Super Smash Bros. - Cross × Tale -
翌日――太陽は今日も、こちらの心情とは裏腹に地上を明るく照らす。
(不思議なもんだ。全く眠気がない朝なんて)
普段よりずっと早い時間に起床したマリオは、薄着のまま城内を散策していた。トレードマークの帽子がない今の彼は、やや覇気に欠けている。
昨晩の出来事を引きずったまま、回廊を歩くマリオ。誰ともすれ違わない静寂な景色の片隅で――自身以外の動く人影を視界に捉えた。
(あれは……)
マリオがいる回廊から一階下の歩廊。目視では背中しか確認出来なかったが、後ろ姿だけで誰だか分かる。
見失わないよう目で捕捉しながら、マリオはその人物の背を追った。
「確かこの辺りに……」
距離が離れていたからか、マリオはその人物を見失っていた。
回廊の端、行き止まりの地点で周囲を見渡す。こちらに来たのならば見失うはずはないのに。
(どっかで間違えたか?)
首を傾げたマリオはふと、近くに時計台があることに気づく。手入れという手入れはされておらず、所々に錆が目立つ年季の入った品物だ。
長針、短針共に動いていないが、どうも違和感がある。
(行き止まりに動かない時計……まさか)
マリオは恐る恐る針に手を伸ばし、ゆっくりと回してみた。
「ま、まじか……」
ガチャリという開錠音が響き、時計台の表面が『開いた』。
内部にあるはずの歯車などは一切なく、代わりに現れたのは地下へと続く石階段。
周囲に人がいないことを確認すると、マリオは躊躇いもなく階段を降りて行く。
暗闇で足を取られぬようファイアーボールで階段を照らし続けていたが、暫く降ると真っ白な光が発生していることを確認。恐らくそこが『目的地』なのだろう。
ファイアーボールを消し、その地に足を踏み入れる。
「……やっぱりお前だったか」
ガラスに隔てられた向こう側。白の壁が囲う――昨日の昼過ぎにマリオ達が目にした『トレーニングルーム』とよく似た構造の――空間で、十字のオブジェにひたすら杖を叩き込む少年がひとり。
回廊で目にしてから追っていた――ヴィルヘルムだ。
瞠目するマリオが声を掛けるのも忘れて見入っていると、ヴィルヘルムの動きが止まる。
激しく息を切らしたまま空き手を自身の頭部に添え、そして光を放つ。固く目を瞑るヴィルヘルムの表情は徐々に和らいでいき、再び目を開けた時にはマリオもよく知るヴィルヘルムの表情へと戻った。
少しばかり安堵したマリオと、ヴィルヘルムの目線が交差した――次の瞬間。
『――ッ⁉︎』
「! ヴィルヘルム‼︎」
胸を抑えその場に崩れ落ちるヴィルヘルム。マリオはすぐさま扉に飛びつき、中へと入る。
「傷が痛むのか⁉︎」
「ち、ちが……ぐっ……! なん、だ、これ……おか……し、……ううううう」
「しっかりしろ!」
苦しみ続ける彼の体を支え、懸命に声をかける。
汗を滲ませ悶えるヴィルヘルムは、今にも消えそうな弱々しい声でマリオの助けを拒む。
「ま、りおさ……にげ……」
「何から逃げ……? いやそんなことよりも、こんな状態のお前を放っておけないだろ!」
「……!」
あらん限りに目を見開いたヴィルヘルムから――光が消える。
先程までの苦しげな表情から一転。無表情へと転じた彼に、マリオは眉を顰めた。
「お、おい、ヴィル――」
間髪入れず、マリオの体は宙に浮いていた。
それが、ヴィルヘルムに『吹き飛ばされた』と気づいたのは床に叩きつけられた後。
「がはっ! ……っ、な、なんだ……?」
上体を起こしたマリオの視線に、ヴィルヘルムは光が消え失せた瞳で返す。
異様な事態だと判断すると同時。自身に向けられた明確な敵意に、マリオは困惑した。