想イノ終着点

6:想イノ終着点【16】


 『大乱闘』成功祝賀会開始から時は前後する。


「約束は果たしたぜ、マスター」

 城内下層部に位置する『システム管理室』。
 マリオ、リンク、ネス、マルスの四人は、自分達をここへと呼んだマスターと対峙していた。
 ――『大乱闘』トーナメントに四人のうちの誰かが優勝したら全てを話す――
 アルス王の人形を前にそう告げた光景を、瞼の裏に想起したマスターは「そうだな」と肯定。

「では行こうか」
「は? どこに?」
「君たちは真実を知りたいと言った。真実を語るには私の“擬態”も解除せねばなるまい」

 掌を胸元に添えた宰相の姿が――僅かに揺らいだ錯覚に陥る。

「そうなれば……私は理性を失い、君達に襲いかかるだろう。だからどうか、私を倒してくれ。真実を知りたければ」
「待っ……!」

 制するより早く、マスターの指先がシステムのキーボードを軽やかに叩く。
 眩い光に目が眩んだ一同は次の瞬間――『大乱闘』のステージである『終点』のステージ上に転移していた。

「な、なんで⁉︎ 《ポータル》には入ってないのに!」
「それにマスターの姿もないね」

 混乱するネスに、冷静に周囲を見渡すマルス。

「何か来るぞ!」

 上空を見上げながら叫んだリンクの一声で、三人の視線がそちらに集中する。
 遥か天上からふわりふわりと飛来するのは――彼らの倍以上は優に超えるであろう巨大な『手袋』。

「ま、まさか……」

 喉を震わせたマリオは、その名を口にした。

「『マスター』……なのか?」

 巨大な『手袋』は沈黙したまま、マリオ達の頭上近くで停止。
 異形とも呼ぶべき姿に困惑する一同を置き去りに――『手袋マスターハンド』は攻撃を開始した。


☆★☆


「……!」
「マリオッ!」

 手遊びの如く指を組んだかと思えば、指先から放たれたのはキラー銃弾。真っ先に狙われたマリオは衝撃のあまり対応出来ず、硬直。飛び込んだリンクが盾を構え、銃弾からマリオを守る。

「ぼーっとしてんじゃねぇよ」
「わっ悪い……」
「――はあっ!」

 裂帛の声とともにマスターハンドとの間合いを詰めたマルスが高く跳躍。身を捻り、手にしたファルシオンでマスターの指先を切り裂くも――。

「! 傷がない……⁉︎」

 華麗に着地したマルスは、確かに手応えがあったのにと眉を顰める。

「たぶん『大乱闘システム』と同じなんだよ!」

 PSIの力で浮遊したネスが手のひらにパワーを凝縮。一気に解き放ち攻撃する。

「ならステージから吹っ飛ばされたが最後……」
「ボク達の負けってことになる」

 帽子を被り直したマリオの言葉に、全員が固唾を飲んだ。
 『マスター』が言っていた「私を倒してくれ」という言葉を信じて相対する覚悟を、今こそ。

「前後から攻めるぞ!」
「うん!」「ああ」「分かったよ」

 攻撃が激しいであろう正面をマリオとリンクが。背後にはマルスとネスが構えを取り、挟撃を選択。

「でやああああああ‼︎」

 腰を低く落とし、回転しながら上昇――【回転斬り】を繰り出すリンクの後ろでマリオも【ファイアボール】を投げつける。
 そんな彼らを叩き落とそうとするも、紙一重で回避され、背後からファルシオンの円月斬りと【PKフラッシュ】の光が直撃。
 マスターハンドは怯る様子はないものの、何かしらのダメージを与えられているのは明確であった。

「ぐはっ」
「「「ネス‼︎」」」

 とここでマスターハンドが反撃に転じる。
 急接近したかと思えば、その大きな手でネスの体を掴んだのだ。

「このっ離せ!」

 リンクを皮切りに、マリオとマルスもマスターハンドに攻撃。ネスも呻き声を上げながら、【PKサンダー】を発動させて追撃。ようやく解放される。
 しかし、マスターハンドはこれを待っていた。
 全員が自身の正面に来る瞬間を。

『⁉︎』

 指先から細く伸びるレーダーに驚愕を露わにする。
 回避する隙間もなく、レーダーは彼ら四人の身を焼き焦がす。

「ぐああああっ……!」
「くそっ……!」

 焼損した衣類からたらりと流れる『血液』。『大乱闘システム』では決して追うことのない焼跡に呻き声を洩らせば、続け様に大きく払われた手に吹き飛ばされる。
 下を見れば――底なしの空。

「リンク! マルス! ネス!」

 落ちてたまるかとステージの端を間一髪掴んだマリオだったが、他の三人はそのまま落下。やがてノイズが走ったかと思えば消えてしまった。
 マリオは奥歯を噛み締め、這いずり上がる。不気味さ漂うだけの手袋を前に気後れしそうになった、その時。

「マリオ!」「マリオさん!」

 入れ違いに現れた二人の姿に目を見開いた。

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