちらに駆け寄り、目で合図すると俺はマスターソードを鞘に収めた。
「大丈夫ですか?」
「あっ…はい。おかげ様で…。助かりました!」
姫がハイリア人の女性に手を差し伸べると、女性は安心したように笑顔を見せると姫の手を取って立ち上がった。
…話に聞くと、女性はこの森に生えるキノコを採りに来たらしい。
「そうですか…。しかし、いつまた襲われるか分かりません。早めに帰った方がいいと思います」
「ですよね…。せっかくここまで来たのですが…」
明らかに女性は残念そうだ。
すると姫は女性に分からないようにコッソリと耳打ちをした。
「…リンク。少し寄り道してもいいですか…?」
「はい。ゆっくり向かいましょう」
実のところ、俺は姫が言いたいことは予想付いていた。
少し口調が強く、顔も強張っている姫だが、誰よりも努力家で、根は強い。更に王族として、人に手を差し伸べるのを忘れないのも姫の良いところだと俺は思う。
…今は、厄災との戦いのこともあるが。
「わあっ…ありがとうございます!」
どうやら俺が考え事している間に話が進んでいたようだ。
「私たちはここで待っていますね」
「もしよかったら、一緒にキノコ狩りしませんか?」
「………え?」
と、姫が困惑している間に女性はその手を掴むと俺が止める隙もなく森の中に姫を連れて行ってしまった。
「あっ…!」
俺もその後を追い、森の中へと入った。
「どのキノコを採れば……」
「あ〜、食べられるようなものだったら何でもいいですよ。色んなことに使うので」
分かりましたと姫が頷くと、女性は慣れた手つきでキノコを採っていった。
俺が姫を見つけると、姫は食べられるキノコかは知っているらしいが、採り方がよく分からないみたいだった。仕方なく姫はあの女性に話しかけようとしているようだが、女性の方は気づいてはいないようだ。
「…こうやって、採ればいいんですよ」
俺は姫の隣に膝をつき、採ろうとしていたキノコを採った。
「あれ、採ってみて下さい」
近くにあった緑色の傘をしたハイラルダケを指すと、姫は一度俺の顔を見てからゆっくりと地面から引き抜いた。
「ね。簡単ですよ」
「その通りですね…。あ、リンクも手伝って下さいっ」
「はい、分かりました」
その後、俺たちはたくさんのキノコを回収した。
…ときおり、姫と女性が楽しく話している光景が嬉しく思った。
「ありがと〜〜ございましたぁ〜〜!!」
昼過ぎ、俺たちはいくつかのキノコを分けてもらい、女性と別れた。
大きく手を振る女性を背に、俺と姫は再び馬に乗り込んだ。
「楽しかったですね」
「はい。これを調理するのが楽しみです」
「料理なら俺に任して下さい」
「はい。頼りにしています、リンク」
また、あのときの笑顔に戻って来た。
今日の夜ご飯は最高のものにしよう…。そう心に決めたときだった。
「…リンク」
「どうされました?」
返してみたが、姫は言おうかどうか悩んでいるようだった。
俺は何も言わず、姫の言葉を待った。
「あ…あの……」
「はい」
「昨日の夜は…どうして出掛けたのですか…?」
「……星のカケラを見つけに」
そう答えると、姫は口を閉ざした。
やっぱりバカげてるよな…。
「…今度見つけるときは」
…ん?
「私も、連れて行って下さいね」
……んんっ?!
「えっ、ひ、姫っ」
「何ですか」
「今の…今の、もう一度!」
俺の聞き間違いかもしれないと思い、俺は姫の後ろに付いていたが、横に並ぶと顔を覗き込んだ。そうすると姫は顔を背けたが。
「…言いません」
なんでっ!!何でですか姫!!
俺は叫びたい衝動に駆られたが、如何にか押さえ込んだ。
「姫っ」
「言いませんったら言いません!」
姫は俺から逃げるように馬の速度を早くした。
これは……聞き間違いじゃないってことか…?
「さあ、リンク。ゾーラの里に向かいますよ」
青く、青く広がる大空の下。
俺は…
まだ見ぬ世界、まだ見ぬ自分を探しに歩き始めたあの日の俺を
まだ、何もなかった俺を導いてくれた
姫 と一緒に
「はい。姫」
“生き続けている星 ”を旅する。
__ いつか。
宇宙からの贈り物が届いたときには。
一緒に拾いに行きましょうね。
約束、ですよ。
姫…。
全ての命が消えた世界の片隅。
リンクはワープした先の崖に立っていた。
魂 の先にはトゥーンリンクの母体が。
そこに立ちはだかる魂 は…。
「……遅くなりました
姫……
“ 今日は ゾーラの里に向かいます ”
厄災ガノンを倒し、脅威が去り、再び平穏な日々が訪れたある日。
ゼルダ姫はそう言い、シーカーストーンを見つめた。
話を聞くと、英傑の一人、ゾーラの里の王女のミファーの御父上が俺らから話を聞きたいと言われたらしい。
ここからゾーラの里までは少し距離がある。
一度、何処かで泊まることになりそうだ。
俺は、せめて雨が降らないことを祈りつつ馬に乗り込んだ。
「ふかふかのベッドにするかい?」
「いえ、普通のでお願いします」
俺の予想通り馬宿で一泊することになったのだが、姫はお金に気を遣ってか値段が安い方を選んだ。長時間馬に乗っていたのだから、高い方でも良かったのに…。
「明日にはゾーラの里に到着しましょう。きっと、ミファーの御父上も私たちを待ちわびているはずですから…」
姫はそう言うと、おやすみなさいと一言告げ、眠りに入った。
“ おやすみなさい ”
そう言われたのはいつぶりなのだろうか。
旅をしている間は一人だったし、野宿も多かった。
時折聞こえてくる、姫の声に安堵した日もあった。
記憶がない。
それが、どんなに苦しかったか。
辛いことも、楽しかったことも。
全部、全部忘れて。
“ 俺は誰なんだと ”何度思ったことか。
…今は?
“ でも 私…… もう平気です ”
俺は……。
「……………」
眠れなくなり、俺は姫を起こさないように外に出た。
星が、綺麗だった。
…少し前のことを思い出した。
それは、ゲルドの街に向かう途中にあったシーカータワーを登っていたとき。
ちょうど朝日が昇って来ていた。
綺麗だった。
まるで、この世界は何事もないかのように。
悲劇が嘘だったかのように。
光は、世界を照らしていた。
それは、この世界に祝福を与えようとも。
この世界で起こっていることに気づいていないようにも見えた。
“ まだ この世界は生きている ”
そう思った。
「…あっ」
ふと声が漏れた。
俺が見ていた夜空の方向に、一つの流れ星が。
場所はすぐ近くの山を越えたところだ。
気づけば勝手に、足が動いていた。
「申し訳ありませんでした」
俺が帰って来たのは次の日の朝だった。
目の前には不機嫌な様子の姫が。
「主君である貴方のお側を長時間離れてしまうとは騎士失格です」
「もういいのです。次からは気をつけて下さい」
行きますよと姫は自分の馬に乗り込んだ。
結局あの後。星のかけらを見つけることは出来なかった。つまりは無駄足だ。
襲い来る睡魔と戦いながら、俺も馬に乗り込んだ。
「たっ助けて!」
森の近くに通りかかったとき。俺たちの耳に人の叫び声が聞こえた。
姫は馬を走らせ、俺も後に続くように馬を走らせると、そこには魔物に襲われているハイリア人が。
「姫。ここで待っていて下さい」
「分かりました。…どうか気をつけて」
両手を絡ませ、祈るように見つめる姫に軽く頷くと、俺は背中の鞘からマスターソードを引き抜いた。
「でやっ!」
“この世界”は確かに救われたが、未だに魔物達は人を襲っている。以前よりは勢いはないが…。
俺は小鬼のようなボコブリンの背中を斬りつけると、剣を横に払うようにしてボコブリンを倒した。
「リンクっ」
すぐに姫がこちらに駆け寄り、目で合図すると俺はマスターソードを鞘に収めた。
「大丈夫ですか?」
「あっ…はい。おかげ様で…。助かりました!」
姫がハイリア人の女性に手を差し伸べると、女性は安心したように笑顔を見せると姫の手を取って立ち上がった。
…話に聞くと、女性はこの森に生えるキノコを採りに来たらしい。
「そうですか…。しかし、いつまた襲われるか分かりません。早めに帰った方がいいと思います」
「ですよね…。せっかくここまで来たのですが…」
明らかに女性は残念そうだ。
すると姫は女性に分からないようにコッソリと耳打ちをした。
「…リンク。少し寄り道してもいいですか…?」
「はい。ゆっくり向かいましょう」
実のところ、俺は姫が言いたいことは予想付いていた。
少し口調が強く、顔も強張っている姫だが、誰よりも努力家で、根は強い。更に王族として、人に手を差し伸べるのを忘れないのも姫の良いところだと俺は思う。
…今は、厄災との戦いのこともあるが。
「わあっ…ありがとうございます!」
どうやら俺が考え事している間に話が進んでいたようだ。
「私たちはここで待っていますね」
「もしよかったら、一緒にキノコ狩りしませんか?」
「………え?」
と、姫が困惑している間に女性はその手を掴むと俺が止める隙もなく森の中に姫を連れて行ってしまった。
「あっ…!」
俺もその後を追い、森の中へと入った。
「どのキノコを採れば……」
「あ〜、食べられるようなものだったら何でもいいですよ。色んなことに使うので」
分かりましたと姫が頷くと、女性は慣れた手つきでキノコを採っていった。
俺が姫を見つけると、姫は食べられるキノコかは知っているらしいが、採り方がよく分からないみたいだった。仕方なく姫はあの女性に話しかけようとしているようだが、女性の方は気づいてはいないようだ。
「…こうやって、採ればいいんですよ」
俺は姫の隣に膝をつき、採ろうとしていたキノコを採った。
「あれ、採ってみて下さい」
近くにあった緑色の傘をしたハイラルダケを指すと、姫は一度俺の顔を見てからゆっくりと地面から引き抜いた。
「ね。簡単ですよ」
「その通りですね…。あ、リンクも手伝って下さいっ」
「はい、分かりました」
その後、俺たちはたくさんのキノコを回収した。
…ときおり、姫と女性が楽しく話している光景が嬉しく思った。
「ありがと〜〜ございましたぁ〜〜!!」
昼過ぎ、俺たちはいくつかのキノコを分けてもらい、女性と別れた。
大きく手を振る女性を背に、俺と姫は再び馬に乗り込んだ。
「楽しかったですね」
「はい。これを調理するのが楽しみです」
「料理なら俺に任して下さい」
「はい。頼りにしています、リンク」
また、あのときの笑顔に戻って来た。
今日の夜ご飯は最高のものにしよう…。そう心に決めたときだった。
「…リンク」
「どうされました?」
返してみたが、姫は言おうかどうか悩んでいるようだった。
俺は何も言わず、姫の言葉を待った。
「あ…あの……」
「はい」
「昨日の夜は…どうして出掛けたのですか…?」
「……星のカケラを見つけに」
そう答えると、姫は口を閉ざした。
やっぱりバカげてるよな…。
「…今度見つけるときは」
…ん?
「私も、連れて行って下さいね」
……んんっ?!
「えっ、ひ、姫っ」
「何ですか」
「今の…今の、もう一度!」
俺の聞き間違いかもしれないと思い、俺は姫の後ろに付いていたが、横に並ぶと顔を覗き込んだ。そうすると姫は顔を背けたが。
「…言いません」
なんでっ!!何でですか姫!!
俺は叫びたい衝動に駆られたが、如何にか押さえ込んだ。
「姫っ」
「言いませんったら言いません!」
姫は俺から逃げるように馬の速度を早くした。
これは……聞き間違いじゃないってことか…?
「さあ、リンク。ゾーラの里に向かいますよ」
青く、青く広がる大空の下。
俺は…
まだ見ぬ世界、まだ見ぬ自分を探しに歩き始めたあの日の俺を
まだ、何もなかった俺を導いてくれた
「はい。姫」
“
__ いつか。
宇宙からの贈り物が届いたときには。
一緒に拾いに行きましょうね。
約束、ですよ。
姫…。
全ての命が消えた世界の片隅。
リンクはワープした先の崖に立っていた。
そこに立ちはだかる
「……遅くなりました
姫……
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