Super Smash Bros. - Cross × Tale -

1:第1の招待状【2】


「――!」

 腕を翳し、瞼を固く瞑っても漏れる光の強さ。
 その光が弱まったことを感じたマリオは、恐る恐ると腕を下ろし目を開ける。

「お初にお目にかかります。マリオ様」

 目を開いたマリオが見たものは、自宅とは打って変わり冷たいコンクリートの部屋に、こうべを垂れる少年の姿。
 顔を上げた少年は驚きを隠せないマリオに動じず、灰色みを帯びる水色の瞳を真っ直ぐ向ける。

「僕の名前はヴィルヘルム・クロイツ。これからマリオ様が所属する【乱闘部隊】のマネージャーを務めさせていただきます。若輩者ですがよろしくお願いし――」
「ちょっと待ってくれ! 情報量が多いッ‼︎」
「えっ?」

 『ヴィルヘルム』と名乗る少年は首をかしげる。

「えっと……招待状に書かれていないことであれば、宰相のご挨拶が終わり次第お答えしますが……」
「……招待状になにか書いてあったのか?」
「……、⁉︎」

 ワンテンポ遅れて目を見開くヴィルヘルムに、マリオはあちゃーと後頭部に手を添える。

「お、お読みになられていない……?」
「……面目ない」
「だっ大丈夫です! 確認のために今一度宰相からご説明がありますので、まずはそちらをお聞きください。その上でご不明点などありましたら、僕がお答えさせていただきます」

 マリオは心の中で安堵しつつ、軽く頷く。

「とりあえずその挨拶とやらを聞けばいいんだな」
「はい。大広間にて皆様お待ちですので、ご案内します」

 「こちらです」と扉に手のひらを差し向けたのち、歩き出したヴィルヘルムのあとに続く。
 廊下は先が見えないほど長く、緩くカーブを描いており、城に見慣れたマリオはここが城であることに気づく。同時に、住み慣れたキノコ王国でないことも。

「マリオ様の他にも複数名、同じ招待状を送らせていただいています。マリオ様とは見た目が大きく異なる方もいらっしゃいますが、驚かないでいただけますと幸いです」

 先導するヴィルヘルムの言葉に「わかった」と返しつつ、内心『キノピオで見慣れてるけどな……』と苦笑を漏らす。

「それとですね、マリオ様。その……」
「ん? どうした?」
「……大変お聞きにくいのですが、ルイージ様は?」

 マリオは眉をひそめ、「ルイージいないのか?」と聞き返す。

「……あっもしかして、サインした本人しか効果がないのか?」
「いえ! お近くにいらっしゃれば一緒に『具現化』されるはずです」
「じゃあルイージはその『具現化』? ってやらをされてないってことか?」

 ヴィルヘルムは顎に指を添え、暫し思考を巡らせる。

「……少し確認してきます。マリオ様はお先に大広間へと向かってください。この先を真っ直ぐ進んでいただければ辿り着けますので」

 早口でそう告げたヴィルヘルムは、マリオとは逆方向に去っていった。マリオは不安を抱きながらも、大広間へと向かう。

 自身の背丈の数倍はある扉が重々しく開かれる。
 数百人は一度に入ることができそうな大広間には、すでに人の姿がちらほら。

「おっマリオじゃねぇか!」
「マリオ!」
「ドンキー⁉︎ それにヨッシーも!」

 元の世界でも交流のあった『ドンキーコング』と『ヨッシー』に思わず笑みが溢れる。

「まさかここでもマリオに会えるとは思ってなかったよ!」

 と、ヨッシーが嬉しそうに言えば。

「まあオレは来ると思っていたけどな!」

 と、ドンキーがケラケラと笑う。
 いつも通りの様子に不安が少しだけ和らぐ。そこに、マリオが来る前まで2人と話していた青年が口を挟む。

「2人の知り合いか?」
「うん! マリオって言うんだよ」

 ヨッシーが答えれば、狐の獣人である青年はマリオに片手を差し出しながら。

「俺はフォックス・マクラウド。よろしくな、マリオ」
「こちらこそ」

 『フォックス』とマリオが握手を交わすその足元を、今度は黄色のねずみがうろちょろする。

「……なんだこのねずみ」
「ピカッ! ピカピッピカ!」

 マリオの言葉が気に食わないらしく、後ろ足で立っては声を上げる。しかし、マリオには理解不能な言語だ。
 その様子を見ていたフォックスは小さく吹き出す。

「そいつはピカチュウ。ポケモンっていう種族だ」
「へぇ、不思議なもんだな。……ところでこいつは、ボクになにを伝えたいんだ?」
「ふんわりとした解釈でしかないが、『バカにするな!』って言いたんじゃないか?」

 フォックスの解釈が合っていたのか、『ピカチュウ』は腰に手を当てて胸を張っていた。

『……騒がしい奴等だ。少しは大人しくできないのか』

 機械音混じりの声に振り返ったマリオだったが、あまりの衝撃に体を強張らせた。

『どうした。なにか文句でもあるのか』
「いや……」
(ロボットなのか? 人なのか?)

 全身を堅牢な装備で固めた人物に対するマリオの問いかけは、ヴィルヘルムが言っていた『見た目が大きく異なるから驚かないでほしい』という言葉が過ったことで、口から出ることはなかった。フォックスやピカチュウを自然と受け入れていた手前、容姿に関することを口にするのはいかんせんはばかれる。

「……なんでもない。ボクはマリオ、そっちは?」
『……サムスだ』

 そう『サムス』はマリオから視線を外し、沈黙。結局どっちなんだろうという疑問がマリオには残った。

「なあマリオ」
「なんだよ」

 今度はドンキーに話しかけられ、マリオは半眼を向ける。

「そこ危ねぇぞ」
「は? なにがッあ⁉︎」

 直後、マリオの顔横になにかが激突。「ほれ見てみろ」とドンキーが嘲笑う。

「マリオ! カービィ! 大丈夫か⁉︎」

 勢い余って床に尻餅ついたマリオから、コロコロとピンクの球態が転がり落ちる。よくわからないこの生き物は『カービィ』というらしい。

『室内でボール遊びとは呑気だな』
「いやカービィはボールじゃないだろ。……似てるけど」
「リンク! いまのもう一回! もう一回やって〜!」

 きゃっきゃっと飛び跳ねてはしゃぐカービィが向かったのは、緑の衣をその身に纏う青年『リンク』のもと。腕を組むリンクはカービィを一瞥、嘆息を漏らす。
 その様子にフォックスは状況を察し、カービィをひょいっと持ち上げた。

「な〜に?」
「カービィ。彼は今、遊ぶ気分ではないようだ。ピカチュウと遊んでいなさい」
「ピカピッ!」

 優しく地面に降ろすと、カービィは「は〜い」と大人しくピカチュウと馴れ合い始める。

「リンク、なにか言うことがあるんじゃないか?」
「鬱陶しい邪魔ものを離してくれてありがとう」
「言い方が厳しいな……って、そうじゃなくて。マリオにだよ。カービィはともかく、マリオはとばっちりだろ」

 フォックスはリンクがカービィを投げたことをではなく。投げたカービィがマリオに直撃したのを、リンクに咎めていた。
 しかしリンクは依然として悪びる様子もなければ。

「ヒゲのおっさんが避けないのが悪いんだろ」

 さらなる悪態をつき、フォックスは頬を引き攣らせる。

「そんな言い方……」
「いいってフォックス。ボクは気にしないからさ」
「ヒゲのおっさんなのは事実だしな」
「黙れ裸ネクタイ」
「んだと‼︎」
「あーあ、また始まったよ……」

 マリオとドンキーの間に火花が散り、ヨッシーはうんざりといった様子で呟く。
 “協調性”という言葉が全く当てはまらない彼らにフォックスが頭を抱えていると、男の声が彼らを縫って大広間に響き渡った。

「お待たせして申し訳ない。ようこそ、我が『アルスハイル王国』へ。歓迎しよう」

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