Super Smash Bros. - Cross × Tale -
「……今のってマリオだよね?」
「誰を追いかけてるんだあのおっさんは」
ネスを追跡しているマリオの姿は、別方向の廊下を歩いていたマルスとリンクの目に映る。
「何かあったのかも。ぼく、ちょっと聞いてくるね」
「え〜……ほっとけよ……」
マントを翻しマリオを追うマルスに、リンクは嘆息しながらも追従する。
「マリオ!」
「えっマルス⁉︎」
マルスはそれほど時間をかけず、マリオに追いつく。並走しながら「何があったの?」と涼しい顔で問う。
「ネスを追ってんだよ!」
「どうして?」
「そりゃあこっちが聞きてぇよ‼︎ 急に飛び出して――」
「あ。」
突然足を止めたマルスを訝しみつつ、マリオは走るも――前方不注意により壁に激突。ずるずると滑り落ちるマリオに、ネスはようやく気づいた。
「えっマリオ、ぼくのこと追いかけてきてたの?」
「お、まえが、きゅ、うにはし、る、から……」
「何か気になることでも?」
片膝をつき優しく問うマルスに視線を泳がせる。
やがて、眦を釣り上げたネスは「お願い」と険しい表情を浮かべた。
「ついて来てくれる? みんなにも確かめてほしいんだ」
「……確かめる?」
力強く頷き、目の前の扉を睨みつける。
「この部屋にいる『国王様』を」
「「⁉︎」」
それにはマルスも、鼻を抑えるマリオも戸惑いを隠せなかった。
病に臥せているという国王様――自分達を王国に『具現化』したのも彼だというが、その姿は誰も見たことがない。
「……ネス。どういうことだ」
そんな国王の部屋を知るネスに、マリオは顔つきを変える。
「もう一度確かめてからちゃんと話すよ」
小さな手で扉を押し開けたネスは、ノックすることもなく確かな足取りで部屋の中へ。
「やっと追いついた……って、なんだここ」
合流したリンクにマルスも困惑した眼差しで返す。
どうするべきかと考えあぐねていると――立ち上がったマリオが扉の先に進んだ。
マルスもその後に続き、リンクも訳がわからないまま中へと。部屋を進んだその先で彼らを待っていたのは――寝台に横たわるひとりの人物。
「こいつが国王様……?」
瞼は固く閉じられ、一行の無断入室やマリオの不敬な発言に身動ぎひとつしない。
リンクは国王を怪訝そうに凝視。
「……そいつ、本当に――
……ネス?」
意を決した様子のネスが、横たわる国王に歩み寄る。
止めようと一歩足を踏み出したマルスを、マリオは腕を伸ばして阻止。『見守ってやろう』と言いたげな視線を受け、動きを止めたマルスはネスを見遣る。
皆の視線を一身に受けつつ、ネスは寝台の縁に手をかけよじ登り、国王の腕を掴んだ。
大きく息を吸って吐き、ぐっと力を込めれば――。
胴体から腕が『切り離された』。
「……やっぱり。この国王様は『人形』だ」
綺麗に切り取られた片腕を手に実感したネスの背後で、マリオ達は驚愕に見舞われる。
「じゃあそいつは偽物だってことか⁉︎」
「となると本物はどこに……?」
「わからない……けどひとつわかるのは――!」
振り返ったネスの表情が大きく歪む。
三人が背後に顔を向けると、そこには宰相マスターが静かに佇んでいた。
「やはり、記憶が戻ってしまったか」
光を無くした瞳がネスを捉える。
びくりと肩を震わせた少年を背に庇い、マリオはマスターを睥睨。
「これはどういうことだマスター!」
怒号を浴びてもなお、マスターはぴくりとも反応しない。まるでこうなることを予感していたような――どこか達観している。
「どうもしないさ。そこに在るのが国王陛下だ」
「これはただの人形じゃないか! 本当の国王をどこにやった!」
「どこにもいないさ。本物はとうの昔に死んでしまった」
彼らを置き去りに。マスターは淡々と語り出す。
「王国を王国たらしめるものは王族の存在。その為に国王だった者に似せた人形を造り、人々を一から生み出し、新たに『アルスハイル王国』として再建した。それの何がいけないというのだ? この世界の平穏を誰よりも願っているのに」
宰相とはかけ離れた雰囲気を纏うマスターに、畏怖の念すら覚える。
有無を言わさず圧にも屈せず、マリオは声を上げた。
「真実を全部話しやがれマスター‼︎」
マリオの叫びが耳朶を打つ。
沈黙を連ねたマスターはやがて、静寂を破る。
「……そこまで言うなら仕方がない。答えるとしよう」
ただし。
息を呑むマリオに対し、マスターは条件を提示してきた。
「『大乱闘』トーナメントに、君達四人のうちの誰かが優勝したらな」
「……は?」
思わぬ提案に虚をつかれる四人。
そんな彼らの会話にほくそ笑み、立ち去る人物がいたことに気づかないまま――マリオは拳を握りしめる。
「……わかった。今度こそ嘘をつくなよ」
「約束しよう」