困惑の戦士達

12:困惑の戦士達【7】


「うん、うまい!」
「リンクってりょーり上手なんだね〜」

 巡り巡る日の朝。湯気が揺蕩う鍋を囲う彼らは、リンク特製のスープに舌鼓を打つ。
 マリオとカービィが口々に笑みを浮かべ、ヨッシーはそうでしょうと自分のことのように鼻を高くする。

「ボクもリンクの料理の腕に骨抜きだよー」
「有り合わせで作ったものだが、喜んでもらえたなら何よりだ」

 おたまでスープをかき混ぜながら歯を見せて笑うリンクの隣では、ピットがよそられたスープを両手にじっと凝視。

「これが人間が食べるもの……」
「温かいうちに食べないと不味くなるぞ」

 器の縁を口元にグッと一口煽ったピットは、その美味に瞳を輝かせる。

「うわっ美味しい! 人間のご飯も悪くないね!」
「そいつはどうも。……あんたは食べないのか?」

 一行から少し離れた場所で地平線の彼方を見つめるラフェルトは背を向けたまま「いらなーい」と返す。

「じゃあぼくが食べちゃう!」
「あっ! ずるいよカービィ!」

 食いしん坊組が残りのスープを取り合う光景に、マリオとリンクは目を合わせて互いに肩をすくめる。
 そんな賑やかな彼らのもとに──肩に青き蝶を連れたラフェルトが歩み寄り、微笑。

「方向を確認したよ。……出発する?」

 五人の戦士はそれぞれ一斉に返事と共に頷き返した。

「あっでも鍋洗ってから……」
「ボクもまだ残ってるからちょっと待ってー!」

 慌てふためくリンクとピットに、すぐには出発出来ないと判断したマリオはラフェルトに告げる。

「ラフェルト、方角はどっちだ?」
「うーんと向こうかな?」
「分かった。悪いが、先行してきてくれないか? すぐに追いつくから」
「いいよ。……面白いものもあるみたいだし」

 囁かれた言葉を聞き取れず聞き返すマリオに「なんでもない」と目を細める。

「じゃあまた後で」

 その背に青き蝶の翅を携えたラフェルトが颯爽と空を駆けた。



 荒れ果てた荒野の空を進むひとつの影。
 緑のローブに目元を除く全身を覆う──エインシャント卿は、今日もまた『×』印のついた爆弾を規律よく運ぶ。
 全てはあの方の野望の為。
 全てはあの島の平穏の為。
 そのために自分は生み出され、偽りの忠誠心を植え付けられた。
 あと何体の仲間を犠牲にすれば、この苦しみから解き放たれるのだろうか。
 日に日に募る忸怩じくじたる想いに物耽る最中。

「やあ、こんにちは」

 背後から投げかけられた声に億劫げに振り返る。

「久しぶり。朝から仕事熱心だね」

 自分は、この男が嫌いだ。
 何よりも気まぐれで捉えどころのない心に。
 何よりも自由で羽ばたいていけるだけの力を持つことに。
 苛立ち、というものを抱いている自分がいる。

「少し話をしようよ。……エインシャント卿」

 耳を傾ける行為は愚かだったのか。
 機械仕掛けの脳は教えてくれなかった。

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