不器用な恋
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「おいおい、返事はどうしたんだよマリア?」
何も言わずただただディーノを見つめるマリアに、ディーノは笑いかける。
『……ディー……ノ…?』
ようやく、絞り出すようにして紡いだ言葉も…掠れ掠れになってしまった。
「あんまり心配かけさせんなよな…つか、また昔みたいに“転んだ”のか?」
『……な…んで…』
「昔も良くそうやって“転んで”ただろ?」
(…あぁ、バレてたんだ…)
ディーノの言葉に、マリアはぎゅっと唇の中を噛み締める。
幼い頃にディーノについた嘘。
どれだけ幼くて無知と言えど、やはりディーノは騙せていなかった様だ。
否、よく思い返してみればあの場に居た誰も騙せていなかったはずだ、手当も転んだ時にする手当とは違ったのだから。
それでも、ディーノ位は騙せていただろうと…罪悪感を抱きながら心の中で何度も謝罪をしていた。
最初から、騙されたふりをして何時も手当をしてくれたディーノ。
(それでも…“転んだ”真相について触れずに、騙されてくれてたんだ…)
ぼんやりとそんな事を思い出しているマリアを見ながら、ディーノはふとマリアの左足へと視線を向ける。
致命傷とまではいかないが、マリアの足からは血が流れていた。
身体を床にぶつけれ出来た傷でも擦りむいて出来た物でもない。
見覚えのある痕にディーノは瞬時に理解すれば「…マリアその足…」と、マリアの足を見た瞬間、殺気立つのがマリアですら分かってしまう。
マリアですら思わず肩をビクつかせてしまいそうになるほど、ディーノの殺気に驚いてしまいそうになる。
普段のへなちょこで温厚なディーノしか、マリアはほとんど見た事が無いのだ。
「…撃ったのか…」
「撃ったさ、コイツのせいで今こんな状況になっているからな」
ディーノの言葉に、アレッシオは平然と答える。
こんな状況と言うのが今のマリアには分からないが…先ほどの言葉から恐らくキャバッローネ・ファミリーとヴァリアーがこの屋敷に乗り込んできていると言う事だろう。
尚且つ状況はキャバッローネ・ファミリーとヴァリアーが優勢で、ヴァルッセファミリーは追い込まれているようだ。
ディーノの背後にはロマーリオやトマゾ、アベーレの姿がマリアの目に映る。
ヴァリアーも来ているらしいが…恐らくスクアーロとルッスーリアの事だろうとマリアは解釈する。
もしかしたら違うかもしれないが…それでもマリアはそう思ってしまうのだ。
「そもそも、何なんだ貴様らは!勝手に乗り込んで来て好き放題しおって!!」
「それはこっちの台詞だ。マリアはキャバッローネ・ファミリーのシマの住人で…俺の大事な幼馴染だ、乗り込まれても何らおかしくない状況を作ったのはアンタ達ヴァルッセファミリーの方だぜ?」
そう言いながらディーノはグッと、握っている鞭に力が込められる。
とっとマリアから離れろと言わんばかりの目でアレッシオを睨むが、アレッシオは鞭を払いのけてはマリアに近づきその頭に銃を突きつける。
「たかが幼馴染を助けるために普通こんな所に乗り込む馬鹿はいないだろう」
「悪いが俺にとっちゃあたかがじゃねぇーんだよ!」
――――しぱぁぁあンッ!
鞭で床を打ち、払いのけられた鞭をしならせる。
それを合図にディーノの背後に居たロマーリオやトマゾ、アベーレがアレッシオに向けて銃を構える。
「お嬢を離してもらおうか?」
「同感です、その汚らわしい手でお嬢に触れないでください。お嬢が穢れてしまうでしょう?」
ロマーリオとトマゾからも殺気立った気配を感じたのか、アレッシオは苦虫を嚙み潰したような表情で動こうとはしない。
「それに…俺はてめぇに借りを返さねぇーといけねぇーしな」
「…?借りだと?そんな物身に覚えにないが」
「てめぇーに無くても、俺にはあるんだよ!!」
――――しぱぁぁあンッ!
殺意のこもった視線をアレッシオに向けては再び鞭をしならせる。
一歩、一歩とゆっくりディーノ達はアベーレに近づいていく。
だがアレッシオは動けずにマリアの頭にただ銃口を突きつけているだけだ。
マリアはアレッシオに足を撃たれ、歩けないのだ…それに伴いアレッシオもマリアを人質に取ってはいるが動くことが出来ない。
「来るな!!!」
「ならマリアを返せ」
「ふん…そんな事、できるはずがないだろう!!!」
マリアの頭に突きつけている銃の引き金をゆっくり引こうとしているのが見え、ディーノ達は近づくのを止める。
流石にこれ以上近づけば、アレッシオがマリアを撃つと思ったのだろう。
(マリアでも…少しは役に立つじゃないか…)
ディーノ達の行動を見てにやりと笑い、アレッシオが口を開こうとした…その瞬間。
「ゔお゙ぉぉぉおおい!ブラックリスト入りしているマフィアのボスって言う割には、背後ががら空きだぜ!!!」
何処からともなくけたたましい声が聞こえると同時に、アレッシオがマリアの身体を勢いよく突き飛ばしその場から離れる。
突き飛ばされた拍子にマリアの身体はフラスコ等が置かれている棚へと直撃する…が、その痛みは何処にもない。
何が起こったのだろうと思ったと同時に、ガッチリとした身体がマリアを守るように支えている。
「ふふ、危機一髪って所かしらね~」
聞き覚えのある声に思わずマリアは後ろを振り向く。
振り向けば黒いヴァリアーの隊服に身を包み、派手なオレンジ色のファーがマリアの目に付いた。
どうしてと言わんばかりにマリアの目が大きく見開き、『…ルッスー…リア?』とマリアを支えるルッスーリアの姿が翡翠色の瞳に写る。
『どうして…』
「どうしてって…マリアちゃんの撒いた餌に私達は釣られただけよ?」
優しいルッスーリアの声色に、「それに、私もスクアーロも…マリアちゃんの事を助けたかったんだもの」と言葉を付けたしながらマリアを横抱きに抱える。
マリアの足から垂れ流れる血が付くからと言葉にするものの、ルッスーリアはそんな事お構いなしに「気にしないで」と言いながらマリアをディーノの方へと運んでいく。
「ゔお゙ぉい!ちょこまかと逃げんじゃねぇーよ!」
「フン、逃げない馬鹿が何処にいる?」
運ばれる最中、ふとスクアーロの方を見ればスクアーロがアレッシオ目がけて剣を振りかざしていた。
四十代後半と言えど、アレッシオも一応ブラックリスト入りしているマフィアのボスだ。
麻薬や人身売買だけでなく、実力もある事がスクアーロと交戦している中でうかがえる。
スクアーロの攻撃を難なく交わしながらも、臆する事無くスクアーロ目がけて銃を撃つ。
―――パァァンッ!
――――パァァンッ!!
放たれた銃弾を弾く様に、トマゾやアベーレがスクアーロを援護しながらアレッシオ目がけて銃を放つっていく。
「ゔお゙ぉぉおい!跳ね馬んとこの奴ら邪魔すんじゃねぇー!!!」
「いくらヴァリアーの人と言えど、こればかりは私の獲物ですよ?邪魔するなはこちらの台詞です」
「トマゾ先輩、今はヴァリアーの人といがみ合ってる場合じゃないですよ?!」
慌ててアベーレがトマゾに言うが、聞く耳が無いのか「アベーレ、黙りなさい」とトマゾのドスの効いた声が聞こえた。
(あぁ~~~もう、トマゾ先輩変にスイッチ入ってるじゃないですか?!)
内心そんな事を思いながらも、アベーレはトマゾの言葉など無視して「ちゃんと協力してください!」とトマゾを諭している。
珍しい光景に思わずマリアは目を見開いてしまうが状況が状況なのだと思いあまり深く考えるのを止めた。
そんな事を考えていると不意にルッスーリアに横抱きにされていたはずのマリアの身体が、ディーノへと渡される。
「悪いな、ルッスーリア」
「良いのよ、貴方達が引き付けてくれたお陰で早々にマリアちゃんをあいつから離す事ができたんだもの」
そう言ってルッスーリアはディーノにまるでウィンクを飛ばすかのように笑う。
ディーノとルッスーリアの会話から、どうやら一応作戦はあったようだ。
マリアを助けるために視線をディーノ達に向けさせ、スクアーロとルッスーリアがその間に背後からアレッシオに近寄りマリアを救出する…差し詰めそんなところだろう。
「私もスクアーロ達の加勢にでも行きましょうかね、すぐ終わらせるから…マリアちゃんは跳ね馬と少し待っててね」
マリアに笑いかけながらルッスーリアが背を向ければ、彼もまた怒っているのだろう。
後ろから見ただけでも殺気立っているのがマリアにも分かる。
「ボス、早くお嬢の止血しねぇーと」
「あぁ、分かってるってロマーリオ」
ロマーリオの言葉にディーノは頷き、アレッシオ達が交戦している場所から離れるために走る。
ディーノに横抱きにされたまま、マリアは『ディーノ?』と名を呼ぶ。
先程の掠れ掠れの呼びかけではない、ちゃんと名を呼べば、横抱きにしているマリアの身体をぎゅっとディーノは抱きしめる。
眉間に皺を寄せたまま「また…また俺を置いてどっか遠くに行くかもしれねぇーって…心配しただろ…馬鹿マリア…」とマリアだけに聞こえる声でディーノは言葉を放つ。
その声は少し震えており、そう思ったディーノの気持ちもマリアは分からなくないのだ。
十七年前、マリアがアレッシオに捨てら四年間ディーノと離れ離れになった時の事を言っているのだろう。
『…馬鹿ね、…そんな事…しないわよ…』
マリアはそう言いながら力なく笑った。
あの時とは違うのだ、そう簡単にディーノを置いて遠くへ等行く気はマリアにはこれっぽっちも無い。
離れ離れになった四年間がディーノにとって苦痛だったように、マリアにとっても苦痛だったのだ。
大丈夫と言わんばかりにマリアを横抱きにしているディーノの胸に、マリアはもたれかかった。
2024/11/06
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