Super Smash Bros. - Cross × Tale -

2:はぐれ者を探しに【3】


 マリオとルイージの自宅はタウンから少し離れた場所に佇むログハウス。人2人が住むにはちょうどいい広さだ。
 マリオはヴィルヘルムに『ちょっと待っててくれ』と立ち止まるよう指示。自身は入口の扉前まで進み、慎重にノックした。

「ルイージ? 中にいるかー?」

 数秒に渡る沈黙を経て、家の中からドタドタと大きな足音が。

「兄さん⁉︎」

 扉が取れる勢いで開け放ったのは、マリオよりも身長が高く緑色の帽子を被る双子の弟、ルイージ。

「大丈夫だったかルイ」
「兄さぁああああん‼︎」

 マリオの台詞を遮り、ルイージは――まるで長年生き別れた末の再会の如く(実際には数時間)――兄に抱きつき、幼児のようにわんわん涙を流す。

「キノピオ達みんなおかしな事言ってるし全く聞いたことがない場所ができてるし何がなんだかワケが分かんないよぉおお」
「そうだな、訳が分からないよな」

 毎度のことなのかマリオはルイージをすんなり受け入れ、背を摩りながらうんうんと頷く。

「信じがたい話だけど、まずはアイツの話を聞いてやってくれよ」
「え……?」

 そこで始めてルイージは、マリオがお客さんを連れて来ていることに気づく。一気に涙腺が引っ込んだルイージは目尻に溜まった涙を拭い、兄から離れる。

「お初にお目にかかります、ルイージ様。ヴィルヘルムと申します。この度はこちらの事情に巻き込んでしまい、申し訳ございません」
「ええっと……?」

 狼狽える弟に無理もないよなと肩をすくめる。

「とりあえず中で話そうぜ」
「う、うん、そうだね。お茶用意するね」
「あっ……」

 小さく声を上げたヴィルヘルムに、マリオとルイージは首をかしげた。

「どうした?」
「その……お気遣いいただくなくて結構ですので……」

 遠慮がちなヴィルヘルムの態度に、怖がっていたルイージは認識を改めて。

「気にしないで。おもてなしするの、ボク好きだからさ。ついでにご飯も一緒に食べない?」
「ご飯作ってたのか?」
「これからね。パスタ作っていたら、兄さん帰って来るんじゃないかーって」

 オイオイと半眼を向けていたマリオだったが、ふとヴィルヘルムの言葉を思い出す。

「あ、来る前に『ご飯はあとで食べる』って言ってただろう? ちょうどいいや、一緒に食べようぜ。ルイージのパスタ絶品だからよ」
「また調子の良いこと言って……サラダは抜かないからね!」

 と、中に戻るルイージの背に苦笑をこぼす。

「ほら、中に入れよ」
「……はい。お邪魔します」

 家の中に招かれたヴィルヘルムはパスタ作りを始める前に、ルイージに『アルスハイル王国』や『具現化』について説明した。

「じゃあキノピオ達はおかしくなったんじゃなくて……どちらかと言えば、ボク達のほうがおかしかったんだね」

 通りで話が噛み合わない訳だ、とルイージは眉を八の字に曲げる。

「ルイージ様がご希望であれば、無理にこの世界に留まっていただく必要はございません。ハッキリと仰っていただいて構いません」
「えーっと……」

 チラッとルイージはマリオを一瞥。心情を汲み取ったマリオは椅子から立ち上がると。

「ヴィルヘルム。少し2人だけで話させてくれ、ここに居てくれればいいから」
「分かりました」

 マリオはルイージを連れて奥の部屋へ。ヴィルヘルムに聞こえないよう声をひそめる。

「話していいぞ」
「うん。あのね……兄さんはどうするの……?」
「ボクは残るつもりだ。ヨッシーもドンキーもいるし、何より面白そうだしな。それに……」
「それに?」

 柔らかい笑みを湛え、マリオは目を閉じる。

「放っておけなくて。この世界も……」

 ルイージは決心したように力強く頷く。

「分かった。ならボクも残るよ」
「いいのか?」
「兄さんをひとりには出来ないよ。ボクら2人いれば、何とかなるんでしょう?」

 片目を瞑って見せたルイージに、にっと歯を見せて笑う。

「そうこなくっちゃな!」

 ヴィルヘルムの元に戻ったルイージは滞在の意思を伝えると、早速パスタ作りにとりかかった。



「ご馳走様でした。とても美味しかったです」
「そう? なら良かったよ」

 パスタは別腹といった具合にご飯を食べたばかりのマリオも無事完食。後片付けしようと立ち上がったヴィルヘルムを、ルイージは優しく制す。

「あ、ボク片付けるからいいよ」
「ですが……」
「こういうのは一人でやったほうが早く終わるものだよ」
「ルイージなりのこだわりがあるもんな」
「そうそう」

 それならと座り直したヴィルヘルムにマリオが問うた。

「それでこの後はどうするんだ? まだ見つかってないヤツを探しに行くか?」
「いえ、城に戻ります。もう日が暮れますので」

 ヴィルヘルムの言葉にマリオも、ルイージも窓の外を見遣る。気付かぬうちに陽は落ちかけ、黄昏時を迎えていた。

「もうそんな時間?」
「なんか早かったな」
「……そう思われるのも仕方ありません。現在この世界では『虚空の霧』の影響で時空が歪んでおり、一日が15時間となっています」
「「えっ⁉︎」」

 驚愕の真実に思わず声が揃った2人。

「も、元々は何時間だったの……?」
「24時間でしたが、霧の侵攻範囲拡大とともに時間が短縮されていきました。ですが、『具現化計画』によって範囲が縮小されたのであれば……いずれかは元に戻るはずです」
「そっかぁ。なら良かったね!」
「はい」

 数日間家を空ける準備を整えたマリオとルイージを連れて、ヴィルヘルムは城へ帰還。
 夕食の前にマリオとルイージ、それぞれの自室を案内した後、ヴィルヘルムは2人と別れた。

「じゃあ兄さん、あとでね」
「おう」

 荷物ほどきのついでに与えられた自室でひと休みしようと。ルイージとも一旦別れたマリオは、荷物を下ろしベッドに飛び込んだ。スプリングが弾むベッドはシーツも肌触りが良く、高品質であることが分かる。
 ごろんと仰向けになったマリオから少しして、寝息が聞こえてきた。

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