Super Smash Bros. - Cross × Tale -

3:合流せし戦士達【6】


「……さっきは悪かったな。怒鳴って」
「いえ。お怒りになられるのも分かります」

 追って来たヴィルヘルムを迎えた彼らに流れる気まずい雰囲気。
 やっちまった、と後悔するマリオはちらりと横目でヴィルヘルムを捉える。

(なんだかんだ言って一緒に来てくれてるし、飛び出したボクが悪いよな……)
「――でぇや!」

 風に乗って聞こえた叫びに、彼らは互いに顔を見合わせた。

「こっちから聞こえた!」

 駆け出したカービィに続き、マリオとヴィルヘルムもそちらの方向へと向かう。

「……ふぅ」

 一息吐いた青年の足元で霧散する魔物の群れ。
 静かに剣を鞘に収めた青年は、砂利を踏む足音に目を細める。

「……何しに来たの」

 緑の帽子に緑の衣の青年、リンクはピリついているようだった。

「リンクとおともだちになりたくて、リンクともっとお話したくて、ぼくたちさがしてたの」

 お構いなしに話しかけるカービィに、リンクはうんざりした様子で嘆息する。

「こっちが嫌がっているの分かんない?」
「なんとなくわかるよ」
「じゃあなんで構うのさ」
「さびしそうな顔してるから」

 振り返ったリンクは垂れ下がる青い瞳に瞠目したが、はっと嘲り笑う。

「寂しそうな顔をしてるから何? 城に来て、皆といれば楽しいよって言いたいの?」
「城に来る必要はない。ボク達はただ、お前の力になりたいだけだ」
「頼んでもないのによくもつらつらと――いや、待てよ」

 そこで、リンクは薄らと笑みを浮かべた。

「僕のこと、殺したいほど憎んでもらえばいいんだ」
「なっ……⁉︎」
「どうしてこんな簡単な事に、気付かなかったんだろうな」

 リンクは再び抜刀し、左手に剣を、右手に盾を構え、臨戦態勢を取る。

「さっさと構えなよ。痛い目に遭いたくなければ」
「待てリンク!」
「――はぁあああ‼︎」

 鬼気迫る一撃がマリオを襲う。
 反応に遅れたマリオの視界で銀の光沢が光る――。

「ッ‼︎」

 間一髪、間に滑り込んだヴィルヘルムが自前の長杖を横に構え剣撃を受け止めた。
 軽く弾かれたリンクはかかとに力を入れ、突きの態勢へ転ずる。背後のマリオごと横へ回避したヴィルヘルムは、長杖を両手で握り鈍い音を響かせながら大きく振るう。

「ぐッ……」

 長杖の先端――十字架の部位を盾で受け止めたリンクだったが、あまりの威力に吹き飛ばされる。
 空中で態勢を整えたのち着地。白き十字架を据えた長杖を構えるヴィルヘルムとの睨み合いが続く。

「待って!」

 そこに乱入したカービィに、両者から鋭い視線が向けられる。
 だが、カービィは引かず、明確な意思を持って声を張り上げた。

「ぼくと勝負しよ! リンク!」
「……あんたと?」
「うん!」

 リンクは一瞬気が緩んだが、すぐに眦を釣り上げる。

「誰だっていいよ。元々、全員と戦るつもりだったし」
「カービィ! 流石に体格差があり過ぎるだろ!」
「大丈夫! 慣れてるから!」

 マリオの心配をよそに、カービィは口の中から不思議な刀身の剣を取り出した。

「行くよリンク!」

 緩く構えたカービィと、腰を低く落としたリンクは同時に地を蹴った。


 静かな森に絶え間なく、刃を打ち鳴らす金属音が響く。

「やあああああッ‼︎」

 残像を残すほど神速で繰り広げられる突きを、小さな体躯たいくを生かして危なげなく避ける。
 左下から右上へ。地面を抉りながら行われた袈裟斬けさぎりも難なく避けられ、リンクは焦燥しょうそうに駆られる。

「ちょこまかと……!」
「うわあ!」

 鉤爪かぎづめの付いたチェーンを放ったリンクが、縦横無尽に駆け巡るカービィを捕らえた。
 ジャラジャラと鎖を引き寄せ、零距離となったカービィの小さな体に膝蹴りを一発。ボールの如く、カービィの体は天高く打ち上げられた。
 流石に看過出来ないとマリオが飛び出すが――リンクの頭上でキラリと光る『何か』。

「えいっ!」

 くるりと一回転したカービィが、剣を下段に構えたまま急降下。回避に遅れたリンクの頬に、一筋の血筋が流れる。

「デデデのハンマーのほうがイタイもんねー!」
「このっ」

 べぇ、っと赤い舌を出すカービィに青筋を浮かべたリンクは小さな爆弾を投げつけるが。

「はぁ⁉︎」

 着弾する間もなく大きな口へと吸い込まれていき、輝く星となって吐き出される。
 構えた盾で受け止め、すかさず剣を振るうがそこに姿はなく。

「てやっ!」
「ぐっ」

 その体のどこにそんな力があるのかと疑うほど――軽々とリンクの体を持ち上げ投げ飛ばす。
 火を見るより明らかな劣勢。
 剣の腕が落ちた? 異世界の戦士に対処できてない?
 ――否。
 リンクの剣は、迷っているのだ。
 どこまでも真っ直ぐで純粋な、カービィの想いに。

「危ないリンク‼︎」

 マリオの叫びに意識を現実へと戻したが、時すでに遅し。
 リンクの懐に飛び込んできたカービィは――……。

「……?」

 ぽすっと素っ頓狂な音を立て、リンクの胸元をギュッと握り締める。
 遅れて、彼らの近くにカービィの剣が刺さった。

「ちょっ……おい……」

 突き離そうとしたリンクは驚く。まるで拒むように力が入らないのだ。
 これが実戦であったなら、殺されていたのはリンクだ。
 悔しげに下唇を噛むリンクだったが――やがて、負けを認めたようにだらりと両手を下げて、空を仰ぐ。

「なんなんだよ……本当に……」

14/33ページ