想イノ終着点

6:想イノ終着点【15】


 『大乱闘』は大盛況のうちに幕を下ろした。
 今日この時を皮切りに、《虚空の霧》の侵食に心身ともに削られていた人々の表情に笑顔の花が咲き誇る。
 新たな住民を何の疑いもなく受け入れ、助け合い、共通の話題で盛り上がることだろう。
 ――熱狂する祝賀の場でひとり、ヴィルヘルムは心の中で独りごちる。

「なんだよ、ヴィル〜。全然食べてないじゃないか〜」

 『大乱闘』成功を祝して開かれたファイター達の祝賀会。マネージャーとして参加を許されたヴィルヘルムに、既に酔いつつあるフォックスが肩に手を回す。

「あとで頂きます。フォックス様、惜しい戦いでしたね」
「ん〜……ま、そうなんだけどな。俺としては後悔してねぇんだ」

 くいっと追い酒をすれば、「そうですか」と微笑みを滲ませる。

「それよりも呑んだらどうだ〜?」
「飲めませんので」
「固いこと言うなってほれほれ〜……お?」

 絡み酒を披露するフォックスが、突然ヴィルヘルムから引き剥がされた。

「フォックスさん、あっちでファルコさんが待ってるよ」
「お〜今行く」

 席を立ち離れた場所で酒を楽しむファルコのもとに千鳥足で向かう。

「だ、大丈夫?」

 やんわりとフォックスを引き離してくれたのはルイージだった。
 彼はお酒を飲んでいないシラフのまま、ヴィルヘルムの隣に座る。

「はい。何の問題もありません」
「ならいいんだけど……」

 一切動じないヴィルヘルムに苦笑を禁じ得ない。
 ルイージは目の前の卓に並べられた料理をひとつも手をつけていないヴィルヘルムに、物憂げに目を細めて。

「……お腹空かない?」
「はい。大丈夫で――」

 直後、ぎゅるるるると胃袋の鳴る音が響いた。
 即座に腹部を押さえたヴィルヘルムに、ルイージは思わず瞠目。

「え、今のって」
「失礼します」

 頬を赤らめたヴィルヘルムが逃げるように会場から立ち去っていく。
 引き止めるタイミングを逃したルイージの手は、虚しく空を切るだけだった。

(……恥ずかしい。つい『美味しそう』って思ってしまった……)

 燭台の火が揺らめく回廊を足早に進みつつ、自室へと向かう。
 誰もいない静まり返った空間の中、前方よりピンクの球態──カービィがとっとっとっと走ってくるのを見つける。

「カービィ?」

 誰よりも祝賀会を待ち望んでいた彼がこんな場所で何をしているのか。
 気になったヴィルヘルムが引き止めるよりも先に、カービィは「ヴィル!」と叫んだ。

「たっ大変! マリオ達が……!」
「マリオさんが……?」
「とにかくこっち来て‼︎」

 カービィに連れられるがまま、ヴィルヘルムは回廊を駆け抜ける。

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