想イノ終着点
『大乱闘』成功祝賀会開始から時は前後する。
「約束は果たしたぜ、マスター」
城内下層部に位置する『システム管理室』。
マリオ、リンク、ネス、マルスの四人は、自分達をここへと呼んだマスターと対峙していた。
――『大乱闘』トーナメントに四人のうちの誰かが優勝したら全てを話す――
アルス王の人形を前にそう告げた光景を、瞼の裏に想起したマスターは「そうだな」と肯定。
「では行こうか」
「は? どこに?」
「君たちは真実を知りたいと言った。真実を語るには私の“擬態”も解除せねばなるまい」
掌を胸元に添えた宰相の姿が――僅かに揺らいだ錯覚に陥る。
「そうなれば……私は理性を失い、君達に襲いかかるだろう。だからどうか、私を倒してくれ。真実を知りたければ」
「待っ……!」
制するより早く、マスターの指先がシステムのキーボードを軽やかに叩く。
眩い光に目が眩んだ一同は次の瞬間――『大乱闘』のステージである『終点』のステージ上に転移していた。
「な、なんで⁉︎ 《ポータル》には入ってないのに!」
「それにマスターの姿もないね」
混乱するネスに、冷静に周囲を見渡すマルス。
「何か来るぞ!」
上空を見上げながら叫んだリンクの一声で、三人の視線がそちらに集中する。
遥か天上からふわりふわりと飛来するのは――彼らの倍以上は優に超えるであろう巨大な『手袋』。
「ま、まさか……」
喉を震わせたマリオは、その名を口にした。
「『マスター』……なのか?」
巨大な『手袋』は沈黙したまま、マリオ達の頭上近くで停止。
異形とも呼ぶべき姿に困惑する一同を置き去りに――『
「……!」
「マリオッ!」
手遊びの如く指を組んだかと思えば、指先から放たれたのは
「ぼーっとしてんじゃねぇよ」
「わっ悪い……」
「――はあっ!」
裂帛の声とともにマスターハンドとの間合いを詰めたマルスが高く跳躍。身を捻り、手にしたファルシオンでマスターの指先を切り裂くも――。
「! 傷がない……⁉︎」
華麗に着地したマルスは、確かに手応えがあったのにと眉を顰める。
「たぶん『大乱闘システム』と同じなんだよ!」
PSIの力で浮遊したネスが手のひらにパワーを凝縮。一気に解き放ち攻撃する。
「ならステージから吹っ飛ばされたが最後……」
「ボク達の負けってことになる」
帽子を被り直したマリオの言葉に、全員が固唾を飲んだ。
『マスター』が言っていた「私を倒してくれ」という言葉を信じて相対する覚悟を、今こそ。
「前後から攻めるぞ!」
「うん!」「ああ」「分かったよ」
攻撃が激しいであろう正面をマリオとリンクが。背後にはマルスとネスが構えを取り、挟撃を選択。
「でやああああああ‼︎」
腰を低く落とし、回転しながら上昇――【回転斬り】を繰り出すリンクの後ろでマリオも【ファイアボール】を投げつける。
そんな彼らを叩き落とそうとするも、紙一重で回避され、背後からファルシオンの円月斬りと【PKフラッシュ】の光が直撃。
マスターハンドは怯る様子はないものの、何かしらのダメージを与えられているのは明確であった。
「ぐはっ」
「「「ネス‼︎」」」
とここでマスターハンドが反撃に転じる。
急接近したかと思えば、その大きな手でネスの体を掴んだのだ。
「このっ離せ!」
リンクを皮切りに、マリオとマルスもマスターハンドに攻撃。ネスも呻き声を上げながら、【PKサンダー】を発動させて追撃。ようやく解放される。
しかし、マスターハンドはこれを待っていた。
全員が自身の正面に来る瞬間を。
『⁉︎』
指先から細く伸びるレーダーに驚愕を露わにする。
回避する隙間もなく、レーダーは彼ら四人の身を焼き焦がす。
「ぐああああっ……!」
「くそっ……!」
焼損した衣類からたらりと流れる『血液』。『大乱闘システム』では決して追うことのない焼跡に呻き声を洩らせば、続け様に大きく払われた手に吹き飛ばされる。
下を見れば――底なしの空。
「リンク! マルス! ネス!」
落ちてたまるかとステージの端を間一髪掴んだマリオだったが、他の三人はそのまま落下。やがてノイズが走ったかと思えば消えてしまった。
マリオは奥歯を噛み締め、這いずり上がる。不気味さ漂うだけの手袋を前に気後れしそうになった、その時。
「マリオ!」「マリオさん!」
入れ違いに現れた二人の姿に目を見開いた。