Super Smash Bros. - Cross × Tale -
《『オネットエリア』ニ到着。オ気ヲツケテ、イッテラッシャイマセ》
城の『ポータルルーム』からファストトラベルしたカービィとヴィルヘルムの二人。
はぐれた参戦者の一人の故郷を投影した『オネットエリア』に到着した彼らは、物珍しげに周囲を見渡す。
「大きな何かが道を通過してる……?」
「アレは車っていうんだよ! ヴィル見たことないの?」
「くるま? へえ……」
ヴィルヘルムはカービィを地に下ろし、《スマパッド》を鞄から取り出した。まずは実地調査から始めるらしい。
「カービィ、少しお仕事するから待っててくれる?」
「うんっ! その辺見てていい?」
「平気だよ。遠くにはいかないでね」
「は〜い!」
シャッター音を鳴らしてカメラ撮影を始めたヴィルヘルムを背に、カービィは街の中を探索する。
(クンクン……なにやらおいしそうな匂い〜……)
香りに釣られふらりふらりと向かえば、飲食店の外に置かれたゴミ箱を発見。
(ハンバーガーがこんなところに!)
蓋を開けてみると、手をつけられていないハンバーガーが丸々捨てられていた。匂いから判断するに、捨てられてから然程時間は経っていない。
勿体無いし食べちゃおう。カービィがゴミ箱に頭を突っ込んだ時。
『そこのピンクボール! ゴミ箱を漁るんじゃない!』
赤いランプが付いた車が近くの道に停車。中からポリスマンがカービィに向けて警告する。
『街を汚す不届きものめ! オネット警察署に来なさい!』
何か勘違いされてしまった様子。
「あわわわわ」
まずいと判断したカービィは咄嗟にホバリングで空中へと逃げてしまう。それが
「……カービィ?」
「も、もう疲れたぁああああ……」
ポリスマンとのチェイスの末――カービィは、街の北側に位置する山の頂上付近でぐったりと倒れ込んだ。追手が来る気配はなく、暫くは休めそうだと安堵する。
「ぼくまだなにもしてないのにぃ〜……」
遅れて盛大に腹の音が鳴り響き、更にカービィはげんなりしてしまった。
「ヴィル〜迎え来て〜」
「――誰かいるの?」
他力本願だったカービィはその声に顔を上げた。
「うん、いるよー!」
「ちょっと手を貸してほしいな。多分近くだと思うんだ」
声の主が誰だか知らぬがカービィは気にせず、重たい体を引きずって道なりに進む。
「!」
そして出会ったのは、ストライプの服に赤い野球帽を被った少年。
少年はカービィの姿に目を見開く。
「君は……未来人?」
「みらいじん? ぼくはカービィだよ! きみは?」
「えっと……ネスだよ。カービィ」
『ネス』と名乗った少年は――やや苦笑気味に返した。
「ネスがぼくを呼んだの?」
「うん。でも……カービィには難しいかもね」
「え〜? どうして?」
ネスは自身の脚へ目を向ける。
「わっネス! ケガしちゃったの?」
「上から落ちちゃって」
崖から落ちた衝撃で捻ったという脚は赤く腫れており、自力で下山するのは不可能に近い。
「本当なら、このぐらいの怪我自分で治せるんだけど……どうしてか発動出来なくて。誰かに手を貸してもらえたらなって思ったんだ」
しかしながらネスの願いとは裏腹に、やって来たのは自身と同じ――いやそれ以下にもなる背丈の謎生き物。手を貸して貰えるには頼りない。
「だいじょーぶだよネス! ぼくにまかせて!」
自信満々に胸をポンっと叩くカービィには申し訳ないが、ネスはあまり期待していなかった。
すると、カービィは青空に向かって大きく叫んだ。
「ワープスター! ……あれっ?」
「……なにしてるの?」
「わーぷすたぁああ!」
「……なにも起きないよ?」
「……えー⁉︎ ぼくのワープスターが〜〜!」
へたり込んだカービィの腹が再度音を鳴らす。
「うう……追いかけられるわワープスターは来てくれないわネスの力になれないわで散々だよぉ……」
「だ、大丈夫だよ。誰か来てくれるって」
「じゃあそれまで一緒にいる! ネスひとりにはさせないから!」
呆気に取られていたネスだったが、次には「ありがとう!」と破顔する。
「カービィ、お腹空いてるならこれあげるよ」
ネスはリュックサックから紙に包まれたハンバーガーをカービィに差し出した。
「いいの⁉︎」
「うんっ」
「やったー! いっただき……」
口を開けたカービィはふと思いつくと、ハンバーガーを半分に割ってネスに差し出す。
「いっしょに食べよ!」
「……うん!」
照れくさそうに笑いながら、ネスはカービィと共にハンバーガーを頬張った。
「そういえば、カービィはどこから来たの? オネットの住人じゃないよね?」
早々に食べ終えた後、ネスは地面に寝転ぶカービィに首をかしげた。
「えっとねー……本当はちがうんだけど、今はお城からきてるよ!」
「お城……? ――それってもしかして」
ネスは慌ててリュックサックの中身をひっくり返し、一通の便箋を手にした。
「これに書いてある『大乱闘』と関係ある?」
カービィの目が、見る見るうちに輝いた。
「関係あるよ! ネスもこの世界に招待されていたんだ!」
「も? ってことはカービィも……⁉︎」
「うんうん! ぼくら、ネスのこと探していたんだよ!」
「ど、どういうこと?」
困惑するネスに、カービィは自身が伝えられる範囲内で説明する。
大まかな内容を理解したネスは、カービィと共にオネットへ来ているというヴィルヘルムに注目する。
「その、ヴィルヘルムさんに連絡は取れないの?」
「連絡? ……あっ、忘れてた」
言うや否や、カービィの口から吐き出された《スマデバイス》。涎一滴付着していないのは最早ホラーである。
不慣れながらもヴィルヘルムの端末に通話を掛けると、すぐに相手から応答が。
『カービィ、今何処にいるの?』
「えっとね〜……」
「ぼくに代わって」
と、カービィから《スマデバイス》を受け取ったネスは端末を耳に充てる。
「もしもし?」
『……すみません。どちら様でしょうか』
ヴィルヘルムの声音が一変する。
聞き耳を立てていたカービィが「あのね」と口を開いた。
「ネスだよ! ヴィルがさがしてた子だよ!」
『……申し訳ありません、ネス様』
「あ、いや、全然大丈夫です……」
萎縮してしまうネスだったが、気を取り直して。
「ぼく達今、山の頂上付近にいるんです」
「下りようとしたんだけど、ネスがケガしてて……」
『……山?』
「近くに赤く光ってる岩があります。結構見やすいと思うけど……」
『……』
「……アレ、ヴィル?」
ヴィルヘルムからの返答が途切れ、画面を確認するも通話は繋がったまま。
おーいっと呼びかけていると、何処からか足音が。
「見つけた」
「ヴィル〜〜!」
山道を登ってきたヴィルヘルムが合流。飛びついて来たカービィに、思わず苦笑する。
「カービィ、憲兵を怒らせてはいけないよ。ちゃんと話し合わないと」
「な、なんで知ってるの……?」
「アレだけ騒ぎになっていたら気付くよ。誤解は解いておいたから、次からは気をつけてね」
「ありがとうヴィル!」
「あはは……オネットのポリスマンは結構過剰だからね……」
カービィの経緯を察したネスが苦々しく笑う。
「貴方様が、ネス様でお間違いないでしょうか」
「はい。……だけど堅苦しいのはその……」
「ぼくと同じ風にお話したいって」
やや拡大解釈過ぎるが、言いたいことは間違っていない。首を縦に振ると、ヴィルヘルムは「うん、分かったよ」と返してネスの傍らに膝をつく。
「痛むのはここだけかな」
「うん。下に病院があるから連れてってくれたら――⁉︎」
間を置かず。突発的に発生した純白の光。
それはネスの脚に翳したヴィルヘルムの掌から発せられており、驚愕する顔を照らし出す。
「……はい。これで大丈夫だよ」
光が収まるとようやく脚の状態が明らかとなる。
あれだけ赤く腫れていた脚は元通りとなっており、心做しか力も湧いてきた。
自身が持つPSIのライフアップとは異なる力。
(そういえば……ここに来るまですごく速かったな)