十字架の鎮魂歌
マリオ、ヴィルヘルム、マスターの三人は【乱闘部隊】のメンバーが待つアルス城2階に位置する大広間へ足を踏み入れた。
かつて彼らがこの世界に『具現化』された際に、初めに訪れた場所でもあるここに一堂が会する。
マリオは不思議な気分に満ちていた。
「皆様お待たせいたしました」
一歩前へと進み出たヴィルヘルムの声が、波打ったように静寂をもたらす。
静かに耳を傾ける彼らに内心感謝しつつ、少年は堂々とした立ち振る舞いで今回の作戦についての説明を始めた。
「今回の最終目標は、邪神クレイジーハンドの封印となります」
「──それに関してひとついいか」
話の腰を折ったのはサムス。ヴィルヘルムはそちらを見遣ると、軽く頷き返す。
発言権を得たサムスは自らの疑問を呈した。
「封印、との話だが討伐ではダメなのか? そちらのほうが安泰だろうに」
サムスの疑問にヴィルヘルムは淡々と答えた。
「ここ『アルスハイル王国』を含めた世界は今、最高神の代わりであるマスター様とクレイジーハンドが『共存』していることで成り立っております。どちらが消滅することは、この世界の崩壊も意味するのです」
「だから討伐ではなく封印なのだな」
得心いったように頷くサムスから、再び視線を全員へと移す。
「封印には僕が使用する【ジャッチメント・クロイツ】という魔法を使用します。ですがこの魔法は発動条件が大変厳しく、クレイジーの妨害を躱しながらとなると……最低でも10分かかることは否めません」
「10分……少しばかり長いな」
「しかも失敗は許されないんだろ?」
口々にファルコンとフォックスが口を挟めば、ヴィルヘルムは視線を落としつつ肯定。
「……その間皆様には、クレイジーの力を削いでいただきたいのです」
「そういうことなら喜んで」
マルスのまっすぐな答えに気持ちが引き締まる。
「ですが皆様には個々で行動するのではなく、チームで行動してもらいます。仲間討ちなどを避けるために」
ヴィルヘルムは《スマデバイス》を取り出すと、巨大なスクリーンを投影した。それは彼なりに考え編み出したチーム分けの一覧。
「同じ出身地メンバーを中心に構成しました。ご確認ください」
全員が食い入るように見つめる中、リンクとゼルダはその柳眉をひそめた。
彼らと同じチームに──あのガノンドロフがいるからだ。
こちらの視線に気づいた男はフンと鼻を鳴らして嘲笑するだけ。
万が一身勝手な行動をした場合に備えてという意思は汲み取っているものの、やはり納得は出来ないリンクに、不安な視線をゼルダは送るのだった。
と、その時。
──ズトォォォォン……‼︎
城の外からけたたましい爆音が響き渡る。
マスターとアイコンタクトを交わしたヴィルヘルムは城外へと駆け出し、残りのファイターらも続く。
「……頼んだよ、歴戦の戦士達」
ひとり残されたマスターの呟きは、誰の耳にも届くことはなく落ちていった。
ヴィルヘルムとマリオを筆頭に『アルス王城』のはね橋を駆け抜け外へ。
暗雲立ち込める空の下彼らを待ち構えていたのは、巨大な『左手』だった。
『……よォ、王子サマにお人形共』
ノイズ混じりの声は聴覚に痛みを生じ、複数のファイターが思わず耳を塞いだ。
その中でヴィルヘルムは様々な感情を押し殺し、宿敵であるクレイジーハンドを見上げる。
『遺す言葉がアれば……聞イてやるぜェ?』
「必要ない」
光杖《ルミナスクロス》を構えたヴィルヘルムにマリオは何も告げず、ヴィルヘルムもただ頷きだけを返す。
『なラ、早速──殺リ合おウぜェェエエエエエエエ⁉︎⁉︎』
それが、『クレイジー』として発した最後の言葉。
以降は完全に『破壊の化身』としてのヤツと化した。
ヴィルヘルムの足元に広がる魔法円。
視界を覆いつくすほど舞い上がる光粒に見守られる中、【乱闘部隊】のファイターは一斉に発走する。
目標──クレイジーハンド。
この世界の存続を揺るがす戦いが今、火蓋が切られた。