想イノ終着点

6:想イノ終着点【19】


「……事の発端は今から600年前。まだこの地が、『クロイツ王国』と呼ばれた時代にまで遡る」

 あらましを静かに語り出したマスターの話に、マリオ達は耳を傾ける。

「『クロイツ王国』は周囲を地水火風の聖域に見守られた光の王国。その歴史は千王朝にも及ぶと言われ、長きに渡り安寧が保たれていたという。しかし一方で、いにしえより語り継がれた予言が的中した」
「予言?」
「……『二と一の冠を戴く者。大いなる光と共に世に体現し、その身を持って地を照らす光とならん』。二と一の冠、つまり21代目国王となる者が産まれた。それが──」


 ヴィルヘルム・クロイツ。
 元『クロイツ王国』の“王子”。


「……なるほど、通りで佇まいが綺麗なわけだね」

 以前からヴィルヘルムの王族たる姿勢を感じ取っていたマルスは得心がいったように頷くも、リンクは「ちょっと待て!」と矛盾点を指摘。

「今話してる内容は600年も前の話だろ? なんでヴィルヘルムが出てくるんだよ!」
「同じ名前の別人とか?」
「いいや、同一人物さ。……話を戻しても?」

 リンクとネスは戸惑いがちに頷き返し、マスターは話を戻す。

「予言が的中すると同時、不穏な邪神の兆候が見られたという。彼らは邪神に立ち向かうため、各地域に住む優れた属性使いに『賢主』という名を与えた。このうちの一人が、光の賢主・ヴィルヘルム。彼を筆頭に来たる邪神討伐への準備が進められ、いよいよ運命のときを迎えた……のだが」
「? どうした、マスター」

 口ごもるマスターに首をかしげるマリオ。
 暫しの間瞑目していたマスターは意を決したように開眼。

「復活した邪神の力は彼らの想定を遥かに上回り……賢主は全滅。ヴィルも戦いの中で……無惨にも『殺された』」
「「「「……!」」」」

 息を呑んだ彼らの驚愕は筆舌には尽くし難いものであった。
 殺されたのならば、自分達が話している『ヴィルヘルム』は……?
 その疑問は、話の続きで明かされる。

「私が目覚めたのは『クロイツ王国』が滅亡し、世界の大半が『虚空の霧』で覆われ、力を使い果たした邪神が眠りについた──全てが終わったあとだった。
意識が朦朧とする私はヴィルの死体に近づき、付近に落ちていた剣を媒介に……『生き返らせた』。それが、君達が今日こんにちも見るヴィルヘルム・クロイツなのだ」

 言葉を失う彼らの間に沈黙が流れる。
 いかなる回復術でも蘇生できぬ、完全に死んだ者を生き返らせた。
 幼いネスであれど禁忌であることは理解できるそれを、目の前の男は何の障害もなく行使した。

「マスター……お前は一体……」

 マリオの問いかけに、マスターは右手を触れながら答えた。

「我が名はマスターハンド。最高神の『右手』から生まれし、創造の化身。……そして邪神は、同じ最高神の『左手』から生まれた破壊の化身──クレイジーハンド」


☆★☆


「この前ヴィルを殺した人も、その邪神だったんだね……」

 時同じくして地下教会。
 マスターと同じ内容をカービィに語ったヴィルヘルムは、小さく頷いて肯定。

「僕の体は死体同然。だから食べ物は全部金属になるし、殺されても強制的に生き返る……。アイツだったら殺してくれるかなって思ったけど、結局駄目だった」

 カービィは掛ける言葉を失う。
 理解し難い、理解し得ない境遇。永劫に続くであろう苦しみに、涙することしか出来なかった。
 ヴィルヘルムはそんな優しいカービィをそっと抱き寄せ、ごめんねと繰り返す。
 血が滲んだ十字架を、淡い光が照らした。

「ヴィル……誰に謝っているの?」

 ハッとしたヴィルヘルムが咄嗟にカービィを遠ざける。
 曇りなき青い瞳に、戻れない過去を想起したヴィルヘルムの視界が滲む。

「……なんでもないよ、カービィ」
「ヴィル……」

 頭部を撫でられたカービィは終始俯き気味で。
 ヴィルヘルムは目を伏せた。

「もしも僕に君達のような強さがあったら……何も失わずに済んだのかな」

 ああ、そうなのか。
 そうだったんだ。
 ずっと、ずっと彼は──絶望の中で生きているんだ。
 穢れた光とともに。

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