名探偵コナン
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師走、北海道の朝は名無しにとって今年も布団から出るのが嫌になる程寒かった。
幸いにもまだ町が冬化粧をしていない事は凄く有難い上に助かるのだが、それでも寒いものは寒い。
手探りでサイドテーブルの上に置かれているスマホを確認すれば、時刻は7時50分。
そろそろ大学の講義に行くために起きなければと思う時刻になっていた。
(あ〜〜〜、準備しないとなぁ…)
暖かい布団の中から出たくない…そう思いながら名無しは意を決する。
どうでもいい選択科目であれば十分に単位が足りているのでサボることも出来るが、今日の1限目は名無しにとって必修科目なのだ。
必修科目故に落とすことは許されない事を考えれば、名残惜しそうに布団から抜け出す。
カーペットの上に足を下ろせば、ひんやりとした空気が名無しの足を撫でる。
『寒っ…』
昨日寝る前に暖房を付け忘れたせいか室内は何時もよりも寒さが身に染みる。
県外から名無しが今通う八幡坂大学に進学したせいか、北海道の冬にはまだ慣れていなかった。
『北海道民ほんと寒さに対する耐性付きすぎでしょ』
「そんな事ないけど?」
『え…?』
そんな事を思っていると、名無しの身体は再び布団の中へと引きずり込まれた。
温かい体温に名無しの身体は包まれれば、名無しはゆっくりと身体を回転させ後ろを振り向く。
『……起きてたの聖?』
「おはよう名無し。さっき、ね」
昨日身体を重ねた相手…福城 聖の姿が名無しの目に映り込む。
寝起きだというのに相変わらず顔が良い。
『聖は今日午後からだっけ?』
「そうだよ。名無しは1、2限だけだよね」
『…1限と2限だけだけど必修科目だから行かないと行けないのよ』
そう聖に名無しは告げる。
勿論必修科目なのだ、行かないとどうなるか聖も分かってるでしょ?と言う意味合いも込められているのだ。
だが察してか、わざと察しないのか聖は名無しを抱きしめる腕を緩めない。
「分かってるよ、必修科目落とすのは駄目だからね。」
『じゃあ離してもらっても?支度しないと間に合わなくなるんだから』
「離しても良いけど…離す代わりにお願い聞いてくれる?」
『お願い?』
聖の言葉の意味が分からず、不思議そうに名無しは聖へと視線を向ける。
お願いとは何だろうかと、名無しは寝起きの頭で考える。
聖の事だ、こんな時間なのだから無茶振りなお願いはしないと…名無しだって思っている。
もしかしたら今じゃなくて後からのお願いかもしれないとか寝起きに頭をフル回転させ考えるものの、聖が言葉にするお願いは名無しが拍子抜けする事になるお願いだった。
「名無しが帰ってくるまで居てもいいでしょ?」
『居てもいいでしょってアンタね…』
聖の言葉に、名無しはため息を一つこぼす。
その発言は至って恋人同士ならため息を付くことにはならないどろう。
聖だって名無しが先程まで眠っていた布団の中で眠っていたのだから。
名無しも聖もお互い20歳であり、昨夜は身体を重ねていたのだ。
この部分だけ聞けばきっと傍から見れば“恋人”同士かもしれないが、名無しと聖に至ってはそれに当てはまらない。
実際名無しと聖は“恋人”同士等では無く世間一般的に言えば、聖との関係はセックスフレンド…所謂“セフレ”でしか無いのだ。
都合のいい身体だけの関係。
お互いの性欲を満たし、寂しさを埋め傷の舐め合いだってする。
それ以上でもそれ以下でもない…はずなのだ。
『…アンタ私との関係分かってるの?』
「少なくとも恋人関係ではないね」
『分かってるならいいけど…』
聖の言葉を聞けば名無しは安堵する。
だが安堵とももに胸がズキリと痛む。
聖が言葉にした「少なくとも恋人関係ではないね」と言う言葉。
その言葉が名無しと聖を繋ぐ唯一の言葉であると同時に、その言葉に傷ついている自分が居る事に名無しは目を逸らす。
(ズルい女よね…私は…)
―――お互い好きな人が出来たらこの関係を辞める
それが名無しと聖の双方が交わした約束。
本当はこの関係を終わらせなければと思いながら、名無しはそのまま続けてしまう。
分かっている、分かっていながら名無しは終わりを告げる言葉を口にする事が出来なかった。
何時からなんて名無し自身覚えていない。
何処が好きで、何がきっかけで聖の事を好きになったかなんて名無しには分からない。
それでもたった1つだけ分かる事があるとすれば、それは名無しが聖の事を好きだと言う事だ。
名無しが聖を好きな時点で、聖と交わした約束は破綻している。
だが名無しは言えずにただ黙って関係を続けていた。
たった一言、『好きな人が出来た』と言えばいいだけの話なのに名無しはそれが言えなかった。
言えずだらだらと縋る様に、聖との関係を続けてしまっている。
聖に気付かれないように、バレないように、気持ちを隠しては聖の事が好きだと分からないように約束を持ちかけては確認する。
だがセフレであるはずなのに、聖は時折名無しの恋人の様に接するのだ。
今もそう、抱きしめては名無しの額に愛おしそうに口付ける。
まるで恋人の様に甘やかしては、名無しは自分の物だよと言わんばかりの錯覚を起こさせる。
それもあるからこそ、セフレにこんなに優しくするなよと思うものの聖の事が好きだからこそ甘んじて許してしまう。
聖は顔も良ければ居合道の達人で、女の子からよくモテる。
告白をされている現場を名無しが見たのだって両手で数えられる域は等の昔に超えているのだ。
付き合おうと思えば誰とでも付き合えて、身体だけを望む人だってきっと直ぐに見つかる。
身体の相性がいいのか、はたまた面倒くさくない相手がいいのかは残念ながら名無しには分からないし聖のみが知る事だ。
名無しがそんな事を思っているとちゅっっと音を立てて今度は名無しの唇に口付ける。
『ん…聖っ…』
「ごめんごめん、名無しが可愛かったからつい」
聖の口から自然に出る言葉に名無しは頬が緩まないように噛み締めては、気付かれないように目を伏せる。
眠いのかトロンと蕩けるような垂れ目が名無しを見つめては愛おしそうにもう1度口付けを交わす。
『聖アンタそう言うのは私じゃなくて好きな子に言いなさいよ?…私じゃなかったら勘違いされても仕方ないんだから』
「大丈夫だよ、言う相手はちゃんと考えてるからね」
『……質が悪いわよ、アンタ…』
聖の言葉に再びため息を零し、今度こそ名無しは聖の腕の中から抜け出して着替え始めた。
(言う相手はちゃんと考えてるってどういう事よ…私は、私は聖にとってそう言う“対象”じゃないって思ってるのかな…)
聖の言葉の意味が分からず、名無しは一人傷つく。
だが今は傷ついている場合ではない、時計を見れば時刻は既に午前8時15分を指していた。
八幡坂大学は名無しの住むアパートから徒歩15分圏内であり、1限目も午前9時からなのおかげで今から支度をすれば十分間に合う。
バタバタと慌ただし気に顔を洗いに出て戻れば、クローゼットから今日着る服を出して身支度を整える名無し。
そんな名無しを布団に入ったまま聖はじっと見ながら口を開いた。
「ねぇ、名無し」
『なぁに?』
「朝ご飯何が食べたい?」
『…流石に朝ご飯時間食べてる時間はないし…私朝は10秒チャージのゼリー飲料しか体が受け付けないから何が食べたいって言われてもそれしか出てこないんだけど』
「そうじゃなくて…講義から帰ってきたら流石に名無しだってご飯食べれるだろ?」
『それはまぁ…そうだけど…と言うかそれもう朝ご飯じゃなくて昼ごはんじゃん』
時間を考えれば名無しが2限を終えアパートに帰ってくればとっくに12時を超えているのだ。
もうそれは朝ご飯ではなく昼ご飯だと思うものの聖はお構いなく話を続ける。
「僕今日は4限目からだからゆっくり出来るし、名無しが食べたいご飯作って帰ってくるの待っててもいいだろ?」
若竹色の綺麗な瞳がじっと名無しを見つめては聖は問う。
セフレなのに何故そんなことまでするの?と思うもののそう言う風に言われると名無しだって嬉しいに決まっている。
聖のそう言う所が自身をセフレではないと思わせるし、思わせる振る舞いをするのだからやはり質は悪い事に変わりはないのだが。
『…アンタ今までのセフレにもそうやってしてたの…?』
「否、名無しにだけだよ」
『……っつ』
「言っただろ?言う相手は“ちゃんと”考えてるって」
再度そう言われてしまえば、名無しは唇を噛み締める事すら忘れ自分でも分かる程頬が赤く染まっているのが良く分かる。
布団から出て寒かったのにも関わらず、今は寒いよりも熱さの方が勝るのだ。
『…っつ、何時も通りでいい!後、食費は割り勘だからね!!!』
そう叫びながら身支度を終えてしまえば、名無しは鞄を持ち勢いよく扉を閉めた。
化粧はどうせマスクをするのだ、今日位構いと化粧をサボったところで死にはしないと割り切る。
扉を閉めると同時に何か聖は言いかけていたが、そんな事お構いなく名無しはアパートを出た。
先ほど言われた言葉の真相等名無しには分からない。
それでもそう言われて悪い気はしないのだ。
惚れた弱みなのか、もしかして…なんて夢物語を思い描こうとしている自分の思考を薙ぎ払う。
(ずるい、ズルい、ズルイ!!!!)
名無し自身だけでなく、福城 聖と言う男も十分ずるいのだ。
セフレなのに名無しを惑わす、恋人の様に接するのだからずるい以外の言葉なんて見当たらない。
だがもし己惚れて『聖の事好きだよ』等と言って約束が終わってしまえば、それこそ名無しは耐えられないだろう。
性欲に関しては他の男にでも縋ればいい話だと考えればまだどうする事も出来るだろうが、名無しは寂しさを埋める術を持っていないのだ。
だからこそ聖に縋る、それに関してだけは誰だっていいわけではない。
傷の舐め合いでもお互い寂しさを埋めてくれるのは…何時だって聖1人だけなのだから。
(終わらせるなら、終わらせるなら…聖の口から…終わりを告げられたいよ…)
自分から言い出せないのだ、自分勝手ではあれどどうしても終わらせるなら聖の口から聞きたいと望んでしまう。
聞けばきっと、『なら仕方ないね』と、聖の前だけでは笑って言えるのだから…。
まだ、大丈夫と自分に言い聞かせては名無しはスタスタと冷たい風が吹く中を歩いて行った。
こんな、世間では「セフレ」と呼ばれるような関係
(あれ、名無し彼氏でも出来た?)
(ん、何で?)
(だって名無しの首にすっごく濃いキスマーク付いてるよ)
(へっ??!)
(名無し彼氏が出来たなら親友の私に言ってくれたらいいのに~)
(ち、ちがっ、違う、これ違うからっ??!!)
((聖の奴一体何考えてんのよ~~~~~~?!))
2024/12/07
お題提供:確かに恋だった様
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