不器用な恋
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「俺はもう寝るからお嬢もちゃんと寝ろよ?」
『うん、おやすみロマーリオ』
コップ一杯分の水を持って来てもらえば、ロマーリオはそう言って部屋を出て行った。
パタンと小さく扉が閉まる音が聞こえれば、マリアはロマーリオに渡された水を一口飲む。
冷たい水がマリアの喉に潤いを与え、ほっとマリアは一息ついた。
時計を見れば深夜一時。
流石に四日も眠っていたのだから再度眠る事は難しいだろうなとマリアは思う。
身体が怠いと言えど、眠気はそこまで襲ってこないのだ。
諦めて数時間は起きていようとマリアは思い、コトリとコップをサイドテーブルに置けばマリアはもう一度眠っているディーノへと視線を向ける。
ロマーリオが水を持って来た際に、何故ディーノがこんな所で眠っているのかを問えば付きっきりでマリアの事を看病していたと聞いたのだ。
仮眠位は取っていたようだが、それでも目の下にうっすらと隈があるのだ。
本当かどうか分からないディーノの言葉に、ロマーリオはマリアの所持していた睡眠薬を勝手に使った事を謝っていた。
だがその状況ならマリアだって有無を言わさずに睡眠薬をディーノに盛っていただろう。
ロマーリオがディーノに薬を盛った事に関して、マリアは怒る事はない。
寧ろよくやったとすら思ってしまう。
いくらマリアの飲ませた薬がディーノの傷を塞ぎ、身体に異常が無いと診断されようがそれでも疲労しているには違いないのだ。
身体に異常がないだけで、本当はきちんと療養しなければそのうち倒れてしまうのだから。
(やっぱり起こしてちゃんと寝させないと駄目ね…)
飲ませた薬についての説明は追々するとして、ちゃんとベッドで寝させようとマリアは再びディーノに手を伸ばす。
伸ばした手がディーノに触れようとした、その瞬間。
「ん…あれ…俺…寝ちまってた…のか…」
と、ディーノの身体が身じろぎをし、乾いた声でそう呟く。
その声が聞こえれば、マリアは伸ばしかけてた手を止め『ディーノ?』と、ディーノの名を呼んだ。
まだ頭が回ってないのだろう。
「…誰だ…?」と目を擦りながらゆっくりと顔をあげ、誰がディーノの名を呼んだのか回っていない頭では判断が出来ないようだった。
目を擦るものの視界は未だ見えずらいのか、寝ぼけまなこにディーノは鳶色の瞳にマリアを映す。
「……マリア…?」
『起きたの?ディーノ?』
ぼんやりと視界に映るマリアの姿に、次第にディーノの目は大きく見開かれていく。
マリアは再び『ディーノ』と、名をを紡ごうとしたが、マリアの腰にディーノはぎゅっと抱き着いてきたせいでマリアは名前を紡ぐことが出来なかった。
力加減など忘れているのかぎゅっと抱き着かれれば、痛いものは痛いのだ。
抱き着いた反動でディーノにかけられていたブランケットはパサリと床に落ちる。
『…痛いよ…ディーノ…』
「…心配した」
腰に抱き着かれているせいでマリアからディーノの表情は見えない。
だがか細く、普段のディーノよりも弱々しい声にマリアは『…それはこっちの台詞よ?大体あたしよりディーノの方が重症だったんだから…』と言ってマリアは苦笑する。
マリアはただ左足をアレッシオに撃たれたに過ぎない。
止血するのに時間がかかってしまったが、それでもロマーリオが止血をしてくれたおかげで重症には至っていないのだ。
血を流し過ぎた分、無茶をしてしまった事位はマリア自身自覚はある。
それでも命に別条がない事位分かっていた。
そんなマリアに比べ、ディーノはマリアを庇い胸を撃たれたのだ。
ディーノの方が重症…否、重篤だったのだから心配したと言うのはどちらかと言えばマリアの台詞だろう。
「マリア四日も寝たまんまだったから…」
『…さっきそれロマーリオに聞いてあたし自身吃驚したわよ』
クスクスと笑いながら、マリアは抱き着いているディーノの頭を撫でる。
嫌がる事なくディーノはマリアに甘えるようにぐりぐりと頭をマリアに押し付けては、ぱっと顔をあげてはマリアの腰から手を離す。
急に離されればディーノの頭を撫でていた手は止まり、行き場を失ってしまったせいかシーツの上に手を降ろした。
一体どうしたのだろう?と思いディーノの顔を見れば、意を決したような表情でマリアを見つめては口を開く。
「…なぁ、マリア」
『なぁに、ディーノ?』
「マリア…好きだ」
ディーノの言葉に、マリアは思わず目を見開いた。
マリアは先程起きたばかりなのだ。
まさかこのタイミングでディーノが再びマリアを好きだと言うとは思わず、マリアは目を瞬かせる。
『…起きたばっかのあたしにそんな事言うのズルくない?』
「ズルいってお前な…俺は、最後に言い逃げ見たいになっちまったから…ちゃんとマリアに伝えようってなっただけだ」
『…そうね、あたしに言い逃げすんなって言ったくせに言った本人が言い逃げしちゃったもんね?』
「うっ…」
マリアの言葉にディーノは口を噤んだ。
痛い所を突かれてしまったのだ、ディーノだってマリアにそう言った事位ちゃんと覚えている。
だからこそ改めて、言い逃げと言わせまいと再び言葉を紡いだのだ。
口を噤んだまま、次の言葉が言えないディーノに対し、マリアはゆっくりと言葉を紡ぐ。
『…あたしも、ディーノの事が好きだよ』
マリアの言葉に、今度はディーノが目を見開いた。
『幼馴染だからじゃなくて…ちゃんと異性として、ディーノの事がずっと、ずっと好きなんだよ』
本当はマリアからディーノに伝えるはずだった言葉をマリアは紡ぐ。
どう伝えるか、どう伝えたらマリアのディーノに対する想いは伝わるだろうかと考えていたのだ。
そのままの言葉で伝えた所で“幼馴染”としての好きと思われかねないのだ。
それならばちゃんと異性として好きだと伝えた方がディーノには伝わりやすいだろうとマリアは思った。
そんなマリアの言葉にディーノは一瞬固まり、自分の頬をぎゅっと抓る。
「……いてぇ…」
当たり前だ、ディーノは自身の頬を思いっきり抓ったのだ。
思い切り抓ったのだからディーノの頬には当然鈍い痛みが走る。
『…ディーノ何やってんの?』
「否…その、夢かと思っっちまって…」
ディーノの行動に、マリアは思わず苦笑を浮かべる。
マリアだって最初ディーノに言われた時はきっとディーノと同じように夢ではないかと確かめただろう。
だが言われたのが命の危機にさらされた状況だったためそんな呑気な事を思う暇はなかったが…。
『…夢、なんかじゃないわよ…馬鹿…』
マリアはそう言いながら未だ現実についてこれていないディーノの唇に、チュッと音を立てて口付ける。
触れて離れるだけの優しいキス。
自分からキスをしたにも関わらず、マリアの頬はほんのり赤く染まっている。
想いを伝えすぐキスをするなんてマリア自身思わなかった。
だがこうでもしなければディーノはこの現実を夢のままで終わらせてしまいそうな気がしてならなかったのだ。
ゆっくりと唇を離しディーノの方を見れば、ディーノの頬は次第に赤く色づく。
ディーノがマリアに何をされたのか、理解できたのだろう。
頬を赤く染めたまま、今度はディーノからマリアの唇に自身の唇を重ねた。
マリアがしたものと同じ触れて、離れるだけの優しいキスを。
「好きだ、マリア」
『…あたしも、好きだよディーノ』
お互いがお互い、ようやく本心を伝えれたのだ。
何年、何十年と、言いたくて、それでも言葉に出来なかったたった二文字の言葉を。
言葉にすればただ気持ちが溢れ、その言葉以外忘れてしまったかのように…二人は言い合う。
ほのかに光るテーブルランプだけが、二人を照らし、二人の影が再び重なるのを照らした―――…
2024/11/17
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