Super Smash Bros. - Cross × Tale -

3:合流せし戦士達【5】


「兄さん〜早く起きなよ〜」

 翌朝。ルイージは、なかなか起きてこない兄の自室の扉を叩いては声を掛けていた。

「もう朝ごはんの時間始まってるよ〜」
『……』

 中からの返事はないどころか、布擦れの音もしない。

「……兄さん、入るよ」

 不審に思ったルイージは無断で足を踏み入れる。
 周囲を見渡すが何処にも兄の姿はなく、寝台に近づいた時――殴り書きのメモを発見。

『夕方までには帰る。マリオ』
「た、大変だ……‼︎」

 ルイージは急ぎ食堂へと向かい、先に頂いていた彼らにマリオの書き置きを伝える。

「そういえば、カービィも見ないね……?」

 マリオとカービィ、二人の失踪が発覚。
 同席していたマスターは急ぎ朝食を胃に押し込むと、《スマデバイス》を手に席を立つ。

「すまないが、先に失礼する」

 足早に食堂から立ち去るマスターに、フォックスは首をかしげる。

「そんなに大変な事態か?」
「私達に動かれたくない『何か』があるとしたら、話は別だ」

 未だ信頼していないサムスの言葉には棘があるが、きな臭いのは確かだ。
 一同は――食事を担当しているコックらに分からぬように――互いに顔を見合い、視線を交わす。
 マリオとカービィを探すフリをして、探るなら今が絶好のチャンス。

「――というわけだ。ヴィルのほうでも探してくれ」
「はい。分かりました」

 一方、ヴィルヘルムと合流したマスターは端的に説明すると、自身も探すべく彼と別れる。
 ヴィルヘルムはそのままマスターとは反対の道を進むが、ふと思いついてその足で『ポータルルーム』へと向かう。

(作動した形跡がある……マリオさんかな)

 戦士達の中で転移装置『ポータル』の使い方を知るのはマリオだけである。
 ヴィルヘルムは上司のマスターに報告しようと足を向けるが、思いとどまる。

(いや……確証がないことを報告するわけには。まずは僕が見に行こう)

 そう考え、ヴィルヘルムは一人『ポータル』の中へ進んだ。


《『ハイラルエリア』ニ到着。オ気ヲツケテ、イッテラッシャイマセ》

「ここが『ハイラルエリア』か〜。これまた、変わった場所だな」

 おっ城がある、と呑気に呟くのは城から姿を消したマリオだった。

「なかなか広そうな場所だな。でも……」
「ぜったい見つけようね! マリオ!」
「おう! って……カービィ⁉︎」

 マリオの足元でカービィは「ぽよ?」と体を傾けて。

「お前いつの間にボクの後を⁉︎」
「マリオがおしろでコソコソしてた時からだよ?」
「ずっとかよ! 足元は盲点だったな……」

 カービィは無遠慮にマリオの帽子の上に登ると、顔を覗き込む。

「リンクをさがしに来たんだよね?」
「……ああ。やっぱり気になってなぁ」

 わざわざ内緒で『ハイラルエリア』へとやって来た理由は、初日で城を出たリンクを探す為であった。
 そんなマリオに、カービィはえへへと笑う。

「ぼくもいっしょにさがす! リンクと仲良くなりたいもんっ」
「だな! 一緒に『大乱闘』は出来なくても……話し相手ぐらいにはなってやりたいしな。――よしっ! 行くぞカービィ!」
「おー!」

 片腕を天高く掲げた二人は、目の前に聳える荘厳なお城を目指し出発した。


「すっげ〜……」

 城下町へと辿り着いたマリオは、『キノコ王国』とはまた異なる風景に開いた口が塞がらなかった。
 軒を連ねる店々は皆特徴的な建物。石畳みの通りは多くの足音を鳴らし、どこからか流れる陽気な音楽が耳朶じたをくすぐる。
 城下町、を冠する通りに沢山の笑顔と活気に溢れていた。

「こんだけ人がいれば、情報収集しやすそうだな」
「あそこの人に聞いてみよ!」

 賑わう噴水近くに寄った二人は、一人の老婆に話しかけた。

「ちょっといいか? 人を探しているんだが……」
「緑のぼうしに服を着ている子だよ。知らない?」

 老婆は皺だらけの口に笑みを浮かべた。

「その坊主なら見たさ。森の方へ行ったみたいだねぇ」
「森?」
「そこの道を真っ直ぐ行くとあるんだよ。恐ろしい森がねぇ、ヒヒヒ……」

 老婆の怪しげな口調に戸惑いつつ、マリオとカービィは謝辞を述べて草原への道を進む。

「あのおばあさん、おそろしい森って言ってたね」
「恐ろしい森がなんだ。どうせ大したことないだろ」

 城下町から真っ直ぐと草原を歩いていく二人。
 ようやく森の入り口が見えた頃――二人がよく知る人影が行手を阻む。

「ヴィルヘルム……」
「この先に行かれるのですか?」

 いつになく険しい目つきのヴィルヘルムに、彼らはたじろぐ。

「そ、そうだ。リンクがいるかもしれないからな」
「――だとしても。この先はあまりにも危険です。共に城へ参りましょう」
「きけんって?」
「……この先は『迷いの森』と呼ばれ、迷い込んだら最後。人間としてではなく怪物として彷徨うことになる――という言い伝えがあります。真偽は定かではありませんが、迷ってしまうほど深い森であるのは確実です」

 どうか諦めてください。
 言外にそう告げられたマリオは、ヴィルヘルムに負けず劣らず睨み返す。

「そんな危ない場所にいるなら尚更ほっとけないだろ!」
「っ」

 マリオの気迫に押され、びくりと肩を震わせたヴィルヘルム。

「行くぞカービィ」
「……うん!」

 そんな彼を通り過ぎ、二人は迷いの森に足を踏み入れる。

「……」

 少ししてヴィルヘルムも、見えなくなりかけていた彼らを追従していった。

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