十字架の鎮魂歌

7:十字架の鎮魂歌【5】


 仲間達の猛る声と、クレイジーハンドの筆舌に現しがたい叫びの中。紡がれていく9種の魔法。

「【十と五の白き祈り、繋ぐは光の神秘、我が身を囲え母なる聖環──】」
「【何人なんびと侵せぬ穢れなき聖櫃せいひつよ、ここに──】」
「【在るべき姿へ回帰せよ──】」

 ひとつも間違いは許されない。
 ……いや、昔の自分なら、ひとつすら成功できなかった。

「【安寧齎せ、治癒の月光ひかり──】」
「【穢れを祓う聖盾たてとなれ──】」
「【戒めよ純潔の連環──】」

 轟く轟音と立ち昇る爆風を身に受けながら、僕は詠唱のみに集中する。
 今度こそ……今度こそ成功させるために!

「【闇夜に光あれ──】」
「【我が同胞に聖女の微笑みを──】」
「【汝に下すは主の天命──】」

 9つ目の詠唱を完了した瞬間。白き魔法陣が大きく咲き誇る。
 その中心に佇むヴィルヘルムは、瞑目していた双眸をようやく開眼。“最後”の詠唱を紡ぐ。

「【遥か天に眠りし純白の翼、偉大なる彼の者に願い奉る。この身に掲げしは邪気祓うつるぎ、英魂導く天秤、十字架ロザリオの聖歌。降臨せよ三条の光柱はしら──】」

 ヴィルヘルムの詠唱は順調かと思われた。
 だが、その油断が全てを変えてしまう。

『キャハハハハぁあああああああああああああああ‼︎‼︎‼︎』
「しまっ──」

 僅かな隙を縫い、クレイジーハンドはヴィルヘルムのもとへと突撃。

 ──グシャッ、と肉が千切れる音が響いた。

 マリオを初めとするファイターらが、その光景に蒼白する。
 クレイジーハンドの指が、ヴィルヘルムの腹部を射抜いていたのだ。中身が飛び散る。
 目を開けたままハイライトを失うヴィルヘルム。
 返り血を浴びるクレイジーハンドの指。


「──クロイツの名のもとに、ここに封印せん】」


 澱みなく紡がれた最後の詠唱文。
 それは紛れもなくヴィルヘルム自身が口にしていた。
 白き十字架に串刺しにされたクレイジーハンドから解放されたヴィルヘルムの肉体が、力なく地面に叩きつけられる。

「……ざまあみろ」

 マスターによる呪いの効力で『死ななかった』ヴィルヘルムは、眩いほどの光に包まれていくクレイジーハンドをしたり顔で見送る。
 それを最後に──僕の意識は完全に途切れた。

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