不器用な恋
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(……やっぱり似合ってないわね)
翌日、マリアはホテルの自室の鏡の前で今の自分の姿を見ていた。
白を基調とした襟部分に黒いフリルが使われているアイボリー色のブラウス、胸元には黒色のリボン飾りがついている。
ふんわりと膝下までの長さの白いスカートの先には、黒色のフリルがふんだんに使われていた。
髪も何時ものハーフツインテールに結ばずに両サイドで三つ編みにしている。
普段のマリアの服装とは違い、今マリアが来ている服は以前着る服が無くしょうがなくリボーンに用意されていた服の中に入っていたマリアが自分から選ぶ事のない服だ。
前回日本に来た時はそのままリボーンに頼まれていた薬を渡せばトンボ帰りする予定だったが、今回は違う。
今回はきちんと滞在日時を決め日本に来たのだから着る服が無いというわけではないのだ。
『…ほんとにこんなので喜ぶのかしら…』
鏡に映る自分の姿を見て、マリアは溜息を一つこぼした。
今日は待ちに待った並盛科学博物館に行く日であり、マリアがツナの家庭教師を務めた報酬がようやく支払われる。
マリア自身この日をどれだけ待ち望んでいたかと、昨夜はなかなか寝付けなかった事を覚えている。
遠足の前日に眠れない子供の様だなとマリアだって思ったがそれほど楽しみで仕方なかったのだ。
マリアの好きが溢れ返った夢のような施設であり、滅多にイタリアから出る事が無いマリアからすれば未知の領域なのだ。
科学の発展は国によって違う、どういう風に発展しどういう風な見方をされていたかなんて国が違えば思考すら変わるのだから。
そんな待ち遠しい思いで居たはずなのに、マリアは目の前の自分を見ては再度溜息を付く。
自分で選んで自分の意思で着たはずなのに、やはりマリアは自分の今の服装が似合っていないのではと不安になってしまう。
―――「今朝来てた服…もう着ないのか?」
以前ディーノに言われた言葉。
期待の眼差しを向けられ、マリア自身『気が向いたら…ね』と言ってしまったのだ。
勿論ディーノに言われてマリアだって嬉しかったのだ、機会があれば応えようとだって思ってしまう。
だがしかしその機会は一向に来る事が無く、ここ数ヶ月はマリアは自分の依頼をこなすためにほとんど引きこもっていたため外に出る機会だって片手で数えられる程度。
ようやく落ち着き一つずつディーノとの約束を消化しようと思い今マリアは自分の意思でこの服を着たのだ。
以前アベーレに指摘された博物館に行くのもデートと言う言葉。
その時はまだディーノとは幼馴染の関係でしかないが、今は晴れて恋人同士。
マリアのリボーンからの報酬で博物館に行くと言えど、デートには違いないのだ。
(まぁ…似合わないのは承知の上で着てるわけだしいっか…)
鏡に映る自分を残念そうにマリアは眺める。
するとコンコンとノックする音が聞こえ、マリアは鞄を自分の肩にかけては意を決して扉の方へと近づく。
この時間にマリアの元を訪れる人物など一人しかいないのだ。
念のためドアスコープから覗けば、マリアが思っていた人物である…ディーノの姿がそこにあった。
「マリア準備できたか?」
普段通りモッズコートを羽織りラフな格好のディーノがドア越しに問う。
辺りにはディーノの部下であるロマーリオとアベーレの姿はないが、どうやら二人は先にホテル前に車を回しているのだろう。
遅かれ早かれディーノやロマーリオ、アベーレにこの服を着ている所を見せなければいけないのだ。
マリアは息を飲み『出来たわよ…』と、ドア越しにディーノに話しかける。
「?なら早く出て来いよ?」
何時もならすぐ出てくるはずのマリアが出てこない事に、ディーノは思わず首を傾げる。
今日はマリアが楽しみにしている博物館に行くのだ。
普段であればディーノがそんな事を言わずともすぐさま出てきては急いで目的に向かうはずなのに今日に限ってはなかなか部屋から出てこない。
「マリア?」
『…出るから…ちょっと待ってて…』
そう言ってようやくマリアはガチャリと音を立て、ゆっくりと扉を開けた。
「マリアそれ…」
『何よ…文句あるの?』
滞在している部屋の扉を開ければ、ディーノは鳶色の瞳を丸くしてマリアの姿を物珍しそうに見る。
マリアの事だから普段通りの服装で行くのだろうとディーノも思っていたが予想は外れてしまったのだ。
見覚えのある服に気づけば、ディーノは頬を緩めた。
『…で、デートだから…それらしくしただけよ』
「やっぱ似合ってて可愛いなマリア」
『っつ…どーも…』
ぶっきらぼうに服の裾で口元を隠してはいるものの、マリアの頬は赤く染まっている。
そんな仕草すら愛おしく、ディーノは誰が通るかも分からない廊下だというのにマリアを抱きしめたい気持ちでいっぱいになる。
実際抱きしめてしまえばきっと『ディーノ此処外なんだけど』と言われ逃げられるのは目に見えている。
抱きしめたい気持ちをぐっと抑え、ディーノは以前ロマーリオに言われた事を思い出した。
(そういやロマーリオも“デート”って言ってたな…)
あの時はただ出掛けるだけと言う認識だったが、ロマーリオの言葉によりただ出掛けるではなくデートだと気づけとロマーリオには呆れられたのだ。
恋人になった今では、ディーノだって勿論出掛けるという認識ではなくデートだと思っている。
ツナの家庭教師としての報酬ではあるが、マリアと出掛けるのだ。
科学自体にそれほどディーノは興味はないが、マリアと一緒に居れるなら何処だっていい。
「っと、そろそろ行かねぇーと見る時間なくなっちまうぞ」
慌てて室内の時計を見れば既に時刻は八時半だ。
九時から開館なのだ、一日中いるつもりのマリアからすれば一分たりとも惜しくて仕方がない。
滞在しているホテルから並盛博物館まではおよそ十分程度ではあるが、朝故に道が混んでいる事も想定されるのだ。
今回は計画的に日本に滞在しているとしても、博物館に行くのは今日だけなのだ。
幾ら休みを取っているにしろ、マリアには他にやる事があるため日本に滞在するのも四日だけである。
限られた時間の中で全てみたいと思っているため、見る時間が無くなるのはマリアにとっては苦痛でしかないのだ。
『それは困る…全部見回りたいもの』
「じゃあ、行くぞマリア」
『うんっ!』
差し出された手に手を添えれば、ディーノはにかっと笑いマリアを連れて二人は並盛博物館へと向かった。
2024/12/13
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