雲海での出会い

11:雲海での戦い【2】


「いっつつ……あ、頭がガンガンする……」
「だ、大丈夫?」

 フィギュア化を解除されたマリオは乱れた帽子を被り直し、立ち上がる。
 そこには自身の傍らで介抱してくれる天使と、傍観している少年。

「…………天国か?」
「違うよ⁉︎」

 目覚めたばかりで混乱するマリオにピットは、ここは女神パルテナが治める“天空界”と地上の狭間である事。
 自分はそこからマリオとカービィの『大乱闘』を観戦しており、戦艦や謎の敵の襲撃。マリオが吹っ飛ばされたあとにワリオという人物によってゼルダが連れ攫われ、空中スタジアムが爆発に巻き込まれたことを簡潔に説明した。

「またかワリオの奴! 一体何を考えてるのやら……」

 くそっと地団駄を踏むマリオはふと気づく。

(こんな事態になっているのにヴィルやマスターはどうしたんだ……? ……変なことに巻き込まれてないといいが)

 視線を落とし想いを馳せるマリオに、ピットが不思議そうに名前を呼んだ。

「あ、ああ、悪い。それで二人とも協力してくれるんだよな?」
「もちろん! パルテナ様のご命令だし!」
「僕もそのつもりだよ」

 二人の意思を受け取ったマリオは改めて謝辞を述べる。
 しかしながら、ラフェルトと名乗る少年が発した言葉に多少なりとも衝撃を受けた。

「“時々”ね」
「と、時々⁇」

 何を言ってるんだと目を細めるマリオに、そうと食指を立てて。

「僕には僕の『目的』がある。それは君達の『目的』とは少し違うんだ。だからたまに抜けちゃうこともあるけど気にしないで」
「なるほどそういう意味か。なら仕方ないな」

 協力してくれるだけありがたいとマリオは歯を見せて了承。

「じゃあ早速戦艦を──」
「その前に」
「まだあるの〜……?」

 意気揚々と拳を振り上げたピットの腕がへにゃりと曲がる。
 「まあまあ落ち着いてよ」と宥める中、ラフェルトは話し始める。

「君達がこれから対峙する敵……『亜空軍』の話をしようとしてるのにさ」
「「⁉︎」」

 今度ばかりはピットもマリオと互いの意図せず顔を見合わせるほど、彼らに衝撃が走る。

「君達が戦っていた人形みたいなのは『プリム』。『影虫』で作られる『亜空軍』の一般兵だね」
「ちょちょっと待った。いろいろ単語がでできて分からない」
「『亜空軍』って何かからお願い!」
「そうだねぇ、僕としたことが展開を間違えたよ」

 詰め寄る二人をさりげなく引き剥がし、ラフェルトは敵である『亜空軍』について説明を始めた。

「『亜空軍』はこの世界のあらゆる場所を“切り取って新しい理想郷を造るため”に組織された」
「新しい理想郷……?」
「そ。そのために邪魔なものを排除しているのが、プリムの雑兵やワリオを始めとする幹部達」
「うーん、つまりはこの世界を壊そうとしてるってことだよね!」
「早々に理解を諦めたな」
「あながち間違ってはないよ。とにかく君達がこの事態を鎮めるためには『亜空軍』のリーダーを倒すんだ」
「そのリーダーってなんだ? こんな大掛かりな事が出来るヤツなんて限られて……」


「──マスター・Hアッシュ・ドロワット」


「……え」
「? 誰、その人」
「この国の宰相だよ。確か『大乱闘』を指揮してる人じゃなかった?」

 ピットがマリオを見遣れば、マリオは分かりやすく狼狽えていた。

「そんな……でもまさか……!」

 確かに“創造神マスターハンド”であれば、こんな大掛かりな非常事態を招くことは可能だ。
 だがマリオは信じたくなかった。あの日、マスターと過ごした日々を鑑みれば……。

「マリオ、大丈夫?」

 心配するピットにマリオは帽子の鍔を摘み、潔く持ち上げる。

「──確かめに行く。ピット、ラフェルト。手伝ってくれ」

 覚悟を決めたヒーローに怖いものはない。
 ピットは背中の翼を上下に羽ばたかせながら、「はーいっ!」と。
 ラフェルトは片笑みながら、「はーい」と。
 かくして、マリオは再出発することに。ピットとラフェルトと共に戦艦を目指す。

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