不器用な恋
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『初めまして、ボンゴレ九代目』
「初めましてマリアさん…。申し訳ない、病み上がりだと言うのに時間を取らせてしまって…」
そう言ってボンゴレ九代目…ティモッテオは申し訳なさそうに上半身だけベッドから身体を起こしているマリアに声をかけた。
現在マリアが居る部屋にはマリアを含め八名が居る。
キャバッローネ・ファミリーからはディーノをはじめロマーリオにトマゾ、アベーレの四名。
暗殺部隊ヴァリアーからはスクアーロとルッスーリアの二名。
それぞれアレッシオと一戦交えたメンバーだ。
そしてボンゴレからはティモッテオが今回の件に関してマリアとの面会を望んだのだ。
部屋の外には勿論、ボンゴレ側の人間が扉の前で待機している。
『それに関しては気にしないでください。こちらもスクアーロ達ヴァリアーの手を無理やり借りたりしたので…。それと…あたしの方もお願いしたい事が有ったので早めに来ていただいてありがとうございます』
病み上がりと言えどマリアの怪我は左足のみ。
体力が落ちていたりするとは言えど問題はないため、マリアが目を覚まして早々に面会…もとい事情聴取をする事になった。
「さて、本題に移る前に…マリアさん。君がルーナ・ブルで間違いないかい?」
ディーノをはじめスクアーロもルッスーリアも、この場に居る全員が「え?」とティモッテオの言葉に目を丸くする。
「マリアがルーナ・ブル…?」
「おいおいボンゴレ九代目…何を言って…」
「そ、そうですよ…ルーナ・ブルは男で…そもそもルーナ・ブルの情報にお嬢は何一つ当てはまらないじゃないですか」
ティモッテオの言葉に、ディーノとロマーリオ、アベーレが言葉を紡ぐ。
トマゾだけはただ黙ってその発言を聞いているがそれでも眉間に皺を寄せながらも平静を装う。
スクアーロやルッスーリアも驚いた表情をしているが、ティモッテオの手前言葉を発する事も出来ず口を噤んでいる。
それもそのはずだ、マリアの通り名は紅白衣なのだ。
それがまさかルーナ・ブルだと言う言葉を耳にすれば、誰だって聞き間違えたのだと思ってしまう。
ルーナ・ブルはアベーレが言ったように男だ。
いくら女性のような容姿と言えど…だ。
透き通るような肌に白青色の長い髪、月を思い浮かばせるような金色の瞳。
二十年以上も昔からマフィア界隈や科学者の間では有名だった。
それはディーノ達が…否、生きとし生ける者が唯一知っているルーナ・ブルに関しての情報だ。
何一つマリアの容姿にも条件にも何一つ当てはまらない。
だがマリアだけは目を丸くすることもなく、ティモッテオの事をじっと凝視する。
言葉を発する事も、否定する事もなくピクリとも動かずに翡翠の瞳がティモッテオを映し出す。
柔らかい表情ではあれど、ティモッテオの目はカモラ同様マリアがルーナ・ブルだと言う事に確信を持っているようだった。
(この人も…知ってるってわけね)
ふぅっと一つ息を付き、マリアは言葉を紡ぐ。
『そうですね。ボンゴレ九代目も分かってるみたいだから…
「お、おいマリア…ルーナって…」
信じられないものを見るような目で、スクアーロはマリアを指さしながらわなわなと震える。
ティモッテオの手前発言を控えようと思っていたが、流石にマリアの言葉にスクアーロは我慢ならず言葉を発する。
嘘だと言いたいがティモッテオが言った言葉を否定する事も、マリアが頷き認めたのだからマリアがルーナ・ブルである事は明確である。
それでもスクアーロは納得が出来なかったのだ、マリアがルーナ・ブルだと言う事に。
『ごめんね、スクアーロ』
「ゔお゙ぉい!!マリア、お前俺達に嘘ついて…!」
だがやはり我慢できずティモッテオが居るにも関わらず、スクアーロは思わず声をあげた。
最初にスクアーロがマリアにルーナ・ブルについて聞いた時、マリアは皆が知っているありふれた情報しか述べなかった。
その時は話を逸らしてしまったが、その後ルッスーリアに聞かれた時も『ルッスーリア達が知っている事意外知らないから…』とマリアは言ったのだ。
嘘を付いた事は事実ではあるが、それよりもマリアはフィネスでありルーナ・ブル…否先生との約束を守っただけである。
一つ、ルーナ・ブルについて聞かれたら昔から言われている情報を言えと言う事。
二つ、ルーナ・ブルに関してそれ以上の事は知らないと言う事。
『知ってるかどうか聞かれたから知ってるとは答えたじゃない?何処に居るか、会ったことがあるかに関しては聞かれてない以上答える必要はなかった…でしょ?』
「ぐっ…そうかもしれねぇーが…」
『それにスクアーロ達が探してたのは…先代ルーナ・ブルであって今代の…
「どういう事だ?」
マリアの言葉にスクアーロは訳が分からず聞き返す。
先代だの今代だの一体何がどういうことなのだろうと。
ルーナ・ブルはマリアの養親であるフィネスだろうとマリアの青い携帯に映っていた写真を見てスクアーロは…否、あの場に居た者は確かに思ったはずだ。
それが一体全体どういう事なのだと言わずにはいられなかった。
『…スクアーロ達が言っていた情報で当てはまるのは先代ルーナ・ブル。あたしには当てはまらないからこそ、
「寧ろ代替わりしてるなんて誰も思わなかっただろうね」
そもそもルーナ・ブルが死んでいたなんて誰も思いもしなかったのだ。
二十年以上前から有名であれど、それでも死ぬにしてはまだ早く…ルーナ・ブルと取引があるマフィアは少なからずいる。
それでも取引のあるマフィアにすら周知されていないのだ。
周知される事なく、同じルーナ・ブルに依頼をしているにしか過ぎない。
代替わりしたからと言ってルーナ・ブルの作る物に関しての品質が落ちたわけでもなく、変わらない品質が故に誰が代替わりした事にすら気づかない。
「けど、何で代替わりした事を隠す必要があったんだ?」
話を聞いていていたディーノは思わず首を傾げる。
代替わりした事自体は問題ないだろう、品質も代替わりしたからと言って落ちてはいない。
なら何故代替わりした事を隠す必要があったのかとディーノは疑問に思う。
『ねぇディーノ…あんた達マフィアから見てあたしはどう見える?』
「どうって?」
『あんた達マフィアからすれば…あたしがルーナ・ブルって分かってもただの一般人で、ましてや女。たかが小娘一人、それこそ力ずくで従えようとする事だって出来るでしょ?』
「っつ…それは…」
マリアの言葉を否定する事も出来ず、その場に居た全員が納得した。
科学者ではあるがマリアは一般人であり、女だ。
いくら一人で身を守れると言えど、それは一般人にしてはの話に過ぎない。
本職のマフィア相手ならそれは通用する事すら難しく、すぐに捕まり悪いように悪用される未来しか見えないのだ。
無論マフィアだけではない、科学者から、金になると判断する汚い人間に目を付けられるだろう。
何処かのマフィアに所属しているわけでもなく、ルーナ・ブルを守る者は誰一人として居ない。
それはつまりマリア自身を守るものなど何処にも居ないと同義である。
捕まったら最後、ルーナ・ブルとして「神の領域」に抵触する才能を悪い意味で使われるのは目に見えている。
『だからこそ、だよ。幸いにも先生と昔から取引をしてるマフィアの組織は先生の容姿を知ってるわけだから…その情報だけが広まっていったお陰であたしはルーナだと思われないもの』
「マリアさんの養父…先代ルーナ・ブルの遺体を火葬にしたのもそのためかい?」
ティモッテオの言葉にマリアはゆっくりと頷いた。
『万が一掘り起こされてしまったら…ルーナ・ブルが死んでいる事も、死んでいるはずなのに依頼がこなされているのもバレちゃいますからね…』
目を伏せながらマリアは答えた。
土葬となれば少なくとも十年は遺体が棺の中に眠っている事になる。
都心部の墓地の大半は賃貸方式で運営されており、契約期間が過ぎれば葬儀社が遺骨を拾い上げることになっている。
仮に土葬にした場合十年経ったとしても、昔と比べ遺体が土に還りにくい現代では綺麗に遺体が残っている可能性が出てしまうのだ。
万が一の事を考え、フィネスは何の躊躇もなく火葬を選んだ。
決してルーナ・ブルが亡くなっている事を知られることが無いようにと。
『髪の色も目の色を変えても…遺体で掘り起こされてしまってバレてしまっては意味がない。念には念をって先生は言ってたけど…それでもバレる時はバレちゃうから…』
そう、自分で発した言葉を噛み締めながらマリアは呟いた。
念には念を入れ火葬までしたのにそれでも答えに辿り着く人は辿り着く。
辿り着くはずの者なんて居ないと思っていたが…それでも辿り着く者はどんな手を使っても、可能性を導きだし辿り着いてしまうのだ…シャタンファミリーのボスだったカモラのように。
「…それで、今回は何故ヴァルッセファミリーに狙われたか心当たりはあるかな?」
『はい、シャタンファミリーのボスだったカモラが…あたしをルーナ・ブルだと知っていたからそれで狙われたんだと思います』
「ヴァルメリオファミリーのボスは…マリアさんがルーナ・ブルと知らなかったのかい?」
『知りもしなかったでしょうね。あの人がもしあたしをルーナ・ブルだと知っていたら…カモラに渡すような勿体ない事しないでしょうし』
マリアはそう言いながら溜息を付く。
性格上、利用価値があると思えばマリアを手元に置く事だって厭わないが、アレッシオは言われるがままマリアをカモラの元に連れて行った。
ヴァルッセファミリーのボスの座が欲しい、ただそれだけの為にだ。
その証拠にアレッシオはマリアがルーナ・ブルだと言う事を知らなかった。
仮にマリアがルーナ・ブルだと知っていればマリアをカモラに渡すことなどせず、自分の私利私欲のために使うに決まっている。
マリアから見たアレッシオは、十七年振りに会ったにも関わらず何一つ変わっていなかったのだ。
だからこそマリアをただただボスの座と引き換えにカモラに渡したのもマリアがルーナ・ブルと知らなかったからだと確信が持てる。
「カモラは、何故マリアさんを…ルーナ・ブルを望んだのか分かるかい?」
『“人を生き返らせてみたかったから”ですって』
「人を生き返らせてみたった…?」
マリアの言葉に一同は唖然とマリアを見る。
あまりにも夢物語の様な言葉だと思うものの、誰だって一度は願った事が有るだろう。
自分の両親、死んでしまった大切な人など…言葉だけで言えば誰もが思い願った事のある事があるはずだ。
実際問題それが可能かどうかは別としてだが…。
「言わんとしてる事は流石に分かるが…そんな事可能なのか?」
今の医学では流石に難しい事位言葉にしたディーノだって分かり切っている。
だがカモラがそんな事を言ったのだからもしかしたらがあるのかもしれないと、思わずにはいられなかった。
「マリアさんは…人を生き返らせることは可能だと思うかい?」
『…完全に生き返らせることは出来ないけど…それでもある程度は可能、ですね』
「それは、どういう事だい?」
『あたしが…ルーナが出来るのは肉体的に生き返らせる事位が関の山です。肉体が生き返ったところで中身が、言わば魂が無ければそれは完全に生き返るとは言わないから…』
「それでも肉体は生き返ってるんだろ?」
『肉体だけね。生き返ったところで話が出来るわけでも意思があるわけでもないから…はたしてそれは本当に生き返っていると呼ぶには不十分だもの』
そう、蘇ったところでそれはただの生ける死体に過ぎない。
生きた人間と意思疎通が出来るわけでもなく、自発的な意思もなければ理性もない。
そもそも肉体は魂を入れておく器でしかないのだ、器が蘇ったところで中身の魂がなければそれは生き返らせたと言うのは難しいだろう。
いくら「神の領域」に抵触する事が出来ても、それ以上は難しいのだ。
科学で出来る事…否、ルーナ・ブルの才能をフルで出した所でそこが限界点でしかない。
『だから言ったでしょ?“完全”に生き返らせることは出来ないけどって』
改めてルーナ・ブルが「神の領域」にすら抵触する事が出来る存在であることに…この場に居たメンバーは息を飲んだ。
2024/11/22
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