Super Smash Bros. - Cross × Tale -

6:想イノ終着点【1】


「――お初にお目にかかります。カービィ様」

 澄み渡る蒼き瞳をぱちぱちとしばたたく。

「僕の名前はヴィルヘルム・クロイツ。これからカービィ様が所属する【乱闘部隊】のマネージャーを務めさせていただきます」

 呆けていたピンクの丸い生物――もとい、プププランドのヒーロー『カービィ』に少年は腰を折る。

「……あの、カービィ様?」

 がしかし。あまりにも反応がないカービィに、ヴィルヘルムは眉をひそめる。
 ややあって彼方へ飛ばした意識を引き寄せたカービィは、無防備なヴィルヘルムの胸に飛び込んだ。

「ぼくのおともだちになってくれる?」

 お人好しで食いしん坊な正義のヒーロー。
 いつからだったのかな。

 ――僕、カービィが美味しそうにご飯を食べてる姿を見るの好きなんだ。

 いつの間にか『本心』を口にしてしまうほど、彼らに心を許したのは。


「ダメーーーーーーー!!!!!!!」
「うぐ」


 自らのGAME OVERを享受するかの如く瞼を閉じたヴィルヘルムはその声と――腹部に走る痛みに目を開く。
 躊躇のない『頭突き』をかましたカービィはヴィルヘルムを巻き込んで後方へと転がり、彼らを攻撃範囲内に捉えていた男の左手は宙を切り地面へ。衝撃で廊下の床が大きく抉れた。

「……あーあ、『また』邪魔されちまった」

 ぐわんぐわんと揺れる視界を首を振ることで平時に戻す。
 座り込み俯くヴィルヘルムの前に立ったカービィは勇ましく眦を釣り上げる。

「ぼくのともだちをイジメるな!」
「……友達ィだって? ソイツと?」
「そうだよ! ともだちだよ‼︎」

 それの何が悪いのさと口を尖らせる小さき生き物に――男は哄笑した。

「だったら尚更邪魔すンなよなぁ? コッチは、ソイツの願いを叶えてやろうとしてンのに」
「ねがい……?」
「そ」

 男は頭の後ろで両手を組み、ひとつふたつと靴音を響かせる。

「しっかしアンタも物好きだよなぁ。『死体も同然』の男を友達だなンてよぉ」
「え……」

 思わず振り向くも目と目が合わさることはない。
 沈黙――それが意味することを、カービィも理解してしまった。
 死にたい、という願い。
 死体も同然、という事実。

「というわけで」
「うわっ」

 ひょいっと男に摘まれたカービィは軽く投げ飛ばされる。持ち前の柔らかさでダメージはほとんどないが、ヴィルヘルムの前から引き剥がされてしまう。
 ハッとして戻ろうとするも。

 ――グチャッ。

 果物を握りつぶしたかのような音に、鮮血が爆ぜる。
 糸の切れたマリオネットの如く――心の臓を抜き取られたヴィルヘルムの体が床に落ちる。
 口元から笑みを消した男は――血に塗れた左手を見つめ、嘆息。

「これでもまだ、死なねーのかよ」

 脳内を白く染め上げるカービィは次の瞬間。ありえない光景を目の当たりにする。
 ぼとぼとと男の手のひらから溢れる心の臓が――生き物のようにびちびちと動き始めたのだ。
 向かうはヴィルヘルムの身体。
 飛び散った肉片と共に、空いた穴に自ら飛び込んでゆく。
 そうして少年の身体は――何事もなくむくりと起き上がる。

「ほら、言った通りだったろ」

 瞳から光が消え失せた少年を親指で指す男は、戦慄するカービィにそう嗤ってみせた。

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