不器用な恋
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『あれ…此処は…』
ゆっくりと重たい瞼を開け、マリアは目を覚ました。
上半身をゆっくり起こせば、マリアの身体は重く、怠さを感じる。
辺りは暗く、眠っていたマリアのベッドのサイドテーブルに置かれているテーブルランプに光が灯されていた。
今が何時なのか分からないが、辺りの暗さからして恐らく夜も遅い時間帯と言う事だけが唯一マリアには分かる。
(この感覚は…寝すぎて怠いやつだ…)
身に覚えのある怠さにマリアは溜息を付く。
きっと長い事眠っていたのだろうと、マリアは安易に想像が付くのだ。
依頼に追われ何日徹夜したか覚えていない状況で寝落ちした時の身体の気だるさに似ているのだから。
そんな事を思いながらマリアは当たりを見渡す。
テーブルランプの明かりしかないが、此処は恐らくキャバッローネ・ファミリーの屋敷だと言う事にマリアは気が付いた。
サイドテーブルに置かれているテーブルランプには見覚えがある。
テーブルランプの方へと身体を動かそうとすると、ズキリとマリアの左足が鈍く痛む。
段々と身体の感覚が戻って来たのか、先ほどまで感じなかった鈍い痛みが徐々に現れる。
(…流石に、左足の痛みはあるなぁ)
そう思いながら、足の方へと視線を移そうとすれば見慣れた金髪がマリアの視界の端に映り込む。
まさか…と思いそちらに視線を向ければ、ベッドにディーノが突っ伏して眠っていた。
ディーノの身体にはブランケットがかけられており、眠ってしまったディーノを気遣ってかけたものだろう。
こんな所でディーノが眠っていると言う事は、恐らくマリアが飲ませた薬が効いたのだろう。
ブランケットがかけられていると言えどディーノは規則正しい呼吸をしている。
身体に異常がなければ、過保護な部下達がこんな所に居るディーノを放っておかないはずな事位マリアは知っているのだから。
(怪我に関しては大丈夫そうだけど…どうしようかしら…)
ディーノは眠っているのだ。
このまま寝させておこうかと思ったが、流石にこんな突っ伏して状態で寝ていれば身体が痛くなるだろうと思いマリアはディーノの名を呼ぶ。
『…ディーノ?』
ディーノの名を呼んだところで、ディーノからの返事は返ってこなかった。
どうやら深く眠っているせいかマリアが声をかけても微動だにせずただ「スー…スー…」と規則正しい寝息を立てている。
ほのかに照らすテーブルランプの光のおかげか、眠っているディーノの表情がマリアから良く見える。
突っ伏していると言っても顔はマリアの方を向いているので、マリアはじっとディーノの寝顔を見た。
子供っぽい、少し幼さが残る寝顔をじっと見つめていると、目の下にうっすらと隈が出来ていた。
(ディーノまた隈出来てるし)
ディーノの事だ、きっと寝ずにマリアの傍に居たのだろうとマリアは心の中で溜息を一つつく。
此処最近は見る事が無かったディーノの隈。
十三年前、再びディーノと再会した時の事をマリアはつい思い出す。
あの時も今のディーノと同じように目の下には隈が出来ていた。
否、今よりも十三年前のディーノの隈の方がくっきりとしていたのだからそれに比べれば幾分もマシなのだが…それでもきちんと眠れていない事をマリアは察する。
マリアと再会するまで、ディーノは不眠症になっていたのだ。
医者にも診てもらっていた様だが、精神的な物と言われてしまえばどうしようもなかったらしい。
薬を処方され飲んでも、きちんと眠ることが出来なくて中途覚醒を何度も繰り返していたとロマーリオから聞いた事が有る。
(あの時は確か睡眠薬盛ってディーノを無理やり眠らせたりしてたなぁ…)
自分で作った薬の実験と称し、こっそりディーノに睡眠薬を盛っていた事を思い出す。
勿論ロマーリオとトマゾも共犯者だ。
不眠症のディーノを見兼ねて、マリアが薬を作り寝れないようなら寝る前に飲み物に混ぜて飲ませて欲しいとロマーリオとトマゾにお願いしていたのだから―――…
勿論ディーノはその事を知らない。
気が付いたら眠れるようになっていたとディーノ自身が言うようになってからは、あまり睡眠薬を盛る事自体減ったがそれでも何かあった時の為にと睡眠薬をマリアは常に持っていたのだ。
眠っているディーノの髪に触れては撫でを繰り返す。
何事もなかったようなあどけない表情でただただ眠るディーノ。
『…もう無茶しないでよね…?』
そんなディーノを見ながらポツリと呟き、マリアは再度ディーノの頭を撫でた。
マリアが意識を失う前の事を思い出せば、そう言葉にしてしまう。
あの時ディーノに庇われなければ、マリアの方が重症で…場合によっては帰らぬ人になっていたかもしれない。
だがディーノが庇ってくれたことには心の底から感謝はしているが…それでディーノが帰らぬ人になるのは本末転倒だとマリアは思う。
その上大事な事を言うだけ言って、マリアの返事も聞かずにマリアの前から居なくなろうとしたのだ。
『あーあ…ディーノに先越されちゃったな…』
本当はマリアから言おうと思っていたのにと、苦笑しながらディーノの頭を撫でた。
あの場面では仕方なかったにしろ、マリアはイタリアに帰った際には自分から想いを告げる予定だったのだ。
今思い返せば、ディーノがそんな風にマリアを思っていてくれていたなんてマリアは思いもしなかった。
ただの幼馴染、妹みたいな存在。
きっとそう言われるかもしれないと怖気づいていた自分が、まるで馬鹿みたいではないかとつい苦笑してしまう。
―――ガチャッ
不意に、部屋の扉が開く音がし視線をそちらに向ければ、ロマーリオが立っていた。
マリアが起きているとは思わなかったのだろう、目を見開き「お嬢」と思わず大きな声でマリアを呼ぼうと口を開こうとしている。
『……しーっ……』
流石にディーノが起きてしまうと思い、マリアは利き手の人差し指を口元に当て静かにと言わんばかりにジェスチャーをした。
ディーノが眠っている事は知っていたのだろう、咄嗟に自分の口を手で覆い声を出さないようにロマーリオは紡ごうと下言葉を飲み込んだ。
足音を立てずにマリアの方までロマーリオは近寄れば、声を潜めながらようやく言葉を紡いだ。
「……お嬢、起きて大丈夫なのか…?」
『…うん、身体は怠いけどそれ以外は特に問題ないかな?まだ左足に痛みがある位だけど…』
そう言いながらマリアはロマーリオに笑えば、マリアは「そうか」と安心した表情でマリアを見る。
顔色も輸血をしたので血色は良くなっており、左足以外は至って大丈夫なのだろうとロマーリオは胸をなでおろす。
『あたしどれくらい眠ってた…?』
「日付変わっちまってるから…四日位だな」
『…道理で身体が怠いわけね』
それだけ眠って居たら確かに身体が怠いわけだとマリアは納得する。
左足の怪我だけでそこまで眠っていると思わなかった。
だがいろいろあり過ぎたのだ…身体の疲れだけではなく精神的な疲れが原因で四日も眠っていたのだと思えば全て納得してしまうのだ。
気怠そうにしているマリアを見兼ねてロマーリオは「お嬢、何か飲むか?」と言葉をかける。
「流石に何時ものカフェラテは出せそうにねぇーが…」
『分かってるわよ…後でお水貰っていい?』
「あぁ、そりゃあ構わねぇーが…後でってどういう事だ?」
マリアの言葉にロマーリオは思わず首を傾げる。
四日も眠っていたのだ、喉だって渇いているはずなのにと心配になるがそれよりも何かあるのだろう。
マリアの翡翠色の瞳がじっとロマーリオの目を見つめる。
『ロマーリオに…聞きたい事があるんだけど…』
「何だ?」
『ヴァルッセファミリーの屋敷って…今どうなってるの?』
「…ボンゴレが一応調査して立ち入り禁止区域にはなってるが屋敷自体はまだ残ってるな」
マリアの問いにロマーリオは答える。
マフィアではないマリアに答えていいか一瞬躊躇ったが、マリアは今回の件に関しては当事者なのだ。
言うに言わざる状況に、ロマーリオは言葉を濁す事なく答えた。
『…屋敷に、あたしが入る事って難しい…わよね、やっぱり』
「そりゃあ…難しいだろうな。幾らキャバッローネ・ファミリーがボンゴレファミリーと同盟組んでるっつっても…今回ばかりは難しいと思うぜ」
『…そう…』
ロマーリオの言葉に、マリアは目を伏せる。
マリアだって分かっていて合えてロマーリオに聞いたのだ。
いくら当事者と言えどマリアは一般人でしかない。
キャバッローネ・ファミリーのボスであるディーノが幼馴染と言えど、名ばかりの父親だったアレッシオに関係している人物と言えど難しい事位マリアだって分かっている。
眉間に皺をよせ難しい表情をするマリアに、「…まぁ、聞いてみたらいいんじゃねぇーか?」とロマーリオは頭をかきながら言葉を紡いだ。
『…誰に?』
「一応今回の件でお嬢に聞きたい事が有るみたいだからな…ボンゴレの方か、ヴァリアーの方かはわかんねぇーがお嬢が目が覚めてから話を聞く事にはなってる」
『事情聴取って事かしら?』
「だろうな…一応報告書はあげてるが…それでも不可解な部分があるからな」
ロマーリオの言葉はごもっともだとマリアは思う。
傍から見ればマリアはただの一般人で、しがない科学者にしか過ぎないのだ。
幾らアレッシオと関係があるにしても、今回何故ヴァルッセファミリーに連れて行かれたのかと言う理由すら生き残っている者の中で知るのはマリアただ一人のみ。
キャバッローネ・ファミリー側からしても、ヴァリアー側からしても何故マリアが連れて行かれたのか見当もつかないのだろう。
『分かったわ…その時に聞いてみる、ね』
『ありがとう、ロマーリオ』と、マリアは少し寂しそうに力なくロマーリオに笑いかけた。
2024/11/16
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