Super Smash Bros. - Cross × Tale -

4:新たなエリアと参戦者【1】


 マリオは微睡の海に沈んでいた。甘く蕩ける夢の世界。
 豪華絢爛に飾り付けられたお城の中でマリオは、桃色のドレスが可憐なお姫様と巨大なケーキを前に笑い合う。
 『どうぞ』と渡されたフォークを手に、ケーキを頬張る。

『……?』

 味を感じない。
 一口、また一口と生クリームたっぷりのケーキを口に運ぶが。味がしないどころかお腹も満たされない。
 ケーキは無くならない。
 周りはにこやかに微笑んでいる。
 夢の中でマリオが色を失ったのと――目覚めたのは同時だった。

「……もう、会えないか」

 測ったようにジリリリ、と目覚ましが鳴る。
 嘆息とともに止めたマリオは、重たい体を引きずってベッドから降りた。
 その、直後のこと。


 ――ズドンッ‼︎
「うおっ⁉︎」


 体にのし掛かる重圧。体の奥底に鈍く響いた感覚に胸を抑える。
 マリオ――いや、国全体を著しい揺れが襲う。なんだなんだと肩膝をつき耐えるマリオの耳に、スピーカーから鳴り響くアナウンス。

『城内にいる皆様にお知らせいたします』
(ヴィルヘルム……⁉︎)

 スピーカーから聞こえるヴィルヘルムの声は冷静であり、マリオは眉根を寄せる。

『只今、「地殻変動」が発生しております。揺れが収まるまで、身の安全を確保してください。また、『乱闘部隊』(仮)に所属の皆様は、揺れが収まり次第『ポータルルーム』にお集まりください。繰り返します――』



「……ふぅ、収まったか?」

 たらりと流れた冷や汗を手の甲で拭い、マリオは辺りを見渡す。
 急ぎいつものオーバーオール姿となった彼は、まずは隣室の弟の無事を確かめる。

「ルイージ、入るぞ」

 ノックもなしに入室したマリオを、着替え中であったルイージは驚き振り返る。

「兄さん⁉︎ 着替えるの早くない⁇」
「おう。大丈夫かルイージ」
「大丈夫。『ポータルルーム』だよね、ちょっと待ってて」

 肩紐を掛け、緑の帽子を被ったルイージを連れ、マリオは『ポータルルーム』を目指す。

「マリオ! ルイージ!」
「ふわぁああ……こんな早くに起こしやがって……」
「ヨッシーにドンキー、おはよう」

 途中、半分ほど微睡の中にいるドンキーを引きずり歩くヨッシーと合流。

「さっきの揺れびっくりしたね」
「ヴィルヘルムさんが言うには『地殻変動』……だっけ。一体なんだろうね、兄さん」
「そうだな……」
「……兄さん?」

 腕を組み歩くマリオの表情は固い。
 その顔を、ヨッシーが不安げに覗き込む。

「マリオどうしたの? 元気ないね」
「んー、ちょっと嫌な夢をみてな」
「どんな夢?」
「……ピーチが作ったケーキを食べていたんだが、味もしないし減らないしで――」
「彼女の話か? 甘酸っぱいな」

 と、後方から飛んできた声はファルコンのもの。
 ヘルメット越しでも分かるほどうんうんと頷く彼に、マリオはその耳を紅潮させる。

「そ、そんなんじゃねーよ」
「ヒゲの生えたおっさんに好かれてるその人も可哀想だな」
「ああっ⁉︎」

 今度の声はリンク。ファルコンの隣に並んだ彼に、わなわなと拳を震わせる。

「彼女彼氏うんぬんにうつつを抜かすほどの余裕があるとはな」
「まあそう言ってやんなって。彼女に会えないって意外とキツいぞー?」

 いつのまにかサムスとフォックスも合流し、彼らの足元にはピカチュウとプリンのポケモンらもてくてくとついてきていた。

「みんな待ってよ〜」
「ぷぅよ……」

 最後尾にネス、と寝たまま連れてこられたカービィが並び。『乱闘部隊』(仮)のメンバーが出揃う。
 仲良く(?)『ポータルルーム』を目指す中、メンバー達に恋愛話が持ち上がる。

「んで、そのピーチってやつと付き合ってるのか?」
「なんでその話続いてんだよ。……そういうフォックス、お前はどうなんだ」
「俺? 俺はいるぞ。彼女」
「ほう、可愛い系か?」
「どっちかといえば、美人系だな」

 狐耳をぴょこぴょこと動かすフォックスに、ファルコンは「青春だな」と歯を見せて笑う。
 マリオが白眼視していると、ルイージが攻勢に打って出る。

「リンク君はそういう人いないの?」
「……は?」

 あろうことか自身にその矢印が向き、リンクは僅かに狼狽える。
 これを絶好のチャンスと捉えたマリオは、「ほ〜う」とにやつく。

「意外とかわいいとこあんじゃねーか」
「う、うるさいな! 夢見るだけならタダだろ! それよりネスが顔真っ赤にしてるぞ」
「ぼく⁉︎」

 ばっと多くの目が振り返る中、ネスはカービィで顔を隠して。

「た、たしかにかわいいけど付き合うなんてそそそんな……」
「はは、純粋だな」
「なんのはなしー?」

 ようやく目覚めたカービィが、ネスに抱えられたまま首をかしげる。

「カービィは好きな人いるの?」
「みんな好きだよ!」
「……何となく想像してたけど」

 無垢な笑顔が眩しい大人達。

「違うぞカービィ、恋愛的な意味での好きな人だ」
「んー?」
「早い話、キスが出来る相手ってところだな」

 フォックスとファルコン意地悪な大人達にやめなよとルイージが苦笑するも。

「じゃあいっぱいいる!」
『⁉︎』

 まさかの爆弾投下。一切の曇りなき眼が恐ろしい。

「見た目に反してそんな……」
「ふしだらだな」
「ふしだらってなぁに? サムス」
「お前のようなやつだ」

 因みに、カービィの世界では常識になりつつある回復手段『口移し』と勘違いしているだけである。

「ドンキー、もうつくよ」
「んぁ……」

 そんなこんなで『ポータルルーム』前に到着。ヨッシーがドンキーを起こす隣で、マリオはゆっくり扉を開けた。

「おはようございます」
「おはよう諸君。朝早くにすまないな」
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