Super Smash Bros. - Cross × Tale -

3:合流せし戦士達【1】


「やだやだやだやだぁああ〜‼︎」

 わずか数時間の夜を終え、迎えた朝。
 食堂に響き渡る桃玉の叫び。床に寝そべり短い手足をバタバタする仕草は、我儘な子供を彷彿ほうふつとさせる。

「マリオばっかずるい! ぼくもお外行きた〜い!」

 何やらカービィは、先日ヴィルヘルムと共に城の外へと出たマリオを羨ましく感じているようだ。

「駄目だろ、カービィ。昨日の手続きだってお前だけ終わってないのに」
「むずかしいんだもん! フォックス代わりにやって〜」
「やれやれ……」
「退屈に感じてしまうのも無理はないな。カービィ、ひとまず食事にしないか? せっかくの料理が冷めてしまう」
「たしかに! 料理への『ほうぼく』だね!」
「『冒涜ぼうとく』な」

 フォックスがひたいを抑える傍ら、同席していたマスターがその場を丸く収めたことで朝食の時間となる。

「なんだか賑やかな場所だね……」
「そうだな」

 遅れて合流したルイージの呟きに、マリオも同調する。

「それに毎食美味しいご飯を作ってもらえるなんて、贅沢だなぁ」

 食事に関しては毎食決まった時間に食堂へと赴き、数あるメニューの中から食べたい料理を選び、厨房と一体化しているカウンターから内側にいるコック達に注文する形となっている。
 ……昨日よりコックが増えているのは気のせいだろうか。

「オレはもっとバナナ料理が食いてえけどな〜」
「うるせえゴリラ黙って食え」
「おかわりー!」
「ボクもおかわりー!」

 喧々けんけんたる食事風景には苦笑せざるおえない。ルイージとフォックスが顔を見合わせる中、マスターは冷静に耳を傾ける。

「メニューのリクエストは近いうちに対応出来るようにするとしようか」
「あの、マスターさん。キッチンってお借りできますか?」
「ああ。食事の時間以外なら、好きに使ってくれ。担当の者には私から話しておこう」

 良かったなとフォックスが言えば、嬉しそうに笑う。

「今後、食事に関してはヴィルではなく私に申し出てくれると嬉しい」
「どうしてだ? マネージャー……はヴィルなんだから、そっちに相談したほうがいいんじゃないか?」

 フォックスの指摘通り、彼らが所属する【乱闘部隊】(仮)のマネージャーはヴィルヘルム。マスターはあくまで彼の上司である。
 マスターは困ったように微笑み返す。

「あの子は食事が苦手でね。誰かと卓を共にすることは滅多にない。そのような者に要望するのは気が引けるであろう?」
「一度も食堂に来ないのはそういう理由か」

 食事を共にしないという点なら――軽食だけ注文して自室にも戻ったサムスも同じだが、やや事情が異なる。
 これに驚いたのはマリオとルイージだ。

「どうしよう……無理やりだったかな……」
「ヴィルと何かあったのか?」
「実は――」

 マリオは昨日、ルイージを探しに自宅へと戻った際にパスタをご馳走したことを話す。

「完食してたし、そのような素振りもなくて……悪いことしちまったな」
「嫌だとしたらハッキリと断っているはずだ。恐らくは好意を無下むげにしたくなかったのだろうな」

 「あまり気にしないでやってくれ」とマスターが沈黙する一同に告げた時、噂をすればなんとやら。

「おはようございます」

 鞄を引っ提げて現れたヴィルヘルムは、皆の反応に眉をしかめる。

「おはよう、ヴィル。今日も彼らを探しに行ってもらえるか?」
「……勿論です。これから向かいます」
「ああ、そのことだが……」

 マスターは、口いっぱいに食べ物を詰め込むカービィへ手のひらを差し向ける。

「彼も連れて行ってもらえるか」
「えっ! いいの⁉︎」

 一気に胃袋へと押し込んだカービィは、嬉々ききとして瞳を輝かせた。

「甘やかしていいのかー?」
「『大乱闘システム』のメンテナンスは最低でも明日までかかる。いずれにせよ、皆には待って貰わなければならなかったからな」

 カービィは元気な声で「ごちそうさまでした!」とお皿を返すと、ヴィルヘルムに飛びつく。

「それでは失礼します」
「行ってきま〜す!」

 難なく受け止めたヴィルヘルムは軽く会釈えしゃくし、カービィを連れて『ポータルルーム』へと向かう。

「では私も仕事に行くとしよう。先程言った通り、今日一日は自由に過ごしてくれ。迷子にだけはならないように」

 一足先に朝食を食べ終えたマスターも離席した。

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