ヴァリアーさん家の仔羊?さん
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その日、XANXUSは任務を終え屋敷へと戻る途中だった。
本来であればXANXUS自ら行う任務の内容ではなかったのだが、幹部も他の隊員も全員他の任務で出払っておりヴァリアーのボスであるXANXUS自ら任務に出向く事になった。
その任務もあっけなく遂行しものの10分もせずに終わり、XANXUSはこうして帰路についているのだ。
本来であれば迎えの車で帰るのだが、その日は何となく歩いて帰りたい気分だったのでXANXUSは自らの足で歩いて帰っている。
イタリアの街は華やかであれど、一歩場所を間違えばそんな華やかとは無縁の人間も居る。
平日だと言うのに街には人々がそれなりに行き交う。
行き交う人の中にはXANXUSの姿を見て怯える人間もちらほらと目に付いた。
そんな人間にXANXUSは舌打ちをしながらも、気だるい足を早々と動かす。
だが不意に、XANXUSはその足を止めた。
視界の端に移った金色に、思わずXANXUSは視線を向ける。
金色の正体は女だった。
その女はいかにも抱えきれないほどの肉が入っているであろう紙袋を両手いっぱいに持って嬉しそうに肉屋から出てくる。
太陽の光を浴びてキラキラと輝くふわふわと跳ねまわっている金色の髪の毛。
XANXUSと同じ赤い瞳ではあるが、女の瞳は大きく可愛らしい。
ふわふわの髪の毛のせいか見た目は完全に草食動物の羊だ。
否、どちらかと言えば仔羊と言った方がしっくりくる。
年端も行かない女は争いとは無縁の、何処にでも居る街娘と言うのがXANXUSの印象だった。
『鶏肉、豚肉、牛肉に~!にくにくにく~!』
歌っている歌さえなければ誰かしら声をかけていたかもしれない。
今にもスキップを踏みそうな勢いで、上機嫌に歩いている。
が、そんな女が気にくわなかったのだろう。
前方からドンっと、女に男二人がぶつかる。
女よりも相当上の年代だろう、がたいのいい身体付きからしたら荒くれ者だと言うのが一目で分かる。
ぶつかったはずみで、女が持っていた紙袋は全て地面に落ちていく。
先程購入したばかりの肉の塊が青空の下散らばる。
そして分かっていて男達はわざと肉を足で潰した。
無論それを見た女は上機嫌だった表情が消え去り、唖然と踏まれた肉を赤い瞳に写す。
『あ……』
「あ、ごめんなぁ~俺たち悪気があったわけじゃないんだよ」
「そうそう、ただちょっとふらついただけなんだよね~」
口ではそう言うものの、男達は紙袋を踏みにじる。
男達は多分女の行動が気に入らなかったのだろう。
目の前で紙袋を思いっきり踏むその表情は分かっててやっている人間の、厭な笑みを浮かべていた。
自分の事ではないにしろ、XANXUSは思わず殺意が湧き、女と男の方へと歩み寄ろうとした…が。
『わ……の、…が…』
歩み寄ろうとした時、か細い声で女が何かを言う。
あまりにも小さく、聞き取りづらい声に男達もXANXUSもその言葉が聞き取れない。
「ん??何だって?」
「もう少し大きな声で言ってくんないかな???」
『っつ………私の肉返せよこのゴミクズが!!!!』
そう言って女は男の方へと歩みより、そして殺気を放つ。
女一人で、相手は大の大人の男二人だ。
普通に考えて無防備であり、逆に殺られてしまうのではと思うのが普通だ。
だが、女は素ででその大の大人をいとも簡単に半殺しの段階まで追いやる。
無駄のない動き、手際の良い手慣れた手つき。
XANXUSですら気を抜けば女の気配を感じられないほど、女は全てにおいて慣れていた。
素手だけで半殺しの段階までおいやる女等まず早々に居ない。
そして何より半殺しで留めているのだ、本気を出せば今頃あの男達二人はあの世行だったに違いない。
思わずXANXUSですら見惚れてしまう程、女の手口は美しかった。
XANXUSと同じ赤い瞳は先ほどまでとは違い、愛らしいなんて言えぬほど鋭い。
まるで獲物を狩る肉食動物…例えで言うのであれば狼の瞳そのものだった。
あまりのギャップの差に驚くものの、XANXUSの口角が上に上がる。
(おもしれぇ)
それが女に対する第二の印象だった。
言わずもながら、XANXUSは興味を抱いた。
『私の…私のお肉が……』
「……ゲフッ…っつ…」
「お、おれたちが悪かったから…だからっ…」
『お休みまで我慢してた…お肉…』
悲しそうな表情だが目つきは先ほどと変わらず鋭く男達を見下す。
どれだけ男達が言葉を発しようが、女は聞く耳を持たずただただ憂さ晴らしのために男達を殴り続ける。
そんな女にXANXUSは一歩、また一歩と踏み出して近づいていく。
近くまで近寄れば、女はすぐさま振り向きXANXUSへと視線を向ける。
敵意が無いのを察してか、女は男達に向けたような目はせずに最初見たような大きくて愛らしい瞳でXANXUSを瞳に写した。
二つの赤い瞳が混じり合う、
女は唐突に『あ、綺麗な瞳』と呟くが、XANXUSからすれば女の瞳の方がよっぽど綺麗に思えた。
「おい、女」
『…なぁに?』
「お前が買って行った肉、俺が買い直してやるよ」
『何で?…この人たちの知り合いか何か?』
「ハっ、んなカス共と一緒にするな女」
『じゃあ何で買い直してくれるの?普通見ず知らずの人間にそんなことするお人よしは居ないよ?』
女はそう言いながら首を傾げる。
ふと自分の従兄弟を思い出せば確かにそう言う事をする人間は少数ながら居るだろう。
だがこのタイミングでそんな人間が現れるとも思わないし、何より女が先ほどしていた行動をXANXUSは知っている。
関わりたくない、関わらない方が賢明な判断なはずなのに、それなのに女に声をかけたのだ。
理解出来ないとでも言わんばかりに『ねぇ、どうして?』と女は問う。
「お前が面白い奴だからだ」
XANXUSがそう言えば、女はそれを聞いてきょとんとした表情を止め、笑った。
『ありがとう~』っと、言う女の表情にXANXUSの心が何処か温かくなった…そんな気がしてしまった。
先程出て行った肉屋に女と、XANXUSが入店し、先ほど買ったものと全く同じものを女が頼みXANXUSが支払う。
肉の好みやこの部位が美味しいなど、注文しながらXANXUSに言う女…もといリーノは楽しそうに話す。
無論リーノの話を聞けば自分の好みとも合い、自然とXANXUSもリーノと話していた。
色気も何もない、ただただ食に関する話。
だが誰かとそんな会話をした事すらないXANXUSにとってその会話は新鮮なものだった。
その後、時間も遅くなって来たのもありリーノは帰って言った。
最後まで『ありがとう!』と言いながら手を振り帰るリーノ。
そんなリーノにXANXUSは何も言わずに去っていった。
もう会う事ないだろう…そうXANXUSは去り際に思った。
それもそのはずだ、所詮は暗殺部隊ヴァリアーのボスである自分と街娘であろうリーノだ。
今回出会ったのだって偶然だ。
またどこかで出会う、そんな偶然が度重なる事はないとXANXUS自信思っていたのだ。
だがその数日後、XANXUSはリーノと再び再会する。
イタリアの街で…と言うわけではなく、自身がボスを務める暗殺部隊ヴァリアーの屋敷内で―――…
出会いは偶然 再会は数日後
(何でリーノが此処に…)
(だって私一応ヴァリアーで働いてるし)
(……聞いてねぇー…)
(言ってないもん…もぐもぐ)
(……)
2024/08/12
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