「ふぅ～、いい湯だったわねリーノちゃん」
『うん、身に着いた汚い血も綺麗に落ちたしね』

リーノは笑顔でルッスーリアに言いながら髪の毛をタオルで拭く。
先程任務を終えたリーノとルッスーリアは屋敷に戻るなり早々にシャワー室へと飛び込んだ。
久々のルッスーリアと二人での任務と言う事でつい興奮し暴れたせいか、思ったよりもリーノとルッスーリアは敵の返り血を浴びてしまっていた。
普段なら返り血をほとんど浴びないのだが、今日ばかりは仕方がない。
もともとルッスーリアの隊に居たリーノは任務の時は何時もルッスーリアと行動を共にしていた。
だがリーノが幹部に昇格し、ルッスーリアの隊を抜けてからは一緒に任務に行く事はなくなってしまったのだ。
幹部になっても普段から顔を合わせる事はあっても一緒の任務はほとんどない。
だからこそ今日みたいに一緒に任務に行くことがあればつい羽目を外して暴れまわり返り血を浴びてしまう。
それだけならまだよかったのだが、任務を終えたと同時に突然の豪雨に合い二人はずぶ濡れ状態で帰る羽目になってしまったのだ。
風邪をひいてしまっては元も子もないので、報告書など後回しにして二人はシャワーを浴び今に至る。

「それにしても、本当にリーノちゃんの髪の毛綺麗よね」
『そうかな?』

ゴシゴシと髪の毛を拭くリーノを見ながら、ルッスーリアは羨ましそうにリーノの髪を見る。
何時もならふわふわとした髪の毛も、まだ水気を含んでいるせいかストレートにおろされていた。
金色の髪の毛先からぽたぽたとまだ水が滴る。
リーノ自身綺麗かどうかは分からないが、従兄弟であるディーノもよく「綺麗だな」とリーノの髪の毛を褒めていたのを思い出す。
そんな事を思い出しているリーノの手からルッスーリアはタオルを奪い、何処からともなく取り出した櫛でリーノの髪の毛を梳いていく。
ルッスーリアの手がくすぐったく、リーノはぶるぶると震えるが「我慢して頂戴」っと、鼻歌を歌いながらルッスーリアは丁寧にリーノの髪の毛を扱う。
まだルッスーリアの隊に居た頃、こうしてよく二人でシャワーを浴びた後リーノはルッスーリアに今みたいに髪の毛を梳いてもらっていた。
梳いてもらって居る時は決まって、XANXUSやスクアーロ、ベルにマーモン、ヴァリアー幹部の話を良くしてもらって居たなと思い出す。
今日はああだったとか、そう言えばスクアーロったらねなど…そんな何気ない会話を聞くのがリーノにとっては楽しみだった。
リーノ自身幹部になる気もなければずっとルッスーリアの隊に居るものだと思って居たから余計に今の自分の立場にはまだ慣れない。

「ねぇ、リーノちゃん。こんなに綺麗な髪ならもっと伸ばしてもいいんじゃないの?」

不意に髪の毛を梳いているルッスーリアがリーノに問う。
勿論、髪を梳いている手は止めずに。

『…う～ん、髪長かったら長かったで手入れが大変だし…何より鬱陶しいんだよね』
「そう?勿体ないわねー」
『それに、長い髪の時の私とは…もうお別れしちゃったから』

苦笑交じりにリーノが言うと、ルッスーリアは残念そうな声で「残念」っと呟いた。
ずっと昔、それこそヴァリアーに入隊するまではリーノも髪を伸ばしていた。
腰位の長さまで伸ばされていた髪は、陽の光を浴びればそれこそキラキラと輝く。
両親も、また従兄弟もそんなリーノの髪を自慢に思いそして似合っているとよく言ってくれた。
それが嬉しくて長く、長くのばしていたのだ。
けれどもそれは昔の話。
もう伸ばさないと決めたのだ、過去の弱い自分と決別するために―――…

「はい、出来たわよリーノちゃん」
『ありがとう、ルッス姉!』
「どういたしまし……って」

ルッスーリアが“どういたしまして”と言い終える前に、ルッスーリアの両手がわなわなと震える。
一体どうしたのだろう?と思い振り返れば、そんな馬鹿な?!みたいな表情をしていた。

『ルッス姉?』

もう一度名前を呼ぶがルッスーリアは「何でさっき梳いたばかりなのに毎回髪の毛跳ねちゃってるのよ?!」と、泣きながら再度リーノの髪を梳き直す。
だが何度やっても結果は変わらず、綺麗に梳いたと思った次の瞬間に再び跳ねるを繰り返した。
長い髪の時はともかく、髪を短く切りヴァリアーに入隊した時から短いせいか梳いても梳いても次の瞬間には跳ねまわっていつも通りふわふわヘア―に戻ってしまう。
リーノ自身は諦めてふわふわヘア―もこれはこれで有りと思っているのだが、ルッスーリアは納得していないのか何度も何度もリーノの髪を梳く。
こうなったルッスーリアは止められない上に悔しいのか何度だって梳いていくのをリーノは知っている。

(…とりあえずルッス姉の気が済むまでやらせてあげよう…)

負けず嫌いなのか、はたまた意地なのかは分からないがルッスーリアは諦めない。



よくあるよね梳いた後に
(ねぇ、本当にリーノちゃんの髪の毛どうなってるの?!)
(さぁ～?反抗期なのかも)
(反抗期!?)

2024/08/10