想イノ終着点

6:想イノ終着点【4】


 時計の針が十の数を示す頃。
 朝食の時間はとうに過ぎ、皆が思い思いの時間を過ごす中。マリオとリンクは揃って、封鎖された地下教会の長椅子に座っていた。

「――というのが昨日、お前がボク達と会う前に起きた話だ」
「なるほどねぇ」

 廊下を挟んだ隣に座るリンクが足を組んでは、そう背をもたれる。
 マリオは両膝上に手を置き、じっと彼の様子を見守る。
 彼らがここにいる理由は、昨日さくじつの晩、どうしてネスを追いかけていたのかをリンクが訊ねたからだ。マスターの話に関わっている以上黙っておく必要もないと考え、マリオは聞き耳を立てられない場所に呼び出した。欲を言えばマルスにも聞いて欲しかったが、姿が見当たらなかった為リンクだけに。

「ヴィルが殺されかけてた時もマスターは平然としていたみたいだし、やっぱ問い詰めないと」
「だな。その為にも明日の大乱闘は勝たないとな」
「リーダーとか興味ないからマリオが優勝してよ。僕はただ……アイツを、倒したいだけだ」

 眦を釣り上げるリンクを横目に、マリオは自分の推論を口にする。

「……ヴィルの事。ボクはガノンドロフが犯人だとは思えない」
「……奴なら殺ってもおかしくない」
「こう言っちゃあなんだが、もう少し譲歩できないか?」

 ガノンドロフに対する異常ともいうべき嫌悪。
 マリオの言葉にリンクは憤怒を露わにし、立ち上がりながら叫んだ。

「自分の人生を狂わせた奴に譲歩なんて出来るかよ‼︎」

 奥歯を噛み締める少年の姿に目を見開く。
 出会って数日の関係。互いの過去なんぞ話したことはなく、マリオが知っているのはせいぜい『相棒』がいるぐらい。
 僕のことを知らないくせに、と向けられる眼差しにマリオは肩をすくめた。

「……人生を狂わされたねぇ。ならボクの人生もクッパに狂わされたって言えるな」

 ただの配管工だった自分が、ほんの勇気を胸に王国を救うことになってからは――誰もが知る英雄の道を歩み始めた。
 そのせいで苦しみ、別れた思い出も少なくはないが。どうせなら。

「でも、その先でこうしてお前と話が出来たなら少しは良いと思えるさ。お前にだってひとつやふたつあるだろ? そういうの」

 リンクはばつが悪そうにマリオから視線を逸らす。
 彼にもあるのだ。ガノンドロフに狂わされた人生の中で、『良かった』と思える出来事が。
 これ以上は何を言っても無駄だと諦めたリンクは嘆息をもらし、着席。満足げに頷くマリオにちくちくとした眼差しを流しつつ、「そういえばさ」と一言。

「あんた、ヴィルって呼ぶようになったんだ」
「え? 言われてみればいつの間に……」

 いつからだ? と思案するマリオに小さく笑みをこぼす。

ルイージ本当の弟が悲しむよ」
「悲しまないさ。ルイージは弟だから」
「なにそれ」
「兄理論」
「屁理屈の間違いじゃん」

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