不器用な恋
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※本編前の話(番外編)
「なぁロマーリオ、今日ってこの後特に予定なかったよな?」
書類仕事を終え背伸びをしながら、ディーノは書類を確認するロマーリオに声をかけた。
十一月に入り急に冷え込むようになったせいか、書斎の中ですら寒く感じる。
慌てて出した長袖は既に冬仕様になっており、着ているだけで温かい。
「ん、あぁ。特にこれと言って予定はないが…どうしたんだボス」
「マリアの所に行こうと思って」
「お嬢の所にか?何でまた?」
ちらりとロマーリオが書斎の時計へと視線を向ければ、時刻はまだ朝も早い八時半。
こんなにも朝の早い時間帯に一体何をしに行くのだろうとロマーリオは不思議に思い首を捻る。
ディーノがマリア所に訪れる事自体は珍しくない。
幼馴染でもあり気が知れた仲で…ディーノがマリアを好いている事もロマーリオは知っている。
行く前に連絡を入れる事もあるが、アポなしで行く事だって少なくはない。
ふらっと仕事終わりにマリアの様子を見に行ったり、時には手土産を持ってマリアに会いに行ったりする事も度々あるのだ。
だがそれはお昼以降の話で、こんなにも早い時間帯にマリアの所に行こうとする事は滅多にない。
滅多にないと言うだけで合って年に数回は訪れる事はあるのだが…決まってマリアが体調を崩している時だ。
「…もしかしてお嬢体調悪いのか?」
「否、連絡は貰ってねぇーけど…そろそろ体調崩してそうだなぁーと思っちまってな」
ロマーリオの言葉に、ディーノは苦笑しながら答える。
毎年決まった時期に体調を崩すマリアは、その時期が近づいてきたら何時もよりも体調管理に気を遣うが、それでも崩してしまう時は崩してしまう。
こう言った季節の変わり目や、気温差が激しく身体に負担がかかる時は特にだ。
数日前まではまだ陽射しが温かく秋らしかったはずが、ここ数日で急激に冷え込んでしまう季節へと突入した。
「まぁ、体調崩してなくても様子見位にはなるだろ?元気そうなら朝飯でも誘えば良いし」
「そりゃそうだ…けど、ボスのお嬢関連の勘だけは大体当たってるからなぁ…」
「たまたま、な。今回はハズレてるかもしれねぇーし、気楽に行こうぜ?」
そう言いながらお気に入りのモッズコートを羽織っては、ロマーリオと共に書斎を後にした―――…
『……何でディーノ毎回分かんのよ…』
「…ほんと自分の勘の良さに俺自身も吃驚してるぜ」
案の定、ディーノがマリアの元に訪れればマリアは風邪をひいていた。
ピンク色のシンプルなパジャマの上に黒色のカーディガンを羽織っており、しんどそうに扉を開けてはディーノの前に出て来た。
普段よりも頬が赤く、潤んだ瞳でディーノを見上げては苦しそうに咳をしている。
立っているのも辛いのか、マリアの身体は左右にフラフラ揺れておりゼェゼェと言いながら浅い呼吸を繰り返す。
先程まで横になっていたのか普段のハーフツインテールに髪は纏められていない上に、髪には寝ぐせが付いてたが今はそんな所を気にしている場合ではない。
フラフラするマリアの身体を「おっと…」と思わず声を出して支える。
『……ごめん』
「無理すんなよな…」
ディーノは一旦マリアの家の中に入り、リビングにあるソファーに座らせる。
(こういう時位ちゃんと連絡してこいよな…)
こんな状態のマリアが一人で病院に行くと考えるだけでディーノは気が気でない。
いくらタクシーを呼んで病院に行く事が出来たとしても傍から見れば心配になるのだ。
こういう時位ちゃんと周りを頼って欲しいと思えど、マリアの性格上難しい事だってディーノは理解している。
ちらりとマリアの方を見ればやはりしんどいのか何時もよりも大人しい。
マリアの身体を支える際にマリアに触れた際、服越しでも分かるほど体温が高かったのだから今回は相当しんどいようだ。
ディーノは常備されている救急箱から体温計を取り出し、マリアに差し出す。
この様子じゃあまともに自分の体温すら計れていないのだろう。
「熱、まだ測ってないんだろ?」
『…うん…』
差し出された体温計を受け取れば、マリアはパジャマのボタンを二カ所外し体温計を脇に挟む。
ソファーに寄り掛かれば立っている時よりかはだいぶマシではあるものの、それでも左右にふらついていることに変わりない。
「いつもの先生空いてるのか?」
『…うん、さっき電話したら…すぐ見てあげるって…』
「財布とかは…いつもんとこか?」
『……うん…』
手際良くディーノはマリアが病院に行く準備を一人でこなす。
養親であるフィネスが亡くなってから…こうやってディーノがマリアを病院に連れて行く事はよくあるのだ。
そのせいかディーノは手際よく、病院に連れて行く際に必要な物が何処にあるのかを大体覚えてしまっている。
不思議と、こういう時に限って部下が傍に居ないのにも関わらずディーノはへまをしない。
(何で毎回ロマーリオ達いないのに…へなちょこにならないんだろ…)
そんな事を思いながらマリアはソファーに座り熱のせいかぼんやりと回らない頭でディーノを眺める。
不意にピピピッ…と、脇に挟んでいた体温計を取り出せばマリアは気だるそうに体温計を取り出す。
体温計のディスプレイにはくっきりと“三十八度”と表示されている。
「熱は?」
『…三十七度五分…これ位大丈夫…』
「サバ読むな…本当は?」
『……三十八度…』
「高いな」
嘘の体温を言ったところでディーノはお見通しなのか直ぐに気づいた。
どちらにしろ病院に連れて行かれてしまえばマリアのついた嘘なんてすぐにばれてしまうのだが…どうやらディーノの方が一枚上手だったようだ。
(何で嘘ってバレたんだろ…)
元々の平熱が低いマリアからしたら、三十八度もあれば普通のイタリア人より遥かにしんどい。
マリアから体温計を受け取り数字が間違っていない事を確認すれば救急箱の中にしまう。
一通り病院に連れて行く準備は出来たのだ、ディーノはソファーにもたれかかっているマリアへと視線を向ける。
「立てそうか…?」
『大丈夫…』
ゆっくりと立ち上がり歩こうとしているが、先ほどよりも足取りがおぼつかない。
先程自分の体温を数字として見たのだ、それも相まっているのだろう。
「悪いマリア」
『…え?』
マリアに一言言葉を言えば急に横抱きにマリアの身体を持ち上げる。
ふらついていたはずのふらつきはなくなり、浮遊感に変われば『ちょ…っと、ディーノ…』とマリアは慌ててディーノを見上げた。
「どうした…?」
『歩けるから…降ろして…』
か細いマリアの声がディーノの耳に聞こえるが、それでも「否、ふらついてるしこっちの方が早いだろ?」とディーノは横抱きにマリアを抱えたまま歩く。
『……降ろして』
「駄目だ、どうせふらついてまともに歩けねぇーんだから大人しく介抱されとけ」
『風邪移るから…』
「マリアみたいにやわじゃねぇーからそんなんで風邪なんてひくか」
降ろして欲しいのか必死にあーだこーだと思いつく限りの理由をマリアは述べるが、ディーノはそれを軽くあしらう。
普段であればディーノに支えられてロマーリオ達が待つ車に行くはずなのに、今日に限ってはディーノはマリアを降ろす気はないらしい。
それほどまでにマリアが歩けていないのだが、熱でうまく頭が回らないせいか降ろしてもらえない理由にすらマリアは気づかない。
これ以上言っても無駄だと言う事だけはどんなにうまく頭が回らなくても理解したためか、マリアはディーノに横抱きされたまま諦める。
『…ディーノの馬鹿…』
「馬鹿ってお前な…」
『……ありがと』
こんな時でも素直に“ありがとう”だけの言葉が言えず悪態を付いてしまうマリア。
本当は心細く、一人で大丈夫だろうかと不安で仕方がなかったのだ。
体調を崩すとどうしても気が滅入ってしまう上に回らない頭で何をしなければいけないのかを考えるのは流石に負担になってしまう。
誰か助けてと言える事も言う事も出来ないマリアは、一人で抱えるしかないと思っていた。
だが体調を崩す度にどうしてか分からないがディーノがタイミングよく訪ねてくる。
(ディーノって…ヒーローみたいだなぁ…)
毎回ディーノに救われている事を思えば、まるでディーノはヒーローの様だと思ってしまう。
普段はへなちょこなのにと言ってしまうが、今日に限って普段よりもかっこよくマリアの目にディーノが映る。
そんな風にマリアが思っているとは知らないディーノは「鍵閉めれそうか?」とマリアに訊ね、マリアが鍵をかけたのを見ればロマーリオとトマゾが待つ車の方へと歩いて行った。
「…ほんと何であれで付き合ってないのかこの世の不思議でしかないよな…」
「そうですねぇ…あの域でしたら普通に付き合ってますからね」
そんな二人を、マリアの家から少し離れた所に車を停めているロマーリオとトマゾはポツリと呟いた。
何も知らない人間が今の二人の姿を見れば、彼氏が彼女の事を心配して病院に連れて行っている場面と答えるに違いない。
街の住人も「てっきり付き合ってるものかと思ってたけどまだなの?」と不思議がる人も多々居る程だ。
幼馴染だからで通る域はとっくに超えている物だと傍から見れば思うのだが、当の本人達からしたらよくある話で片づけてしまうだろう。
「…所でトマゾ…お前さっきから何やってんだ?」
「見て分からないんですか?ロマーリオ。ボスとお嬢の成長過程を記録しているんですよ」
そう言いながら何処に隠していたのか一眼レフカメラを二人に向けては写真を撮る…否、盗撮をする。
成長過程って何だ?もう二十歳超えてるぞその二人と思うと同時に、お前仕事中だろ?とロマーリオは思わずツッコもうとしたが、ツッコんだところで無意味なのだ。
普段のトマゾは真面目だが、マリアとディーノが絡めば話は変わる。
絶好のシャッターチャンスを逃すまいと、トマゾは嬉々として写真を撮る手を止めない。
「…ボスとお嬢にバレたらトマゾお前怒られるぞ…?」
「大丈夫ですよロマーリオ…その時はこの写真を二人にそれぞれ渡して言いくるめるだけですから」
ディーノがマリアに好意を抱いている事も、マリアがディーノに好意を抱いている事も分かり切っている事なのだ。
写真がバレて怒られたとしてもトマゾは痛くも痒くもない。
バレたらバレた時に「この写真あげますからお嬢(ボス)には黙っててくださいね?」とそれぞれ2人に渡してしまえば問題ないのだ。
何度かバレた時にこの手法で乗り切っているため写真を渡した所でお互い嬉しそうに写真を見ているのをトマゾは何度も見ている。
勿論自分用にもトマゾは黙って現像しているのはマリアもディーノも知らない。
お互いが持っている写真一枚ずつだけだと思っているのだ。
大好きなマリアとディーノの喜ぶ反応を見つつ自分の私腹を肥やす…末恐ろしい男だと思いながら、ロマーリオはひっそりと溜息を付いた。
2024/11/12
「なぁロマーリオ、今日ってこの後特に予定なかったよな?」
書類仕事を終え背伸びをしながら、ディーノは書類を確認するロマーリオに声をかけた。
十一月に入り急に冷え込むようになったせいか、書斎の中ですら寒く感じる。
慌てて出した長袖は既に冬仕様になっており、着ているだけで温かい。
「ん、あぁ。特にこれと言って予定はないが…どうしたんだボス」
「マリアの所に行こうと思って」
「お嬢の所にか?何でまた?」
ちらりとロマーリオが書斎の時計へと視線を向ければ、時刻はまだ朝も早い八時半。
こんなにも朝の早い時間帯に一体何をしに行くのだろうとロマーリオは不思議に思い首を捻る。
ディーノがマリア所に訪れる事自体は珍しくない。
幼馴染でもあり気が知れた仲で…ディーノがマリアを好いている事もロマーリオは知っている。
行く前に連絡を入れる事もあるが、アポなしで行く事だって少なくはない。
ふらっと仕事終わりにマリアの様子を見に行ったり、時には手土産を持ってマリアに会いに行ったりする事も度々あるのだ。
だがそれはお昼以降の話で、こんなにも早い時間帯にマリアの所に行こうとする事は滅多にない。
滅多にないと言うだけで合って年に数回は訪れる事はあるのだが…決まってマリアが体調を崩している時だ。
「…もしかしてお嬢体調悪いのか?」
「否、連絡は貰ってねぇーけど…そろそろ体調崩してそうだなぁーと思っちまってな」
ロマーリオの言葉に、ディーノは苦笑しながら答える。
毎年決まった時期に体調を崩すマリアは、その時期が近づいてきたら何時もよりも体調管理に気を遣うが、それでも崩してしまう時は崩してしまう。
こう言った季節の変わり目や、気温差が激しく身体に負担がかかる時は特にだ。
数日前まではまだ陽射しが温かく秋らしかったはずが、ここ数日で急激に冷え込んでしまう季節へと突入した。
「まぁ、体調崩してなくても様子見位にはなるだろ?元気そうなら朝飯でも誘えば良いし」
「そりゃそうだ…けど、ボスのお嬢関連の勘だけは大体当たってるからなぁ…」
「たまたま、な。今回はハズレてるかもしれねぇーし、気楽に行こうぜ?」
そう言いながらお気に入りのモッズコートを羽織っては、ロマーリオと共に書斎を後にした―――…
『……何でディーノ毎回分かんのよ…』
「…ほんと自分の勘の良さに俺自身も吃驚してるぜ」
案の定、ディーノがマリアの元に訪れればマリアは風邪をひいていた。
ピンク色のシンプルなパジャマの上に黒色のカーディガンを羽織っており、しんどそうに扉を開けてはディーノの前に出て来た。
普段よりも頬が赤く、潤んだ瞳でディーノを見上げては苦しそうに咳をしている。
立っているのも辛いのか、マリアの身体は左右にフラフラ揺れておりゼェゼェと言いながら浅い呼吸を繰り返す。
先程まで横になっていたのか普段のハーフツインテールに髪は纏められていない上に、髪には寝ぐせが付いてたが今はそんな所を気にしている場合ではない。
フラフラするマリアの身体を「おっと…」と思わず声を出して支える。
『……ごめん』
「無理すんなよな…」
ディーノは一旦マリアの家の中に入り、リビングにあるソファーに座らせる。
(こういう時位ちゃんと連絡してこいよな…)
こんな状態のマリアが一人で病院に行くと考えるだけでディーノは気が気でない。
いくらタクシーを呼んで病院に行く事が出来たとしても傍から見れば心配になるのだ。
こういう時位ちゃんと周りを頼って欲しいと思えど、マリアの性格上難しい事だってディーノは理解している。
ちらりとマリアの方を見ればやはりしんどいのか何時もよりも大人しい。
マリアの身体を支える際にマリアに触れた際、服越しでも分かるほど体温が高かったのだから今回は相当しんどいようだ。
ディーノは常備されている救急箱から体温計を取り出し、マリアに差し出す。
この様子じゃあまともに自分の体温すら計れていないのだろう。
「熱、まだ測ってないんだろ?」
『…うん…』
差し出された体温計を受け取れば、マリアはパジャマのボタンを二カ所外し体温計を脇に挟む。
ソファーに寄り掛かれば立っている時よりかはだいぶマシではあるものの、それでも左右にふらついていることに変わりない。
「いつもの先生空いてるのか?」
『…うん、さっき電話したら…すぐ見てあげるって…』
「財布とかは…いつもんとこか?」
『……うん…』
手際良くディーノはマリアが病院に行く準備を一人でこなす。
養親であるフィネスが亡くなってから…こうやってディーノがマリアを病院に連れて行く事はよくあるのだ。
そのせいかディーノは手際よく、病院に連れて行く際に必要な物が何処にあるのかを大体覚えてしまっている。
不思議と、こういう時に限って部下が傍に居ないのにも関わらずディーノはへまをしない。
(何で毎回ロマーリオ達いないのに…へなちょこにならないんだろ…)
そんな事を思いながらマリアはソファーに座り熱のせいかぼんやりと回らない頭でディーノを眺める。
不意にピピピッ…と、脇に挟んでいた体温計を取り出せばマリアは気だるそうに体温計を取り出す。
体温計のディスプレイにはくっきりと“三十八度”と表示されている。
「熱は?」
『…三十七度五分…これ位大丈夫…』
「サバ読むな…本当は?」
『……三十八度…』
「高いな」
嘘の体温を言ったところでディーノはお見通しなのか直ぐに気づいた。
どちらにしろ病院に連れて行かれてしまえばマリアのついた嘘なんてすぐにばれてしまうのだが…どうやらディーノの方が一枚上手だったようだ。
(何で嘘ってバレたんだろ…)
元々の平熱が低いマリアからしたら、三十八度もあれば普通のイタリア人より遥かにしんどい。
マリアから体温計を受け取り数字が間違っていない事を確認すれば救急箱の中にしまう。
一通り病院に連れて行く準備は出来たのだ、ディーノはソファーにもたれかかっているマリアへと視線を向ける。
「立てそうか…?」
『大丈夫…』
ゆっくりと立ち上がり歩こうとしているが、先ほどよりも足取りがおぼつかない。
先程自分の体温を数字として見たのだ、それも相まっているのだろう。
「悪いマリア」
『…え?』
マリアに一言言葉を言えば急に横抱きにマリアの身体を持ち上げる。
ふらついていたはずのふらつきはなくなり、浮遊感に変われば『ちょ…っと、ディーノ…』とマリアは慌ててディーノを見上げた。
「どうした…?」
『歩けるから…降ろして…』
か細いマリアの声がディーノの耳に聞こえるが、それでも「否、ふらついてるしこっちの方が早いだろ?」とディーノは横抱きにマリアを抱えたまま歩く。
『……降ろして』
「駄目だ、どうせふらついてまともに歩けねぇーんだから大人しく介抱されとけ」
『風邪移るから…』
「マリアみたいにやわじゃねぇーからそんなんで風邪なんてひくか」
降ろして欲しいのか必死にあーだこーだと思いつく限りの理由をマリアは述べるが、ディーノはそれを軽くあしらう。
普段であればディーノに支えられてロマーリオ達が待つ車に行くはずなのに、今日に限ってはディーノはマリアを降ろす気はないらしい。
それほどまでにマリアが歩けていないのだが、熱でうまく頭が回らないせいか降ろしてもらえない理由にすらマリアは気づかない。
これ以上言っても無駄だと言う事だけはどんなにうまく頭が回らなくても理解したためか、マリアはディーノに横抱きされたまま諦める。
『…ディーノの馬鹿…』
「馬鹿ってお前な…」
『……ありがと』
こんな時でも素直に“ありがとう”だけの言葉が言えず悪態を付いてしまうマリア。
本当は心細く、一人で大丈夫だろうかと不安で仕方がなかったのだ。
体調を崩すとどうしても気が滅入ってしまう上に回らない頭で何をしなければいけないのかを考えるのは流石に負担になってしまう。
誰か助けてと言える事も言う事も出来ないマリアは、一人で抱えるしかないと思っていた。
だが体調を崩す度にどうしてか分からないがディーノがタイミングよく訪ねてくる。
(ディーノって…ヒーローみたいだなぁ…)
毎回ディーノに救われている事を思えば、まるでディーノはヒーローの様だと思ってしまう。
普段はへなちょこなのにと言ってしまうが、今日に限って普段よりもかっこよくマリアの目にディーノが映る。
そんな風にマリアが思っているとは知らないディーノは「鍵閉めれそうか?」とマリアに訊ね、マリアが鍵をかけたのを見ればロマーリオとトマゾが待つ車の方へと歩いて行った。
「…ほんと何であれで付き合ってないのかこの世の不思議でしかないよな…」
「そうですねぇ…あの域でしたら普通に付き合ってますからね」
そんな二人を、マリアの家から少し離れた所に車を停めているロマーリオとトマゾはポツリと呟いた。
何も知らない人間が今の二人の姿を見れば、彼氏が彼女の事を心配して病院に連れて行っている場面と答えるに違いない。
街の住人も「てっきり付き合ってるものかと思ってたけどまだなの?」と不思議がる人も多々居る程だ。
幼馴染だからで通る域はとっくに超えている物だと傍から見れば思うのだが、当の本人達からしたらよくある話で片づけてしまうだろう。
「…所でトマゾ…お前さっきから何やってんだ?」
「見て分からないんですか?ロマーリオ。ボスとお嬢の成長過程を記録しているんですよ」
そう言いながら何処に隠していたのか一眼レフカメラを二人に向けては写真を撮る…否、盗撮をする。
成長過程って何だ?もう二十歳超えてるぞその二人と思うと同時に、お前仕事中だろ?とロマーリオは思わずツッコもうとしたが、ツッコんだところで無意味なのだ。
普段のトマゾは真面目だが、マリアとディーノが絡めば話は変わる。
絶好のシャッターチャンスを逃すまいと、トマゾは嬉々として写真を撮る手を止めない。
「…ボスとお嬢にバレたらトマゾお前怒られるぞ…?」
「大丈夫ですよロマーリオ…その時はこの写真を二人にそれぞれ渡して言いくるめるだけですから」
ディーノがマリアに好意を抱いている事も、マリアがディーノに好意を抱いている事も分かり切っている事なのだ。
写真がバレて怒られたとしてもトマゾは痛くも痒くもない。
バレたらバレた時に「この写真あげますからお嬢(ボス)には黙っててくださいね?」とそれぞれ2人に渡してしまえば問題ないのだ。
何度かバレた時にこの手法で乗り切っているため写真を渡した所でお互い嬉しそうに写真を見ているのをトマゾは何度も見ている。
勿論自分用にもトマゾは黙って現像しているのはマリアもディーノも知らない。
お互いが持っている写真一枚ずつだけだと思っているのだ。
大好きなマリアとディーノの喜ぶ反応を見つつ自分の私腹を肥やす…末恐ろしい男だと思いながら、ロマーリオはひっそりと溜息を付いた。
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