Super Smash Bros. - Cross × Tale -

4:新たなエリアと参戦者【6】


 二時間後――『大乱闘システム』を直に触れたファイター達が、現実世界へと帰還する。

「体調に異変が発生した時はすぐさま報告してくれ。……皆からぜひ感想を聞きたいところだが、まあそれは夕食の時間にでも聞こう」

 日が暮れるまで少しだけ猶予がある。
 マスターとヴィルヘルムが話し合いのため離席後。数名も同じく『システム管理室』を退室するが、初期のメンバーを中心に幾人かはその場に留まった。

「そういえばにいちゃん達、名前は?」

 マリオに声を掛けられた二人の少年。うち、人畜無害を絵に描いた如く温顔な青髪の男が口を開く。

「僕はマルス。こちらはロイ」
「初めまして」
「君の名前は?」
「ボクはマリオだ。宜しくな、兄ちゃん達」

 『マルス』と、燃えるような赤髪の男『ロイ』は互いに顔を見合わせる。

「あの……僕達はマリオの兄ではないけれど」

 困惑したように眉を曲げるマルスに、マリオは一拍置いてその理由を察した。

「いやいや、にいちゃんってそういう意味じゃないからな。フランクな呼び方だろ?」
「そうなんですか?」

 そうだと頷けば、二人の少年は『そうなんだ』と各々理解。
 なんか調子狂うなぁと後頭部を掻きながら、マリオは気になっていたことを尋ねる。

「二人は知り合いなのか?」
「いいや、今日初めて会ったよ。同じ世界出身ではあるみたいだけどね」
「?」
「どうやら、ぼくとマルスさんでは生きていた時代が違うようで……」
「ああ、なるほど」

 それならば初対面でも意気投合しているのも頷ける。装備している鎧の系統もよく似ており、文化も通ずるところがあるのだろう。

「なんか困ったことがあったり、聞きたいことがあれば言ってくれ。力になるからよ」

 先輩風を吹かしてみせるマリオに、じゃあ早速とマルスが質問。

「ヴィルヘルムについてだけど……」
「ん? あいつがどうかしたのか?」

 挙げられた意外な名に小首を傾げる。

「マネージャーの任を任せられる前は何をしていたんだろうかってロイと話しててね」
「王族……はないとしても、それに近しい地位をお持ちだったのではないかと思いまして」
「うーん……悪いが、その辺りの話は多分誰も知らないんじゃないかな」

 にしても、と。腕を組みながらマリオは二人を見つめる。

「どうしてそんな話が出たんだ?」
「呼び方だよ」
「呼び方?」

 マルスは笑みを湛えたまま続ける。

「王族に対する呼び方がちょっと不思議だと思ったんだ。文化や考え方の違いだとは思うけど」
「ふーん……」

 生返事のマリオがそれ以上追求することはなかった。王族やら何やらのマナーは堅苦しくてどうも性に合わない。

「よくわかんねーけど、あとで聞いてみたらどうだ?」
「そうだね。そうしてみるよ」
「ぼくからもいいでしょうか?」
「おう。どうした」
「ピーチ姫様とはフィアンセの仲なのですか?」

 フィアンセ。つまり婚約者。
 硬直するマリオの背から、ぬっと湧き出た巨大な殺気――クッパだ。

「マリオ。貴様なんという出鱈目な嘘をついておるのだ……!」
「いやちげーよ! 何も言ってねぇし‼︎ そんな関係じゃないからな!」
「あ。そうなんだ」

 ややあってマリオはルイージから、二人が元の世界では高い権力を保有する立場だと伝え聞く。通りでちょいと噛み合わないなとマリオは苦笑した。



「ねーねーリンクー今日ずっとお顔怖いよー」
「怖いなら近付かなきゃいいじゃないか」
「ぼくは怖くないもん」

 はぁと嘆息の音が頭上より聞こえる。
 城の回廊をあてもなく歩くリンクに、カービィは精一杯ついて回る。

「リンクはえっと……なんとかっていう人と」
「ガノンドロフ」
「その人とケンカでもしてるの?」

 足を止めたリンクはぐっと拳を握り締めて。

「喧嘩なんて生温いものじゃない。……殺し合いだ」
「リンク……」

 カービィは不安げにこちらを見上げている。
 それが『殺し合い』という単語ではなく、自身の身を案じての表情なのだと痛いほど伝わってきた。
 めんどくさい、と感じると同時。くすぐったく思うのは気のせいだろうか。
 和らいだリンクの表情に、カービィは密かに安堵した。

「カービィ、リンク様」

 こつんと靴音を鳴らして対面に佇むのは、マスターと一緒にいるはずのヴィルヘルム。

「このような場所でどうされたのですか?」
「……歩いてただけ。マスターはどうしたの?」
「急遽入った別件を対応中です。僕は先程まで、ミュウツー様とお話しておりました」
「『ミュウツー』?」
「ぼく知ってるよ! ピカチュウと同じポケモンでしょ?」

 自信満々に答えたカービィにそうだよと返す。

「でもポケモンって喋れんの?」
「ミュウツー様は特殊なお方なので」
「特殊ねぇ……」

 会話する中で、リンクは見極めようとしていた。
 昼時、マスターがガノンドロフに放った言葉――マリオとカービィは聞こえなかった――を、リンクは耳にしていた。
 それゆえに分からないのだ。マスターが、ヴィルヘルムが、一体何を知り、何を考えているのか。

「……何か気になることでも」

 目の色を変えたリンクに、ヴィルヘルムは眉を顰める。

「そんな特殊な輩を集めてやることが、本当にあの『大乱闘』なのかって話だよな」
「どーゆうこと?」
「あんたはちょっと黙ってて」

 今回ばかりはカービィも空気を読んで口をつむぐ。

「ここに来た日に聞いた話は多分嘘じゃない。だけど、他にも目的があんじゃないの?」

 人気ひとけのない廊下に、長い沈黙が落ちる。
 先に沈黙を破ったのは、ヴィルヘルムのほう。

「……ご指摘通りです。リンク様」
「へぇ、隠さないんだ」
「いずれお話することですから」

 ですが、とヴィルヘルムは首を横に振る。

「今はまだお話することはできません」
「いつならいいの?」
「――マスター様との話し合いに折り合いがつき次第でしょうか」
「どういうことだ」
「お答えしかねます。……では」

 訝しむリンクに会釈し、ヴィルヘルムは足早にその場を離れる。

「結局意味分かんないし」

 舌を鳴らすリンク。
 カービィは、立ち去っていくヴィルヘルムの背を見つめたまま呟いた。

「……ヴィル、泣きそうな顔してた」
「はぁ? ……僕には無表情にしか見えなかったけど」
「してたもん」

 カービィのその言葉を、リンクは頭の片隅に入れておくことにした。

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