Super Smash Bros. - Cross × Tale -
あれだけ大嫌いだった世界が、今ではこんなに綺麗に映る――。
室内が熱かったとは言え、世界は真冬の時期。冷え込んだ夜を迎えるに己の装いは心許ない。少年はぶるりと身震いしたが、羽織るものを取りに戻る気配はなかった。
「『ヴィルヘルム』!」
名を呼ばれた少年――『ヴィルヘルム』は、声の方向に体ごと向けるや否や声の主に肩を掴まれ、ぐるりと反転。「うわっ」と小さく声を上げた。
「な、な、な、なに⁉︎」
「いいから先に腕を通せ! 外に出るなら上着ぐらい持っていけって」
男はどうやら上着を着せてくれようとしたらしい。ヴィルヘルムは大人しく上着を羽織ると、「ありがとう」と振り返る。
「あれっ? 君も外に?」
「うん!」
ヴィルヘルムがもう一人の存在に声をかけると、その子はヴィルヘルムの胸に飛び込んできた。すかさず抱き止めたヴィルヘルムに、男は肩をすくめズレた帽子を直す。
「……お、もう月があんなに高い。こりゃあそろそろ脱落者が出てくるな〜……」
夜空に浮かぶ月が、今日という日の終わりを告げる。
「……今日もあっという間だったな」
月を見上げるヴィルヘルムを横目に、男は頬を緩める。
「もう2年も経ったんだな。ボク達がやって来てから」
「なんだかふしぎだね。ずっと昔からおともだちだった気がするよ」
口々に彼らが話す隣で、ヴィルヘルムも「そうだね」と笑う。
「……なあ、ちょっと語らないか?」
男はそんな風に言って、月を見上げた。
「楽しかったことも、嫌なことも、辛かったことも。全部吐き出してから明日を迎えるのも悪くないだろ?」
静かに笑みを浮かべる男に、ヴィルヘルムは一度瞑目して、開く。
「……うん。そうだね」
「じゃあまずは――から話してよ! こうゆーのは、言い出しっぺからなんでしょう?」
「話すもなにも、ボクもお前も来たのは一緒の時期だろ!」
「なら招待状が届いたときの話を聞きたいな。聞いてなかった気がするから」
「大した話じゃないけどな」
男は2年前の記憶を遡り、語り始める。
今夜は眠れないな、とヴィルヘルムは密かに苦笑しながらも、自身もまた2年前を追憶するのであった。
これは異世界より具現化された存在『ファイター』と、マネージャーの少年『ヴィルヘルム』。
彼らの出会いと、別れと、絆が交差する物語──。
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