Super Smash Bros. - Cross × Tale -
夢を見た。
何処とも言えぬ不思議な空間に、自分は立っていた。
目の前には、天へと伸びる白の階段。
背後には、慟哭鳴り止まぬ黒の濃霧。
自分は、迷いなく階段を上り始める。一段一段、確かな靴音を響かせて。
それは清く、美しく、大いなる者の行進曲。
頂上で煌々と輝く光の強さが増す。
綻んだ自分が次に目にしたのは――。
「……気がついたかい。ヴィル」
あの光と同じ色の瞳を細めた
ああ……また駄目だったか。
「残念そうな顔をしないでくれ」
貴方の
「……こりゃひでーな」
真っ白な床を染める血溜まり。神聖なはずの十字架から滴る血の量は思いの外多く、ドンキーは顔を歪める。
リンク、そしてゼルダが現場へと駆けつけた際、一足先に馳せ参じたマリオとミュウツーはヴィルヘルム救出に手間取っていた。医療資格を取得しているマリオが、ヴィルヘルムの心臓に深々と突き刺さる剣を安易に抜くのは危険だと判断したからだ。下手を踏めば、幸いにもか細く息を紡ぐヴィルヘルムを出血多量で殺しかねない。
どうすべきか選択が迫られる中――現れたマスターは彼らの合間を縫いヴィルヘルムの正面へ。そして迷いなく剣の柄を握り、一思いに引き抜いた。
カランッ、と床に転がる剣。噴き出した鮮血に純白の外套が塗りつぶされながらも、マスターはヴィルヘルムの体を支える。
――ヴィルのことは引き受ける。あとは君達の好きにしてくれ。
いつになく低く余裕のない声音でそう告げたマスターは教会を後にし、残された四人は食堂で待機するメンバーの数人に『来てほしい』と連絡を取ったのだった。
「最初にヴィルヘルムを見つけたのは誰だ? マリオか?」
「ボクじゃなくてミュウツーだ。ミュウツーがボクとカービィを呼んだのさ」
ファルコンの問いにマリオは、皆から一歩後ろで佇むミュウツーを背中越しに見遣る。
それまで瞑目していたミュウツーだったが、彼らの視線を一様に受けゆっくり開眼。テレパシーで言葉を伝える。
『……僅かに一瞬、強い力を感知した』
「その力を追ってみたら……ということか。ミュウツーが来た時ここには?」
『奴以外は誰も』
そうか、と頷くフォックスの傍ら。サムスの眼光が鋭く光る。
「心臓を一突き……身内か」
「身内……? サムスさん、どういうことでしょうか」
ゼルダの瞳が不安げに揺れる。
「剣が届く範囲内まで近づくことを許したならば、初対面ではないだろう」
「それに一突きとなれば……相当殺意があるな」
サムスに続き、ファルコンも憶測を口にする。
「なら、一人しかいないな」
血に塗れた剣を拾い上げながら、リンクはそう告げた。
彼が指す人物が誰なのか――それに気付かぬほど、ここに集まる彼らは鈍感ではない。
「待ってくれ、リンク。決めつけるのは早いんじゃねーか?」
「だけど、マリオだって見ただろ! 今朝あいつが殺しかけてた現場を!」
腕を払いながら怒号を上げるリンクに、参ったなぁと軽く嘆息する。
「それはそうだが、犯人だと決めるのは早計過ぎやしないか?」
見かねたフォックスが口添えするも、リンクの怒りは治る気配がない。
「……もういい。直接問いただしに――うわっ⁉︎」
踵を返そうとしたリンクの体が宙に浮く。
その細い体を掴み上げ、肩に担いだドンキーの耳元でリンクは叫んだ。
「ちょっ、おいゴリラ‼︎ 離せっ……離しやがれッ!」
『煩わしい……猿以下だとは』
「ああっ⁉︎」
「オレが言えたことじゃないけどよ。……ちったあ頭冷やせ」
向けられる哀憫の眼差しに、リンクは奥歯を噛み締める。
「じゃ、オレらはこのまま帰るからな」
「おう。ミュウツーも戻っていいぞ。ありがとな」
『フン……』
「サムスとゼルダもな」
ドンキーはリンクを抱えたまま教会を背に。ミュウツーは光と共に姿を消し、サムスはゼルダを伴ってその場を離れた。
残ったマリオ、フォックス、ファルコンの三人は、人目に触れないよう教会の出入口の封鎖作業にかかる。
「……そういや、カービィは?」
「カービィならヴィルヘルムの部屋に行ったぞ。心配だから見張ってるって」
「ふぅ〜ん……」
二人の会話を片耳に、ファルコンは思案した。
(心臓を刺されても生きていたとは……信じられない話だな)